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The World Is Yours — Nas スラング・英語解説

The World Is Yoursに出てくるスラングや言い回しの意味を、和訳つきで一つずつ読み解きます。

アーティスト
Nas
リリース年
1994
プロデューサー
Pete Rock
収録アルバム
Illmatic
エリア
NY
サンプル元
Ahmad Jamal "I Love Music" (1970) / T La Rock & Jazzy Jay "It's Yours" (1984)

この記事の見どころ

  1. 01 Whose world is this? と The world is yours。中学で習う所有の言い方だけで組まれた、問いと答えのフック
  2. 02 dead presidents(紙幣)、Timbs、Big Willie、lampin' など、90年代NYの街ことばがぎっしり
  3. 03 Pete RockがAhmad Jamalのピアノを切り出したループと、T La Rockの声ネタ「It's yours」

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解説

■この曲で何を学べるか

「この世界は誰のもの?」と問われて、「お前のものだ」と返ってくる。Nasの1994年のデビューアルバム『Illmatic』に入っている、Pete Rockプロデュースの一曲です。

ピアノのループが静かに回るなかで、クイーンズブリッジの団地で育った20歳前後の青年が、地元のこと、亡くなった親友のこと、これから生まれてくる子どものことを順番に語っていきます。

英語の面で見ると、フックは whose / yours / mine という中学英語の所有表現だけでできています。そこに dead presidents(紙幣)、Timbs、Big Willie のような90年代NYの街ことばが重なっていく。

教科書の英語と街の英語の距離が、1曲のなかで一気に縮まる感覚があって、学習素材としてかなり優秀だと思っています。

■タイトルの「世界」は、団地の窓から見た世界

The world is yours という一句は、映画『スカーフェイス』(1983年)で、主人公が見上げる飛行船に流れる文字と同じフレーズです。

ただ、この曲の「世界」は、豪邸から見下ろす世界ではありません。曲の最後でNasは、クイーンズ、ブルックリン、スタテンアイランド、サウスブロンクスと、NYの地名を一つずつ呼んで「世界はお前らのものだ」と配って回ります。

フックでPete Rockが「お前のものだ」と渡し、Nasが「俺のものだ」と受け取る。そのやりとりが、最後は地区ごとの人たちへの呼びかけに置き換わって終わります。

ストーリーの流れ(まず曲全体をつかむ)

3つのバースとフックの繰り返しで、ひとりの青年の頭の中を順番にのぞいていく曲です。先に全体の流れを押さえておきます。

Verse 1は、部屋でシャンパンを飲みながら映画を観て、ノートに韻を書きつける夜の場面から始まります。街の景色と、ビートに引き込まれる感覚、そして「金を稼ぎに出る」という宣言で締まります。

Verse 2は、亡くなった親友とクイーンズの仲間への祈りから。荒れた街の暮らし、祈る年寄りたち、生まれてくる子どもの名前を考える場面が続きます。

Verse 3は、仲間のいない孤独と、それでも胸を張って街を歩く姿。最後はNYの地区を順に呼ぶアウトロで、「世界はお前らのもの」と締めくくります。

※本ページは批評・教育目的で、解説に必要な範囲の断片のみを引用しています。全歌詞の対訳は掲載していません。

学ぶ表現(スラング・韻・言葉遊び・AAVE)

ここからは、フックからアウトロまで曲の順番に表現を拾っていきます。上に短い引用と和訳、下に語の意味と使い方を置いています。

物騒な行や、語だけで説明が足りる行は、引用を省いて背景だけを書いています。▶を押すと、PVの該当箇所から再生できます(アウトロはPVに入っていないため▶はありません)。

Whose world is this? 所有を問う whose と、yours / mine の掛け合い

★ 文法/フック
Pete Rock+Nas(Chorus) 0:05

Whose world is this?
The world is yours, the world is yours

誰の世界だ?/世界はお前のものだ

▶ 曲の顔になっているフック。歌っているのはプロデューサーのPete Rockです。

1. whose(誰の)

1行目の頭の whose は「誰の」を問う疑問詞です。Whose bag is this?(これ誰のかばん?)と同じ形で、目的語に world を置いただけ。

中学で習う構文が、そのまま曲のタイトルとフックになっています。

2. yours と mine(所有代名詞)

答えの行末の yours は「あなたのもの」。フックの後半でNasは It's mine(俺のものだ)と3回重ねて返します。

Pete Rockが「お前のものだ」と渡し、Nasが「いや俺のだ」と受け取る。所有代名詞の yours と mine だけで、掛け合いの芝居が成り立っています。

3. It's yours(声ネタ)

フックの合間に挟まる短い「It's yours」は、T La Rock & Jazzy Jay の1984年の曲「It's Yours」から切り取られた声です。

10年前の曲の声を、新しいフックの相づちとして差し込んでいます。

語法 — どう使うか ▼

whose 〜 is this?: Whose idea was it?(誰の発案?)のように、名詞を後ろに置いて持ち主を尋ねます。

It's yours. は、物を渡すときの「どうぞ、あげるよ」としても日常的に使います。

Dom P と Gandhi 夜の部屋の小道具

★ 固有名詞/スラング
Nas(Verse 1) 0:22

I sip the Dom P, watchin' Gandhi 'til I'm charged, then

ドン・Pをすすり、ガンジーを観て気合いが入ったら

▶ Verse 1の一行目。ここからNasのひとり語りが始まります。

行頭の Dom P は、シャンパンのドン・ペリニヨン(Dom Pérignon)を縮めた呼び方。日本語の「ドンペリ」とほぼ同じ縮め方なのが面白いところです。

続く Gandhi は、1982年の映画『ガンジー』のこと。高級シャンパンと非暴力の指導者の伝記映画という、ちぐはぐな組み合わせが、この曲の主人公らしさを一行で見せています。

