WAX&THINK
検索

If I Ruled the World (Imagine That) 和訳・意味・スラング解説 | Nas feat. Lauryn Hill

アーティスト
Nas feat. Lauryn Hill
リリース年
1996
プロデューサー
Trackmasters
収録アルバム
It Was Written
エリア
NY
BPM
90
サンプル元
Whodini "Friends" (1984) / Kurtis Blow "If I Ruled the World" (1985) / The Delfonics "Walk Right Up to the Sun" (1971)

この記事の見どころ

  1. 01 "Black diamonds and pearls"——黒人の命と文化を最高級の宝石に例えたLauryn Hillの慈愛に満ちたフックが、ストリートの暗部を歌うNasのリリックを神聖な領域へ引き上げる
  2. 02 Whodini「Friends」(1984)・Kurtis Blow「If I Ruled the World」(1985)・The Delfonics「Walk Right Up to the Sun」(1971)——80年代HHとフィラデルフィア・ソウルを一曲に接続した重層的サンプリング芸術
  3. 03 アルバム『It Was Written』を全米ビルボード1位・RIAAトリプルプラチナに導いたリードシングル——"セルアウト批判"を乗り越えてヒップホップ史の古典となった逆転劇
解説

■この曲の意味(要約)

1996年、Nasのセカンドアルバム『It Was Written』のリードシングル。「もし自分が世界を支配したら」という究極の仮定法(ユートピア)を掲げながら、その理想郷を思い描くことで、逆説的に黒人社会が直面するディストピア的現実——大量投獄・貧困・警察暴力——を浮き彫りにする構造を持つ。Trackmasters(Poke & Tone)がWhodiniとKurtis Blowへの敬意をサウンドに込め、Lauryn Hillのメロディアスなコーラスがハードなリリックを天上の次元へと引き上げた。

■主なスラング・キーワード

Attica
ニューヨーク州アッティカ刑務所。1971年大暴動の現場であり、黒人の大量投獄・人権蹂躙の象徴。
Jake
警察官のスラング。不当職質・暴力を加える権力機関への蔑称。
Q45 Infinit'
日産インフィニティQ45。90年代ストリートで成功の象徴とされた高級セダン。
B Felony
ニューヨーク州刑法のClass B重罪(武装強盗・麻薬密売など)。
Black diamonds and pearls
社会的に価値を貶められがちな黒人の命・文化を最高級の宝石に例えたLauryn Hillのメタファー。
Lost Tribe of Shabazz
ネイション・オブ・イスラムの教義における黒人の起源。マルコムXの本名「Malcolm Shabazz」とも関連。

■歌詞和訳・解説

Intro — Nas

Life
I wonder
Will it take me under?
I don't know

人生
俺は考える
飲み込まれてしまうだろうか?
わからない

解説を見る
イントロの独白。人生への根本的な不安と疑問を短いフレーズで提示し、以下の「もし世界を支配したら」という仮定法への入口を作る。

Verse 1 — Nas

Imagine smokin' weed in the street without cops harassin'
Imagine goin' to court with no trial

警官に嫌がらせされずに路上でマリファナを吸うことを想像してみろ
裁判なしに法廷に行くことを想像してみろ

解説を見る
「Imagine(想像しろ)」という命令形で始まる仮定法の核心。「no cops harassin'」は黒人男性への日常的な警察の嫌がらせへの抗議。

Lifestyle, cruisin' blue Bahama waters
No welfare supporters, more conscious of the way we raise our daughters

青いバハマの海をクルーズするライフスタイル
生活保護頼りではなく、娘たちの育て方にもっと意識的な

解説を見る
「blue Bahama waters」は貧困からの解放の夢。「raise our daughters」——ゲットーで失われがちな父親の役割への言及。

Days are shorter, nights are colder
Feelin' like life is over, these snakes strike like a cobra

日は短く、夜は冷える
人生が終わったように感じる、これらの蛇はコブラのように噛みつく

解説を見る
ユートピアの夢想から現実に戻る瞬間。「snakes(蛇)」は裏切り者・敵——コミュニティ内外からの脅威。

The world's hot, my son got knocked, evidently
It's elementary, they want us all gone eventually

