Slang Dictionary
bite
バイト
まず結論
ヒップホップの bite は「他人のライム、フロー、スタイルを盗む」「パクる」という意味です。
パクる人は biter と呼ばれ、ラッパーにとっては最大級の悪口の一つです。
オリジナリティを何より重んじるヒップホップの価値観が、そのまま一語に詰まっています。
何を bite するのか
対象になるのは、歌詞の一節、韻の踏み方、声の出し方、ステージでの動き、服装まで、その人らしさを作っているもの全般です。
bite someone's style(スタイルをパクる)、bite my rhymes(おれのライムをパクる)のように、目的語に盗まれたものを置きます。
bite off 〜 という形もあり、こちらは「〜からパクる」と出どころを示す言い方です。
影響と盗用の境目
ヒップホップはサンプリングや引用の文化でもあるので、何もかもが bite になるわけではありません。
元ネタへの敬意が見える引用はオマージュとして歓迎されることもあります。一方で、出どころを隠して自分の手柄にすると bite として責められます。
その線引きはいつも議論の的で、だからこそ歌詞の中で biter を名指しで批判する場面が繰り返し出てくるのだと思います。
「かむ」の bite と見分ける
犬がかむ、食べ物にかぶりつく、唇や舌をかむといった場面は、もちろん本来の意味です。
rhyme、style、flow、copy、imitate といった語が近くにあれば、パクりの bite と考えてまず間違いありません。
語源と背景
bite は古英語の bītan(かむ)にさかのぼる基本語です。
古い英語の俗語には、bite に「だます」「巻き上げる」という意味もあったことが Wiktionary に記録されています。
他人の作品を盗むという意味の bite は、Wiktionary では AAVE のスラングとして載っています。ニューヨークのグラフィティの世界でも、他人の作風を写して自分のものとすることを biting と呼んで嫌いました。
ラップとグラフィティのどちらが先かを示す確かな資料は見つかりませんでした。ただ、1986年の Rakim の曲にはすでに biting が出てきていて、その頃には説明不要の言葉だったことがうかがえます。
例文
例文は意味と使い方を示すための解説用の作例で、実際の歌詞の引用ではありません。歌詞の引用は「曲での使われ方」に載せています。
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1.He bit my whole flow and didn't even give me credit.
あいつはおれのフローを丸ごとパクって、名前すら出さなかった。
give credit(クレジットする)を怠ることが bite の決定打になります。
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2.Nobody likes a biter.
パクリ屋は誰からも嫌われる。
biter は名詞。ラップの世界では強い悪口です。
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3.That logo is totally biting off a skate brand.
そのロゴ、完全にスケートブランドのパクリだ。
bite off 〜 で「〜からパクる」。音楽以外のデザインにも使われます。
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4.It's not biting if you're paying homage.
敬意を込めた引用ならパクリじゃない。
homage(オマージュ)との線引きを語る言い方です。
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5.Stop biting my style, find your own.
おれのスタイルをパクるな。自分のを見つけろ。
style と組み合わせるのが典型です。
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6.Careful, that dog will bite.
気をつけて、あの犬はかむよ。
こちらは本来の「かむ」です。
この曲ではこう使われていた
解析に使ったヒップホップ約440曲の歌詞のうち、bite を含む曲は27曲で、16人中11人のラッパーに出てきました。Kool G Rap や Rakim の曲に特に多く出てきます。出現数の多い順に並べると、内訳はKool G Rap 4曲、Rakim 4曲、Atmosphere 3曲、GZA 3曲、Cardi B 2曲です。
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Kool Keith 「Maxi Curls」
"Bite off Rakim"
Rakim からパクり、Big Daddy Kane をコピーする、と同業者をなじる一節です。bite off と copy が並んでいて、意味がほぼ言い換えになっています。
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Rakim 「No Omega」
"You bite like a parasite"
パクる相手を寄生虫にたとえています。かむ bite と寄生虫の吸いつくイメージが重なった、鋭い比喩です。
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Rakim 「Follow the Leader」
"biting and borrowing"
パクりと借用を並べて、他人の発明に頼る連中を批判しています。borrow(借りる)との頭韻も効いています。
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Rakim 「My Melody」
"biting, why borrow?"
盗むことも借りることもせず、という自分の姿勢を示す一節です。1986年の Rakim の初期作品で、すでに biting がオリジナリティの対義語として使われています。
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Kool G Rap 「Poison」
"Imitate off"
bite off に続けて imitate off と言い換えていて、bite が「まねる」と同じ意味であることが行の中で確認できます。
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Aesop Rock 「The Gates」
"Dog bite"
こちらは犬がかむ、の本来の bite です。パクりの意味ではありません。
似た表現との違い
- jack奪う・盗む
- jack は物を力ずくで奪うこと。bite は作品やスタイルといった形のないものを写し取ることです。
- sampleサンプリングする
- 既存の音源を切り取って使う制作手法。正当な手続きを踏めば bite とは呼ばれません。
- copycatまねっこ
- 一般的な英語の「まねをする人」。biter のほうが、盗みの悪質さを責める響きが強いです。
- wackダサい
- biter はしばしば wack とセットでけなされます。オリジナリティがない、という評価が同じ方向を向いているからです。
使うときの注意
- bite には「ひどい、最悪だ」(That bites.)という別のスラングもあります。パクりとは違う意味なので混同に注意が要ります。
- 人を biter と呼ぶのはかなり強い非難で、ラッパー同士なら確執の火種にもなりえます。
- a bite は「ひとくち」で、grab a bite(軽く食べる)はただの食事の誘いです。
よくある質問
- biter とはどういう意味ですか。
- 他人のライムやスタイルをパクる人のことです。ヒップホップでは、実力がない以上に恥ずかしいこととされる悪口です。
- サンプリングは bite になりますか。
- 普通はなりません。サンプリングは元の音を素材にして新しい曲を作る手法です。ただ、ライムやフローをそのまま写すと bite と呼ばれます。
- bite は今でも使われていますか。
- 使われています。音楽だけでなく、ファッションやデザインのパクりを指すときにも見かけます。
- That bites. の bite と同じですか。
- 別の用法です。That bites. は「最悪だ」「ついてない」という意味で、パクりとは関係ありません。