行末の 'til I'm charged は、直訳すると「充電されるまで」。和訳では「気合いが入ったら」としました。

電池のように、気持ちが満ちて書く準備が整うまで、というニュアンスです。

行の最後が then で切れて、次の行へそのまま流れ込みます。文を行末で閉じずにまたぐ書き方で、語りの勢いが途切れません。

語法 — どう使うか ▼

charged: I'm all charged up for the game.(試合に向けて気合い十分)のように、charged up の形で「やる気満々」を表します。

'til は until の口語的な短縮です。

book of rhymes 余白まではみ出すノート

★ 表現/比喩
Nas(Verse 1) 0:24

Writin' in my book of rhymes, all the words past the margin

ライムのノートに書く、言葉は余白をはみ出していく

▶ 前の行の then を受けて、書く場面へ移ります。

book of rhymes は、ラッパーがリリックを書きためるノートのこと。rhyme book とも言います。

後半の past the margin は「余白(margin)を越えて」。罫線の外までびっしり書き込んでいる様子で、言葉があふれて止まらない状態を、ノートの見た目で伝えています。

charged と margin で行末の母音もそろっています。意味だけでなく、音でも前の行とつながっているのが分かります。

語法 — どう使うか ▼

margin はノートの余白のほか、profit margin(利幅)、by a narrow margin(僅差で)など「差・ゆとり」の意味でも使います。

they won't act right 「まともに振る舞わない」の act right

★ 口語
Nas(Verse 1) 0:32

The thief's theme, play me at night, they won't act right

泥棒のテーマ曲、夜にかければ誰もまともじゃいられない

▶ 自分の曲を「夜の街のテーマ」と言い切る一行です。

行末の act right は、直訳すると「正しく振る舞う」。口語では「行儀よくする、まともにする」の意味で、親が子どもに Act right! と言うような場面でも使います。

ここでは否定の won't がついて、「俺の曲を夜にかけたら、みんな行儀よくしていられなくなる」。音楽で人を浮き足立たせるという自慢です。

行頭の The thief's theme は、Nasがのちに2004年のアルバム『Street's Disciple』で同じ名前の曲を出しています。10年後に、同じ言葉を曲名に使ったことになります。

語法 — どう使うか ▼

act right: If you act right, you can stay.(ちゃんとしてるなら、いていいよ)。注意や条件づけの場面でよく出ます。

facin' time と pens 時間か、刑期か

★ 多義語
Nas(Verse 1) 0:38

▶ Verse 1中盤、行をまたいで time が置かれる件。ここは行を引かず、語だけ取り出します。

この件では、行末の facin'(向き合う)が次の行頭の time へつながります。

face time は、普通に読めば「時間と向き合う」。でも街のことばでは「刑期を言い渡される、服役に直面する」の意味になります。

ここで比べられている Pappy Mason は、1980年代のクイーンズで名の知れた実在の人物で、当時は長い刑期で服役していました。名前が出ることで、time が刑期の意味で響いてきます。

同じ行の後半に出る pens も、文房具のペンでありながら、刑務所を指す the pen(penitentiary の略)と同じ形。書くことに打ち込む話と、塀の中の話が、一つの語に重なって聞こえます。

語法 — どう使うか ▼

do time / serve time で「服役する」。He did time in the 80s.(80年代に服役していた)のように使います。

the pen は会話で刑務所を指す定番の略語です。

dome 頭を「ドーム」と呼ぶ

★ スラング
Nas(Verse 1) 0:44

Wipe the sweat off my dome, spit the phlegm on the streets

頭の汗をぬぐい、痰を路上に吐く

▶ 書く場面から、外の通りへ視点が移るところです。

前半の行末にある dome が学習ポイント。丸屋根の「ドーム」から転じて、スラングで「頭」を指します。

後半の spit は「吐く」ですが、ラップすることも spit と言うので、二重に読めます。汗をぬぐって痰を吐く、というかなり生々しい動作ですが、きれいごと抜きで街の空気を描くのがこの曲の書き方です。

dome と次の行の complete、streets と feets のように、2行ずつ母音を合わせて進んでいくのも聴きどころです。

語法 — どう使うか ▼

dome: Use your dome.(頭を使え)。ほかにも noggin、noodle など、頭を指す口語はたくさんあります。

Suede Timbs と feets、そして cipher

★ 固有名詞/AAVE
Nas(Verse 1) 0:46

Suede Timbs on my feets makes my cipher complete

スエードのティンバを履けばサイファーは完成

▶ 90年代NYのファッションが一語で出てくる行です。

行頭の Timbs は、ブーツブランドのティンバーランド(Timberland)の略。90年代のNYでは、ヒップホップの定番の足元でした。

続く feets は、本来なら feet で十分なところに複数形の s をもう一つ足した形。口語でわざと使う言い方で、ここでは次の行の streets と韻を合わせる役目もあります。