世界はヤバい、仲間は逮捕された、明らかに
簡単なことだ、連中は俺たちを全員消したいんだ

解説を見る
「got knocked(逮捕された)」はストリートスラング。「they want us all gone」——システムによる黒人コミュニティの抹消への怒り。

Troopin' outta state for a plate of knowledge
If coke was cooked without the garbage, we'd all have the top dollars

知識を求めて州外まで突き進む
コカインが純粋に調理されていたら、俺たちは皆トップの金を手にしていた

解説を見る
「plate of knowledge(知識の皿)」——教育を食料に例えるメタファー。「coke without the garbage」は純粋なコカインへの言及で、不純物を混ぜて利益を下げるディーラーへの批判。

Imagine everybody flashin' fashion. Designer clothes
Lacin' your clique up with diamond Roles

みんながファッションを誇示することを想像してみろ。デザイナーの服
仲間にダイヤモンドのロレックスを身につけさせる

解説を見る
「diamond Roles」——ダイヤを散りばめたロレックス。90年代Hip Hopの成功の象徴。仲間全員を豊かにするというユートピア的ビジョン。

Your people holdin' dough, no parole, no rubbers
Goin raw, imagine law with no undercovers

仲間が金を持つ、仮釈放もコンドームも要らない
生でやれる、覆面警官のいない法律を想像してみろ

解説を見る
「no parole(仮釈放なし)」は自由な状態。「no undercovers(覆面警官なし)」——警察の監視のない社会という過激なユートピア像。

Just some thoughts for the mind
I take a glimpse into time, watch the blimp read "The World Is Mine"

ただの心の中の思考
時間の中を覗いて、飛行船が「世界は俺のもの」と書いているのを見る

解説を見る
「The World Is Mine」はNasの『Illmatic』収録曲への自己参照。飛行船(blimp)に自分の名前を書かせる——権力と成功の究極的な象徴。

Chorus — Lauryn Hill & Nas

If I ruled the world (Imagine that)
I'd free all my sons (I love 'em, love 'em, baby)

もし俺が世界を支配したら(想像してみろ)
すべての息子たちを解放する(愛してる、愛してる、ベイビー)

解説を見る
Kurtis Blow「If I Ruled the World」(1985年)のタイトルを継承。「free all my sons」はアッティカを始めとする収監された黒人男性たちへの解放宣言。

Black diamonds and pearls (Could it be, if you could be mine, we'd both shine?)
If I ruled the world (Still livin' for today, in these last days and times)

黒いダイヤモンドと真珠(もしあなたが私のものになれれば、二人とも輝けるだろうか?)
もし俺が世界を支配したら(この終末の時代、今日という日のために生きている)

解説を見る
「Black diamonds and pearls」——黒人の命・文化を最高級の宝石に例えた楽曲最美のメタファー。「last days and times」は終末論的な時代認識——それでも今日を生きる意志。

Verse 2 — Nas

The way to be: Paradise life, relaxin'
Black, Latino and Anglo-Saxon. Armani Exchange, the Range

あるべき姿:天国のような生活、くつろいで
黒人、ラテン系、アングロサクソン系。アルマーニ・エクスチェンジ、レンジローバー

解説を見る
人種横断的なユートピア——「Black, Latino and Anglo-Saxon」が同じ豊かさを享受する世界。アルマーニとレンジローバーは90年代の成功の象徴。

Cash, Lost Tribe of Shabazz, free at last
Brand new whips to crash, then we laugh in a iller path

金、シャバズの失われた部族、ついに自由だ
新車を乗り回してクラッシュさせ、そしてもっとクールな道で笑う

解説を見る
「Lost Tribe of Shabazz」はネイション・オブ・イスラムの教義で黒人の起源とされる部族。「free at last」はMLKの演説からの引用。

The Villa house is for the crew — how we do
Trees for breakfast. Dime sexes and Benz stretches

