Slang Dictionary
crack
クラック
まず結論
歌詞の crack は、多くの場合クラック・コカインのことです。粉のコカインを加工して吸えるようにした、安くて依存性の強い塊です。
1980年代から90年代初めのアメリカの都市を描いたラップには、この crack が売る側、買う側、巻き込まれる側のすべての視点で出てきます。
ただし crack a smile(笑みを浮かべる)や crack a beer(缶ビールを開ける)のような普通の英語も多いので、動詞か名詞かを先に見ます。
なぜラップにこれほど出てくるのか
1980年代から90年代初めにかけて、アメリカの大都市でクラックの使用が急増しました。この時期は crack epidemic(クラックの大流行)と呼ばれています。
安く小分けにして売れるため街角での売買が広がり、暴力や逮捕も増えました。その街で育ったラッパーにとって、crack は身近すぎる現実でした。
Complex の記事は、クラックの時代を歌った曲として、1988年の Public Enemy「Night of the Living Baseheads」を挙げています。中毒者の姿を映したビデオが音楽番組で流れ、ラップがその現実を伝える役目を担ったと書いています。
crack と一緒に出てくる語
crack head、crack addict は中毒者、crack house はクラックを売ったり吸ったりする家です。crack corner なら売人が立つ街角になります。
cook up crack は粉のコカインを加熱してクラックに加工すること。歌詞では、売る側の手際として語られることが多い表現です。
ドラッグではない crack
動詞の crack は「割る、ひびを入れる」が基本で、そこから crack a joke(冗談を言う)、crack a smile(笑みを浮かべる)、crack open a beer(ビールを開ける)が生まれています。
名詞でも a crack は「割れ目」で、take a crack at は「試しにやってみる」です。crack の前に a があるか、後ろに目的語があるかで、ドラッグの話かどうかがかなり絞れます。
語源と背景
crack は古英語から続く「割れる、パチッと鳴る」という意味の語です。
ドラッグの crack という名前は、加熱したときにパチパチと音を立てることから来た、と Wikipedia や医学用語集の MeSH は説明しています。
一方で、乾くときに塊にひびが入るからだという説明もあり、名前の由来には諸説あります。
ニューヨークでクラックが大きな問題として表に出たのは1980年代の前半から半ばで、アメリカ麻薬取締局の資料は市内での初出を1983年12月としています。
例文
例文は意味と使い方を示すための解説用の作例で、実際の歌詞の引用ではありません。歌詞の引用は「曲での使われ方」に載せています。
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1.The neighborhood changed when crack came in.
クラックが入ってきてから、この辺は変わってしまった。
不可算名詞として、ドラッグそのものを指す使い方です。
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2.He grew up during the crack era.
彼はクラックが蔓延した時代に育った。
crack era はその時代をまとめて指す言い方。ヒップホップの歴史を語る記事でもよく見かけます。
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3.She cracked a smile when she saw the cake.
ケーキを見て、彼女は思わず笑顔になった。
crack a smile は、こらえていた表情がほころぶこと。ドラッグとは関係ありません。
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4.Let's crack open a cold one.
冷えたのを一本開けよう。
crack open は缶や瓶を開けること。a cold one は冷えたビールのことです。
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5.I'll take a crack at fixing it.
ちょっと直せるかやってみる。
take a crack at は「試しにやってみる」。気軽に挑戦するときの言い方です。
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6.That show is like crack, I can't stop watching.
あの番組、中毒性がやばくて止まらない。
「やめられないほどハマるもの」のたとえ。軽い冗談ですが、重い語なので相手は選びます。
この曲ではこう使われていた
解析に使ったヒップホップ約440曲の歌詞のうち、crack を含む曲は67曲で、16人中14人のラッパーに出てきました。Ghostface Killah や Nas の曲に特に多く出てきます。出現数の多い順に並べると、内訳はGhostface Killah 10曲、Nas 9曲、Kool Keith 7曲、MF DOOM 7曲、Kool G Rap 6曲です。
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"The fiends fight to get crack"
中毒者たちがクラック欲しさに争う、という街の描写です。fiend とセットで、1990年代初めのクイーンズの空気がそのまま伝わってきます。
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Kool G Rap 「Streets of New York」
"they got crack addicts with automatics"
中毒者が自動小銃まで持っている、という街の荒れ方を描いた一節です。crack addict は中毒者を指す、ニュースでも使われた言い方です。
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GZA 「0% Finance」
"ran a crack corner"
クラックを売る街角を仕切っていた、という意味です。corner は売人が立つ場所で、crack と組み合わさると商売の縄張りを指します。
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Ghostface Killah 「Kilo」
"powder, cooked up crack"
粉のコカインと、それを加熱して作ったクラックを並べています。売り物の種類を数え上げる、売る側の目線の描写です。
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Nas 「Get Down」
"I wanna crack a smile"
こちらはドラッグではなく、笑みを浮かべるという意味の crack です。動詞の後ろに a smile が来ているのが見分けどころです。
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MF DOOM 「Gas Drawls」
"I crack brew for two more"
brew はビールのことで、crack は缶や瓶を開ける動作です。ドラッグの語としての crack を知っていると、一瞬ドキッとさせる言葉選びにも見えます。
似た表現との違い
- rockクラックの塊
- rock はクラックの一粒を指す言い方。crack はドラッグの種類そのものを指します。
- dope麻薬
- dope は麻薬全般、特にヘロインを指すことが多い語。crack は特定の形のコカインに限られます。
- blow粉のコカイン
- blow や coke は粉末のコカイン。crack はそれを加工して吸えるようにしたものです。
- fiend中毒者
- crack fiend、crack head はクラックの中毒者を指す強い言い方です。
使うときの注意
- crackhead などの語は人をひどくおとしめる言い方です。歌詞では普通に出てきますが、会話で人に向けるのは避けたほうがいい語です。
- 動詞の crack は日常語なので、歌詞の crack をすべてドラッグと読むと、冗談や笑顔の場面を取り違えます。
- That's crack. のような「中毒になるほどいい」という冗談は、軽く聞こえても重い背景を持つ語だという点は頭に置いておきたいところです。
よくある質問
- crack と cocaine は同じものですか。
- どちらもコカインですが、形と使い方が違います。cocaine は粉末で、crack はそれを加工して煙として吸えるようにした塊です。
- crack era とはいつ頃のことですか。
- 主に1980年代から90年代初めを指します。都市によって広がった時期には差があります。
- crack にはドラッグ以外のスラングもありますか。
- wisecrack(気の利いた皮肉)の短縮として a crack を使うことがあります。冗談を言う crack a joke もこの流れです。
- クラックを題材にした有名な曲はありますか。
- Complex の記事は、Public Enemy「Night of the Living Baseheads」(1988年)や The Notorious B.I.G.「Ten Crack Commandments」(1997年)などを、クラックの時代を記録した曲として挙げています。