行末の cipher は、ラッパーが輪になって順番にラップする「サイファー」のこと。もともとは「円・ゼロ」を表す語で、そこから「ひとつの輪、完全な一周」という感覚が生まれています。

complete(完成する)と合わせて、ブーツを履けば自分の輪が閉じる、という言い方になっています。

語法 — どう使うか ▼

cipher は「暗号」の意味もあり、文脈で大きく変わります。ヒップホップの文脈なら、まずラップの輪を思い浮かべると外しません。

Sikh's cab と Montero NYの移動手段

★ 固有名詞/文化
Nas(Verse 1) 0:49

Whether cruisin' in a Sikh's cab or Montero Jeep

シク教徒のタクシーでも、モンテロのジープでも

▶ 街を流す乗り物を2つ並べた行です。

Sikh's cab は、シク教徒の運転手が走らせるタクシー。NYではインド系の運転手が多く、頭に巻いたターバンとともに街の見慣れた風景になっていました。

対になる Montero は、三菱のSUV。日本では「パジェロ」の名前で売られていた車が、アメリカではモンテロとして走っていました。

Jeep はここではブランド名というより、四駆のSUV全般を指す言い方です。

タクシーと自家用の四駆、乗り物の格差を一行に並べているとも読めます。

語法 — どう使うか ▼

Whether A or B: Whether you like it or not(好むと好まざるとにかかわらず)。「AでもBでも」と2つを並べる定番の型です。

cruise は車でゆっくり流すこと。cruisin' で「ドライブしながら」の雰囲気が出ます。

I can't call it と fallin' の三段落ち

★ 慣用句/言葉遊び
Nas(Verse 1) 0:52

I can't call it, the beats make me fallin' asleep
I keep fallin', but never fallin' six feet deep

判断はつかない、ビートで眠りに落ちそうだ/落ち続けても、墓穴の深さまでは落ちない

▶ fallin' を3回重ねて、眠りから墓までを一気に結ぶ2行です。

1. I can't call it(判断がつかない)

1行目の頭の I can't call it は、「どっちとも言えない、見通せない」という慣用句。コイントスで表か裏かを言い当てる call it から来ています。

2. fallin'(三段の言葉遊び)

fallin' asleep(眠りに落ちる)から、keep fallin'(落ち続ける)、そして never fallin' six feet deep(6フィートの深さまでは落ちない)へ。同じ動詞が3回出てきます。

six feet deep は、棺を埋める深さとされる6フィート(約1.8メートル)のこと。six feet under と同じく「墓の下」を表します。

眠りに落ちる話で始まった2行が、終わりでは「死にはしない」という話になっています。

語法 — どう使うか ▼

call it: Heads or tails? Call it.(表か裏か、言って)。ほかに Let's call it a day.(今日はここまで)も頻出です。

presidents と represent 紙幣を「死んだ大統領」と呼ぶ

★ スラング/言葉遊び
Nas(Verse 1) 1:03

I'm out for dead presidents to represent me

俺を語ってくれる金を、稼ぎにいく

▶ Verse 1の締め。同じ形の行を3回重ね、3回目で dead が加わります。

dead presidents は「紙幣、お札」を指すスラング。米ドル札には歴代大統領など、すでに亡くなった人物の肖像が刷られていることから来ています。

行頭の I'm out for 〜 は「〜を狙って出かける、〜を手に入れようとしている」。

後半の represent には「代表する」と「(地元や仲間を)背負って示す」の両方の意味があります。presidents(大統領)が represent(代表する)という語の並びは、選挙の話のようでいて、実はお金の話。

和訳では「俺を語ってくれる金」としました。

この行は、2年後の1996年にJay-Zの「Dead Presidents」のフックとしてサンプリングされます。Nasの声が、別のラッパーの名刺代わりの曲に使われたわけです。

語法 — どう使うか ▼

be out for 〜: He's only out for himself.(あいつは自分のことしか考えていない)。目的や下心を言うときの言い方です。

お金を指すスラングには、ほかに bread、cheddar、Benjamins(100ドル札)などがあります。

To my man Ill Will 亡き親友と、Queensの peoples へ

★ 人物/AAVE
Nas(Verse 2) 1:28

To my man Ill Will, God bless your life
To my peoples throughout Queens, God bless your life

相棒のIll Willへ、お前の人生に神の祝福を/クイーンズ中の仲間たちへ、お前らの人生に神の祝福を

▶ Verse 2は、2行続けての献辞から始まります。

1. Ill Will(亡き親友)

Ill Will は、Nasの幼なじみで、同じ団地に住んでいた親友ウィリー・グラハムのあだ名です。1992年、まだ10代のうちにクイーンズブリッジで亡くなりました。