ヴィラは仲間のため——俺たちのやり方
朝食にマリファナ。セクシーな美女たちとベンツのストレッチリムジン

解説を見る
「trees」はマリファナのスラング。「Dime sexes」は外見が10点満点の女性。「Benz stretches」はベンツのリムジン——90年代Hip Hopのラグジュアリーの頂点。

So many years of depression make me vision
The better livin', type of place to raise kids in

何年もの貧困が俺に夢を見させる
より良い生活、子供を育てるのに適した場所を

解説を見る
「years of depression(長年の抑圧・貧困)」——ゲットーでの生活の精神的重さ。夢想の動機が個人の欲望ではなく集団的な解放への渇望であることを示す。

Open they eyes to the lies, history's told foul
But I'm as wise as the old owl, plus the Gold Child

歴史が語る嘘に目を開かせる、卑劣な歴史
でも俺は老いたフクロウのように賢い、そして「ゴールドチャイルド」だ

解説を見る
「history's told foul(歴史は汚く語られてきた)」——白人の視点から書かれた奴隷制以来の歴史の改竄への告発。「Gold Child」はNasが自分自身につけた称号。

Seein' things like I was controllin', clique rollin'
Trickin' six-digits on kicks and still holdin'

コントロールしているかのように物事を見る、仲間と動く
スニーカーに6桁の金をつぎ込んでもまだ金を持っている

解説を見る
「six-digits on kicks」——スニーカーに10万ドル以上を使う極端なフレックス(誇示)。それでも財産がなくならない無限の富というユートピア像。

Trips to Paris, I'd civilize every savage
Give me one shot, I turn trife life to lavish

パリ旅行、俺はすべての野蛮人を文明化する
一度チャンスをくれれば、みじめな人生を豪華に変える

解説を見る
「civilize every savage」——「savage(野蛮人)」という白人が黒人に向けたレッテルを逆転させ、Nasが黒人コミュニティを「文明化」するという意味で使用。「trife to lavish」は貧困から豪華への転換。

Political prisoners set free, stress free
No work release, purple M3's and jet skis

政治犯を解放、ストレスフリー
就労釈放もなし、パープルのBMW M3とジェットスキー

解説を見る
「political prisoners(政治犯)」——Mumia Abu-Jamalら、システムに不当投獄された黒人活動家への言及。「purple M3's」はBMWのスポーツカー——90年代NY富裕層の象徴。

Feel the wind breeze in West Indies
I'd let Coretta Scott-King mayor the cities, and reverse fiends to Willies

西インド諸島の風を感じる
コレッタ・スコット・キングを市長にし、ジャンキーをウィリーたちに変える

解説を見る
「Coretta Scott-King」——MLKの妻であり公民権運動の継続者。女性のリーダーシップへの尊重。「reverse fiends to Willies」はドラッグ中毒者(fiends)を一般的な正常な男性(Willies)に変えるという、薬物問題への根本的解決の夢想。

It sound foul, but every girl I meet'd go down-town
I'd open every cell in Attica, send 'em to Africa (Africa)

卑猥に聞こえるかもしれないが、会う女性全員がダウンタウンに行く
アッティカのすべての独房を開け、みんなアフリカへ送る(アフリカ)

解説を見る
「Attica(アッティカ刑務所)」——1971年に暴動が起きた大量投獄の象徴。「send 'em to Africa」——Pan-Africanismの理想、黒人のアフリカへの帰還。マーカス・ガーベイのBack-to-Africa運動への参照。

Bridge — Lauryn Hill

And then, we'll walk right up to the sun, hand in hand (Hand)
We'll walk right up to the sun, we won't land (Land)

そして、俺たちは手を取り合って太陽に向かって歩く(手)
太陽に向かって歩く、着地しない(着地)

解説を見る
The Delfonics「Walk Right Up to the Sun」(1971)のサンプリング元へのオマージュ。重力を超えた解放——物理的な限界を越えた自由の象徴。

Verse 3 — Nas

You love to hear the story how the thugs live in worry
Ducked down in car seats, heat's mandatory