Nasはのちに自分のレーベルを Ill Will Records と名付けています。

2. my man と peoples

my man は「俺の相棒、ダチ」。2行目の peoples は、people にさらに s をつけた形で、AAVE(アフリカ系アメリカ人英語)では「自分の仲間たち、身内」を親しみを込めて呼ぶときに使います。

God bless your life を2回繰り返して、ひとりへの祈りを地元全体へ広げています。

語法 — どう使うか ▼

my people(s): Shout out to my peoples back home.(地元の仲間たちにエールを)。ラジオやライブのシャウトアウトの定番です。

beef と housing police 団地の揉めごと

★ スラング/地域
Nas(Verse 2) 1:36

▶ 献辞のすぐ後、荒っぽい日常を描く2行の件。ここは行を引かず、語だけ取り出します。

この件の2行目の頭に置かれる beef は、「牛肉」ではなく「揉めごと、確執」を指すスラングです。ラッパー同士の対立もビーフと呼びます。

揉めている相手の housing police は、ニューヨーク市の公営住宅を専門に受け持っていた警察組織のこと。1995年にNY市警(NYPD)に統合されるまで、独立した部署として団地を巡回していました。

クイーンズブリッジはアメリカでも最大級の公営住宅団地です。普通の「警官」ではなく housing police と言うところに、団地育ちの目線がそのまま出ています。

語法 — どう使うか ▼

have beef with 〜: I got no beef with you.(お前と揉める気はない)。誤解を解くときの決まり文句としても使えます。

mild / style / foul 一行に詰め込んだ母音の連打

★ 韻
Nas(Verse 2) 1:39

Yet I'm the mild, money-gettin' style, rollin' foul

それでも俺はおとなしい、金を稼ぐスタイル、荒っぽく転がっていく

▶ 荒れた2行のすぐ後、「でも俺は穏やかだ」と切り返す行です。

この行は、mild、style、foul と、短い間隔で同じ「アイ/アウ」系の母音が続きます。次の行でも versatile、wild、child と同じ響きがさらに続いていきます。

行末だけでなく行の中でも韻を踏む、いわゆる内部韻(internal rhyme)の見本みたいな2行です。

money-gettin' は「金を稼ぐ」を一語の形容詞にしたもの。go-getter(やり手)と同じ発想で、ハイフンでつなげば動詞句をそのまま形容詞にできます。

次の行の最後に出てくる golden child は「期待の星、天才児」。おとなしいふりをしながら、自分を金の子と呼ぶ自信が見えます。

語法 — どう使うか ▼

名詞+-getting: attention-getting(注目を集める)、money-getting(金を稼ぐ)のように、ハイフンでつないで形容詞にします。

Rotten Apple 「ビッグ・アップル」をひっくり返す

★ 言葉遊び/地域
Nas(Verse 2) 1:44

Dwellin' in the Rotten Apple, you get tackled
Or caught by the devil's lasso, shit is a hassle

腐ったリンゴに住んでいれば、タックルで倒されるか/悪魔の投げ縄に捕まるか、とにかく面倒だらけ

▶ NYのニックネームをもじった2行です。

ニューヨークの愛称は the Big Apple(大きなリンゴ)。Nasはそれを the Rotten Apple(腐ったリンゴ)と言い換えています。

観光ポスターのNYではなく、内側から見た荒れたNY。一語を替えるだけで街の見え方がひっくり返るのが、この言葉遊びのうまさです。

2行目の devil's lasso は「悪魔の投げ縄」。気づけば縄をかけられて引きずられていく、街の誘惑やトラブルのたとえとして読めます。

行末の hassle は「面倒、厄介ごと」。Apple、tackled、lasso、hassle と、似た音が2行のなかで4回鳴っています。

語法 — どう使うか ▼

hassle: It's such a hassle.(ほんと面倒くさい)。動詞で Don't hassle me.(しつこくするな)とも使います。

soakin' they sins 所有格の they

★ AAVE文法
Nas(Verse 2) 1:52

While all the old folks pray to Jesús, soakin' they sins in trays

その間も年寄りたちはイエスに祈り、自分たちの罪をトレイに浸している

▶ 若者の荒れた日常と並べて、年長者の祈りを置いた行です。

行頭の old folks は「年寄りたち」。folks は「人々、家族」を表すくだけた語です。

後半の they sins が文法の学習ポイント。標準英語なら their sins(彼らの罪)ですが、AAVEでは their の代わりに they を所有格として使うことがあります。

次の行の頭で、trays(トレイ)の中身が holy water(聖水)だと分かります。罪を聖水に浸して清める、という教会の光景です。

若者が金を追う同じ街で、年長者は罪を洗い流そうと祈っている。2つの世代が、2行の間に並べて置かれています。

語法 — どう使うか ▼

they=their: AAVEの所有格の they は、模範記事「Nas Is Like」でも出てきます。聞き取りでは they の後に名詞が続いたら所有格を疑うと楽です。

folks: my folks(うちの親)のように、家族を指すときにも使います。

a word best describin' my life 娘の名前を探す一行

★ 文法/背景
Nas(Verse 2) 1:58

Thinkin' a word best describin' my life to name my daughter

俺の人生をいちばんよく表す言葉を考えている、娘に名前をつけるために

▶ 荒れた描写が続くなか、急に父親の顔が見える行です。

a word best describin' my life は、「俺の人生を一番よく表す一語」。describing 以下が後ろから word を説明する形(現在分詞の後置修飾)で、教科書でもよく出る構文です。

行末の to name my daughter は「娘に名前をつけるために」という目的の to不定詞。

Nasの娘は1994年に生まれ、Destiny(運命)と名付けられました。人生を一語で表すと「運命」だった、と思って聴くと、この行の重さが変わります。

次の行では、生まれてくる子を自分の resurrection(復活)と呼び、行末を correction、direction と韻でつないでいきます。自分のやってきた悪いことを、子どもが正しい方向へ導いてくれる、という祈りに近い2行です。

語法 — どう使うか ▼

名詞+〜ing の後置修飾: a man standing at the door(ドアのところに立っている男)。長い説明を名詞の後ろにつなげる型です。

How you livin'? Large か、broke か

★ 口語/慣用句
Nas(Verse 2) 2:07

How you livin'? Large or broke on charge cards and mediocre?

どう暮らしてる?羽振りがいいのか、カード払いでかつかつの並みの暮らしか?

▶ Verse 2の終わりで、聴き手に問いを投げかけます。

How you livin'? は、How are you living? から are が落ちた形。AAVEでよく起きる be動詞の省略(コピュラ省略)で、「調子どう?景気はどう?」くらいの挨拶にもなります。

答えの選択肢の Large は、live large(派手に、羽振りよく暮らす)から来ています。反対側の broke は「金欠、文無し」。

charge cards はクレジットカードのような後払いのカード。カードでやりくりして、なんとか並み(mediocre)の暮らしを保つ、というちょっと苦い選択肢です。

語法 — どう使うか ▼

live large: He's been living large since he got that job.(あの仕事に就いてから羽振りがいい)。

broke は形容詞で「一文無しの」。I'm broke. は日常会話の定番です。

spit と spades 団地のカードゲーム

★ 文化
Nas(Verse 2) 2:09

▶ How you livin'? に続く、もう一つの問いの行。ここは行を引かず、遊びの名前だけ取り出します。

この行の後半には、カードゲームの名前が並びます。

spades(スペーズ)は、2人1組で点数を競うトランプゲーム。アメリカの黒人コミュニティでは、家族の集まりや公園で遊ばれる定番の遊びとして知られています。

spit も、2人で速さを競うトランプ遊びの名前です。

稼ぐか遊ぶか、と問いかける行の後半に、団地の暮らしでおなじみの遊びの名前がそのまま並んでいます。

語法 — どう使うか ▼

play cards は「トランプをする」。英語の trump は「切り札」の意味なので、日本語の「トランプ」とは使い方が違います。

Break it down ビートを削ぎ落とす合図

★ 音楽用語
Pete Rock(Bridge) 2:36

Break it down

ブレイクダウンだ

▶ 3つめのフックの後、曲がいったん音数を減らす箇所です。

Break it down は、DJやバンドの間で「音を減らして、骨組みだけにしろ」という合図。曲の中で楽器が抜けて、ドラムやベースだけになる部分をブレイクダウンと呼びます。

続く「It's yours」の繰り返しが、少し音の薄くなったビートの上で響いて、Verse 3への助走になっています。

日常英語では break it down は「分かりやすく分解して説明する」の意味でもよく使います。ダンスの場面なら「踊ってみせろ」の掛け声にもなる、場面で表情が変わる句です。

語法 — どう使うか ▼

break 〜 down: Can you break it down for me?(もう少しかみくだいて説明してくれる?)。授業や会議でも使えます。

hold myself down single-handed 自分の身は自分で

★ 句動詞
Nas(Verse 3) 2:59

I'm the young city bandit, hold myself down single-handed

俺は若き街の悪党、たった一人で自分を支えている

▶ Verse 3の一行目。ここから孤独のバースが始まります。

bandit は「盗賊、無法者」。young city bandit で、街の若いはみ出し者、という自己紹介です。

後半の hold myself down が学習ポイント。hold down は「押さえる、維持する」で、hold someone down になると、スラングで「誰かを支える、面倒を見る」の意味になります。

ここでは目的語が myself なので「自分で自分を支える」。さらに single-handed(片手で、独力で)を添えて、誰にも頼らない姿を強調しています。

bandit と handed の音も合わせてあって、一行目から韻の手綱はゆるみません。

語法 — どう使うか ▼

hold someone down: She always holds me down.(あいつはいつも俺を支えてくれる)。hold down a job なら「仕事を続ける」です。