お前たちはサグたちがどれだけ心配して生きているかを聞くのが好きだ
車のシートに身を屈め、銃は必須

解説を見る
「heat's mandatory(銃は必須)」——ゲットーの生存のためにいつも武装しなければならない現実。ユートピアの夢想から現実のストリートへ戻る第3バース。

Runnin' from Jake, getting chased, hunger for papes
These are the breaks, many mistakes go down outta state

Jakeから逃げ、追われ、金に飢える
これが現実だ、多くの失敗が州外で起きる

解説を見る
「Jake」は警察のスラング。「hunger for papes(金に飢える)」——経済的絶望が犯罪の動機になることへの言及。「these are the breaks」はKurtis Blow「The Breaks」(1980)への参照——現実の苦さを受け入れること。

Wait, I had to let it marinate, we carry weight
Tryna get laced, flip the ace, stack the safe

待て、じっくり考えなければ、俺たちは重荷を背負っている
豊かになろうとして、エースをめくり、金庫に積み上げる

解説を見る
「let it marinate(じっくり考える)」——熟成させる、深く思考するのスラング。「flip the ace(エースをめくる)」はギャンブル・ドラッグディール両方の文脈で使われる成功への賭け。

Millionaire plan to keep the Gat with the cocked hammer
Makin' moves in Atlanta, back-and-forth scrambler

百万長者の計画、ハンマーを起こした銃を持ち続ける
アトランタで動き回り、行ったり来たりするスクランブラー

解説を見る
「Gat with the cocked hammer(ハンマーを起こした銃)」——発射準備完了の銃。常に危険に晒されているストリートの現実。「scrambler(スクランブラー)」は麻薬の売人として動き回る人間。

'Cause you could have all the chips, be poor or rich
Still, nobody want a nigga havin' shit

なぜならすべてのチップを持っていても、貧乏でも金持ちでも
それでも、誰も黒人が何かを持つことを望まない

解説を見る
アメリカにおける人種差別の本質——どれだけ成功しても、システムは黒人の富を認めたくないという構造的人種主義への怒り。

If I ruled the world and everything in it
Sky's the limit, I'd push a Q45 Infinit'

もし俺が世界とその中にあるすべてを支配したら
空が限界だ、Q45インフィニティを乗り回す

解説を見る
「Sky's the limit(空が限界)」——可能性に上限はないというヒップホップの哲学。「Q45 Infinit'」はインフィニティQ45——90年代の成功の象徴であるラグジュアリーセダン。

It wouldn't be no such thing as jealousies, or B Felony
Strictly livin' longevity to the destiny

嫉妬もB級重罪も存在しない
ひたすら運命に向かって長生きする

解説を見る
「B Felony(Class B重罪)」——武装強盗・麻薬密売など。Nasはコミュニティ内の嫉妬こそが真のB級重罪と定義する。「longevity to the destiny(運命への長寿)」——銃弾か刑務所かという短命リスクを超えた長期的な目標設定。

I thought I'd never see, but reality struck
Better find out before your time's out, what the fuck?!

見ることはないと思っていたが、現実が打ちのめした
時間が切れる前に気づいた方がいい、何てこった!

解説を見る
バースの締めくくり——夢と現実の衝突。「before your time's out(時間が切れる前に)」はストリートでの若死にへの言及。ユートピアの夢想が現実の緊急性と交差する瞬間。

■文化的背景

本作がリリースされた1996年は、2Pac率いる西海岸(Death Row)とThe Notorious B.I.G.率いる東海岸(Bad Boy)の東西抗争が頂点に達した年。Nasはあえて「平和とユートピアを希求するアンセム」を投下し、当初「セルアウト」と批判されたが、時を経て「ストリートの純粋主義とメインストリームの商業性を完璧に両立させた青写真」として不動の評価を確立した。アルバム『It Was Written』をBillboard 200初登場1位・RIAAトリプルプラチナに導いた転換点の一曲。

アーティストについて

Nas

Queensbridge, New York · 1991–

クイーンズブリッジ出身のNasir Jones。1994年「Illmatic」でデビューし、歌詞の密度と詩的表現力でヒップホップ文学の地平を開いた。

同アーティストの記事