Born alone, die alone 王冠と玉座を守る仲間はいない

★ 対句
Nas(Verse 3) 3:04

Born alone, die alone, no crew to keep my crown or throne

一人で生まれ、一人で死ぬ、王冠も玉座も守ってくれる仲間はいない

▶ Verse 3の孤独が、いちばんはっきり言葉になる行です。

行頭の Born alone, die alone は、主語も be動詞も省いて、過去分詞と動詞を対にした形。短く切るほど、言い切りの強さが出ます。

後半の crew は「仲間、一味」。ヒップホップではラップグループや取り巻きを指す基本語です。

crown or throne(王冠か玉座か)は、ラップの頂点に立つことのたとえ。頂点を目指しても、それを一緒に守ってくれる仲間はいない、と冷静に言っています。

alone、throne と、この先の行の home まで「オウン」の音が続いていきます。

語法 — どう使うか ▼

crew: He rolled up with his whole crew.(仲間を全員引き連れて来た)。本来は船や飛行機の乗組員です。

deep by sound alone 一人でも「大勢」

★ スラング/言葉遊び
Nas(Verse 3) 3:07

I'm deep by sound alone, caved inside, 1,000 miles from home

音だけで俺は大勢分の厚みがある、内にこもって、家から千マイルも離れて

▶ 前の行の「仲間はいない」を受けて、ひねりを入れた一行です。

deep には「深い」のほかに、スラングで「大人数の」という意味があります。We rolled deep.(大勢で乗り込んだ)のように使います。

仲間がいないと言った直後に、I'm deep by sound alone(音だけなら俺は大勢だ)と返す。自分のラップ一本で、クルー一つ分の厚みがあるという自負に聞こえます。

もちろん「音だけで深い」とも読めるので、両方の意味がきれいに重なっています。

後半の caved inside は「内側にこもって」、1,000 miles from home は「家から千マイル」。団地にいながら心は遠くにある、という孤独の距離感です。

語法 — どう使うか ▼

roll deep: They always roll deep to parties.(あいつらはいつも大勢でパーティーに来る)。

black cloud ついて回る黒い雲

★ 比喩
Nas(Verse 3) 3:12

'Cause while it's over me it's too dark to see tomorrow

そいつが頭上にある間は、暗すぎて明日が見えないから

▶ 前の行の black cloud(黒い雲)を受けた一行です。

前の行で、Nasは自分にまとわりつく black cloud(黒い雲)を、誰か別の人の方へ移ってほしいと言います。黒い雲が頭上についてくる、というのは英語で「不運や憂うつにつきまとわれる」ことの定番のたとえです。

この行の it がその雲。雲が頭の上にある間は、暗すぎて tomorrow(明日)が見えない。

too 〜 to ... は「〜すぎて…できない」という中学の構文です。ここで見えなくなっているのは、tomorrow(明日)です。

語法 — どう使うか ▼

a black cloud over one's head: I've had a black cloud over my head all week.(今週ずっとツイてない)。

too 〜 to ...: It's too hot to sleep.(暑すぎて眠れない)。

my peeps not eatin' 「食べる」=稼ぐ

★ スラング
Nas(Verse 3) 3:17

Picturin' my peeps not eatin' can make my heartbeat skip

仲間が食えていないのを思い浮かべると、心臓が一拍飛ぶ

▶ 孤独なバースのなかで、仲間を思う気持ちが出る行です。

peeps は people を縮めた語で、「仲間、身内」。Verse 2の peoples と同じく、親しい人たちを指します。

eat / eating は、スラングで「稼ぐ、うまくやっていく」の意味。not eatin' で「稼げていない、食えていない」になります。

日本語の「食っていけない」とかなり近い感覚です。

行末の make my heartbeat skip は、心臓が一拍抜けるほど胸が締めつけられる、という表現。普通は恋のときめきに使う言い方で、ここでは仲間を心配する胸の痛みに転用されています。

語法 — どう使うか ▼

eat: Everybody eats.(みんなで稼ごう、みんなに行き渡る)。チームで利益を分け合う場面のスラングです。

they locked the champ up 「チャンプ」はマイク・タイソン

★ 時事/比喩
Nas(Verse 3) 3:20

And I'm amped up, they locked the champ up, even my brain's in handcuffs

俺は気が立ってる、チャンプは閉じ込められた、俺の頭にまで手錠がかかってる

▶ 当時のニュースをそのまま歌詞に持ち込んだ一行です。

amped up は「興奮して、気が立って」。アンプ(amplifier)で音を上げるイメージから来ています。

the champ は、当時ヘビー級の元チャンピオンだったマイク・タイソンのこと。タイソンは1992年からインディアナ州で服役していて、locked up(閉じ込めた、投獄した)はその出来事を指しています。

amped up と champ up で「アンプ」の音を2回鳴らし、最後は even my brain's in handcuffs(頭にまで手錠)。体だけでなく考えまで縛られている、という比喩で締めます。

ちなみにNasは「Nas Is Like」でも、Iron Mike(タイソンのあだ名)を自分のたとえに使っています。

語法 — どう使うか ▼

lock 〜 up: They locked him up for two years.(2年間ぶち込まれた)。lock up は戸締まりにも使います。

amped: I'm so amped for the show!(ライブが楽しみでテンション上がる)。

lampin' Big Willie style 余裕をかます成金スタイル

★ スラング
Nas(Verse 3) 3:26

The crew is lampin' Big Willie style

仲間たちは大物スタイルでくつろいでいる

▶ Verse 3の後半、空気が少し明るくなる行です。

lampin' は、90年代のNYで使われたスラングで「のんびりする、くつろぐ」。何もせずにだらっと過ごす様子です。

Big Willie は、羽振りがよくて派手な「大物、成金」を指すスラング。Big Willie style で「大物気取りのスタイル」になります。

同じ時期の東海岸のラップには、この Big Willie がよく出てきます。90年代の空気をまとった言葉なので、知っておくと当時の曲がぐっと読みやすくなると思います。

Verse 3の頭で「仲間はいない」と言っていたのに、ここでは the crew が出てくる。同じバースのなかで、気分が行ったり来たりしています。

語法 — どう使うか ▼

〜 style: 名詞の後ろに style を置くと「〜流に、〜っぽく」。eat Japanese style(日本式で食べる)のように日常でも使います。

chip-toothed smile と profile 欠けた前歯で笑う

★ スラング/人物
Nas(Verse 3) 3:28

Check the chip-toothed smile, plus I profile wild

欠けた前歯の笑顔を見ろ、おまけに俺は派手にキメてる

▶ Nas本人の見た目がそのまま歌詞になっている行です。

chip-toothed は「歯の欠けた」。デビュー当時のNasは、前歯の欠けた笑顔がトレードマークで、当時の記事でも chipped-tooth の若いMC、と紹介されていました。

自分の欠点になりそうなところを、行頭の Check(見ろよ)で堂々と見せる。そこにこの曲らしい自信があります。

後半の profile は、名詞の「横顔、プロフィール」ではなく動詞で、スラングでは「見せびらかす、かっこつける」。profile wild で「派手にキメる」です。

語法 — どう使うか ▼

profile / profilin': Look at him profilin' in his new car.(新車で見せびらかしてる)。show off とほぼ同じ意味です。

loot、fly、stoge 札で火をつける見栄

★ スラング
Nas(Verse 3) 3:31

Stash loot in fly clothes, burnin' dollars to light my stoge

イケてる服に金を隠し、ドル札を燃やしてタバコに火をつける

▶ 派手な見栄を、具体的な動作で見せる行です。

loot は本来「戦利品、略奪品」。スラングでは単に「お金」を指します。

stash は「隠しておく」。

fly は「かっこいい、イケてる」。fly clothes で「しゃれた服」です。

行末の stoge は、葉巻を指す stogie を縮めた形で、ここではタバコくらいの意味。ドル札を燃やして火をつけるのは、金なんかいくらでもある、と見せつける振る舞いです。

Verse 1の dead presidents と並べると、お金を追う話とお金を燃やす話が、同じ曲のなかで対になっています。

語法 — どう使うか ▼

fly: That jacket is fly.(そのジャケット、イケてる)。90年代っぽさのある褒め言葉です。

stash は名詞で「隠し場所、隠したもの」にもなります。

walk with a bop と the games people play

★ 口語/慣用句
Nas(Verse 3) 3:34

Walk the blocks with a bop, checkin' dames, plus the games people play

弾む足取りで街を歩き、女を目で追い、人の駆け引きも見ている

▶ Verse 3の最後の2行。街を歩く姿でバースを閉じます。

walk the blocks は「街区を歩いて回る」。block は「一区画」で、NYのラップでは地元の通り、縄張りの意味でも出てきます。

with a bop は、体を上下に弾ませるようなリズムのある歩き方。自信のある足取りです。

dames は1930〜40年代の映画に出てくるような古いスラングで「女性」。わざと古い言葉を混ぜる遊び心があります。

最後の the games people play は「人がしかける駆け引き、だましあい」という決まった言い回し。浮かれて歩いているようで、周りの駆け引きをちゃんと見ている、という締めになっています。

語法 — どう使うか ▼

play games: Stop playing games with me.(はぐらかすのはやめて)。恋愛や交渉の場面で頻出です。

To everybody in Queens, the foundation 地区ごとのシャウトアウト

★ 文化/地域
Nas & Pete Rock(Outro)

To everybody in Queens, the foundation

クイーンズのみんなへ、俺たちの土台へ

▶ アウトロ。NYの地区名を一つずつ呼んでいきます。

the foundation は「土台、基礎」。自分を育てたクイーンズを、すべての出発点として呼んでいます。

ここからNasとPete Rockは、uptown(マンハッタン北部)、ブルックリン、マウントバーノン、ロングアイランド、スタテンアイランド、サウスブロンクスと地名を並べ、それぞれに「世界はお前らのものだ」と返していきます。

マウントバーノンは、NY市のすぐ北にある町で、Pete Rockの地元です。Large ProfessorがNasを連れていった、Pete Rockの自宅スタジオもこの町にありました。

こうした地名の呼びかけを shout-out(シャウトアウト)と言います。フックの The world is yours が、最後に具体的な街の人たちへ配られて、曲が閉じていく構成です。

語法 — どう使うか ▼

shout-out: Shout-out to everyone who came tonight!(今夜来てくれたみんなにありがとう)。SNSでも「名前を挙げて感謝する」の意味でよく使います。

文化的背景

『Illmatic』

1994年のデビューアルバムと、クイーンズブリッジ

『Illmatic』は、1994年4月19日にColumbiaから出たNasのデビューアルバムです。DJ Premier、Large Professor、Pete Rock、Q-Tip、L.E.S.と、当時のNYを代表するプロデューサーが顔をそろえました。

Nasが育ったクイーンズブリッジは、イースト川沿いにある、アメリカでも最大級の公営住宅団地。アルバムの歌詞は、ほとんどがこの団地の目線で書かれています。

同じアルバムからは、地下鉄の音で幕を開ける「N.Y. State of Mind」も、このサイトで解説しています。

Pete Rock

マウントバーノンのプロデューサー

Pete Rockは、NY市のすぐ北にあるマウントバーノン出身のプロデューサーです。CL Smoothとのコンビ、Pete Rock & CL Smoothでも知られています。

ジャズのレコードから短いフレーズを切り出して、温かい質感のループに組み直すのが得意で、この曲のピアノもその代表例です。

この曲ではフックも自分で歌っていて、プロデューサーが曲の顔になる声まで担当しています。

キーワード早見表

この曲で学んだ表現の整理

Whose world is this? この世界は誰のもの? whose で持ち主を問う
yours / mine あなたのもの/私のもの。フックの掛け合いの軸
Dom P ドン・ペリニヨン(シャンパン)の略
act right 行儀よくする、まともに振る舞う
face time / the pen 刑期に直面する/刑務所。time と pen の二重の意味
dome 頭
Timbs ティンバーランドのブーツ
cipher ラップの輪、サイファー
I can't call it どうとも言えない、見通せない
six feet deep 墓の下。six feet under と同じ
dead presidents 紙幣、お金
peoples / peeps 仲間たち、身内
beef 揉めごと、確執
Rotten Apple Big Apple(NY)をもじった「腐ったリンゴ」
they(所有格) AAVEで their の代わりに使う形
live large 羽振りよく暮らす
broke 金欠、一文無し
Break it down 音を減らす合図/かみくだいて説明する
hold (someone) down 支える、面倒を見る
roll deep / deep 大勢で/大人数の
eat 稼ぐ、食っていく
amped up 興奮して、気が立って
lampin' くつろぐ、だらっと過ごす
Big Willie 羽振りのいい大物、成金
profile 見せびらかす、かっこつける
loot / fly お金/かっこいい
shout-out 名前を挙げてのあいさつ、感謝

制作の裏側

ビートの核になっているピアノは、ジャズピアニストAhmad Jamalの「I Love Music」(1970年のアルバム『The Awakening』収録)から取られています。

Pete Rockが使ったのは、7分近い原曲の4分58秒あたりにある、わずか5秒ほどの一節です。Pete Rockはその部分をサンプラーでループさせ、ドラムを外した音も聴き直しながら、ビートに組み上げていきました。

Large ProfessorがNasをPete Rockのマウントバーノンの自宅スタジオへ連れていったのが、制作のきっかけでした。曲はNYのBattery Studiosで1992年に録音されています。

スクラッチを入れる作業には、同じアルバムを手がけていたDJ Premierも立ち会いました。

フックをPete Rock本人が歌い、MVにもスクラッチする姿で出演しているのは、Nasがそう望んだからだそうです。

シングルは1994年5月31日に発売されました。B面には、Q-Tipがプロデュースし、Nasが歌詞も一部書き替えた別バージョン「The World Is Yours (Tip Mix)」が入っています。

評価とその後

I'm out for presidents の一節は、1996年にJay-Zの「Dead Presidents」でサンプリングされました。Tip MixのほうもLogicやJoey Bada$の曲に使われています。

2019年には、アメリカで RIAA のゴールド認定(50万ユニット)を受けています。

2015年の夏には、Sprite の「Obey Your Verse」キャンペーンで、曲のタイトルが缶やボトルに印刷されました。

映画『Dope』(2015年)などでも使われ、Nasの代表曲として今もよく耳にします。

まとめ

  • 「The World Is Yours」は、Nasが1994年のデビュー作『Illmatic』で、クイーンズブリッジから世界を見上げて書いた一曲です。
  • フックは whose / yours / mine という中学英語の所有表現だけで組まれていて、Pete RockとNasの掛け合いになっています。
  • dead presidents、Timbs、cipher、beef、Big Willie、lampin'、profile など、90年代NYの街ことばを一度に学べます。
  • they sins(所有格の they)、How you livin'?(be動詞の省略)など、AAVEの文法も自然な形で出てきます。
  • Ahmad Jamalのピアノを5秒切り出したループと、T La Rockの声ネタが、サンプリングの面白さを教えてくれます。

アーティストについて

Nas

Queensbridge, New York · 1991–

クイーンズブリッジ出身のNasir Jones。1994年「Illmatic」でデビューし、歌詞の密度と詩的表現力でヒップホップ文学の地平を開いた。

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