Slang Dictionary
cipher
サイファー
まず結論
cipher(綴りは cypher とも)は、ヒップホップでは輪になって順番にラップする集まりを指します。日本語の「サイファー」もこの意味です。
そのほかに、大麻を回して吸う輪、そして Five Percent Nation の教えで数字の0を表す語としても使われます。
どの意味にも「輪」「0」という形が共通していて、歌詞ではいくつかの意味が重ねられていることがあります。
ラップの cypher
cypher は、何人かが輪になって、ビートや手拍子に合わせて順番にラップを回していく場です。誰かのバースが終わると、次の人が引き継ぎます。
Wiktionary はこれを、たいてい cypher と綴られるヒップホップのジャムセッションとして載せています。heat up the cypher は「輪を熱くする」、つまりその場を盛り上げるラップをすることです。
回し吸いの cipher
Wiktionary には、仲間内で大麻を回していく道筋、またはその回し吸いの場という語義もあります。こちらも輪になって順番に回すという点で、ラップの cypher と形が重なります。
weak cipher なら、回ってくるものがしょぼい輪、という意味になります。
Five Percent の「0」と、完成した輪
Five Percent Nation(Nation of Gods and Earths とも呼ばれる)の Supreme Mathematics では、数字の1から9と0にそれぞれ意味が割り当てられていて、0は Cipher です。
円は始まりも終わりもない形なので、cipher は「完成したもの、満ちた輪」という含みを持ちます。my cipher is complete は、自分という輪が満ちている、という意味で読めます。
Five Percent の言葉がラップに残したもの
Complex の2018年の記事は、peace、word、God といったヒップホップでおなじみの言葉が、Five Percent(Gods and Earths)の言葉づかいから来ていると書いています。Rakim が1988年の『Follow the Leader』のジャケットで、Five Percent の旗の図柄を身につけていたことにも触れています。
Big Daddy Kane は The Source のインタビューで、ブルックリンのフォートグリーン団地近くの学校に通っていたころ、Five Percent の Gods たちの cipher に何度も出会ったと振り返っています。
語源と背景
cipher はアラビア語で「空、ゼロ」を意味する語にさかのぼり、英語ではもともと数字の0、のちに暗号の意味でも使われてきました。
Five Percent Nation は1964年にハーレムで Clarence 13X が始めた運動で、ブリタニカ百科事典は、その影響が Rakim、Wu-Tang Clan、Nas などのヒップホップに表れていると書いています。
ラップの輪を cypher と呼ぶ用法は、この「輪、0」の意味から来たと説明されることが多いですが、どの意味が先だったかを確かめられる資料は見つからず、はっきりしません。
Wiktionary はラップの cypher の出典として、2005年に保存された Rap Dictionary の項目を挙げています。
例文
例文は意味と使い方を示すための解説用の作例で、実際の歌詞の引用ではありません。歌詞の引用は「曲での使われ方」に載せています。
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1.We had a cypher going outside the venue.
会場の外でサイファーをやってた。
have a cypher going で「サイファーが始まっている」。ライブ後の路上でよく見る光景です。
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2.She jumped in the cypher and killed it.
彼女がサイファーに飛び入りして、圧倒した。
jump in the cypher は輪に入ってラップすること。killed it は「やりきった、最高だった」です。
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3.Everyone in the cypher gets a turn.
サイファーでは全員に順番が回ってくる。
順番に回すという cypher の仕組みを言った文です。
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4.He kept the cypher going for an hour.
あいつのおかげで、サイファーが1時間続いた。
keep the cypher going は、途切れないようにつなぐこと。場を回す力をほめる言い方です。
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5.The message was written in a cipher.
そのメッセージは暗号で書かれていた。
こちらは一般的な「暗号」。スパイ映画や歴史の話で出てくる意味です。
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6.In old math books, zero was called a cipher.
昔の数学書では、ゼロは cipher と呼ばれていた。
数字の0という古い意味。Wiktionary では古風な語義として載っています。
この曲ではこう使われていた
解析に使ったヒップホップ約440曲の歌詞のうち、cipher を含む曲は8曲で、16人中5人のラッパーに出てきました。Ghostface Killah や GZA の曲に特に多く出てきます。出現数の多い順に並べると、内訳はGhostface Killah 3曲、GZA 2曲、MF DOOM 1曲、Nas 1曲、Rakim 1曲です。
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"makes my cipher complete"
スエードのティンバーランドを履くと自分の輪が完成する、という一節です。Five Percent の言葉づかいで、身なりまで含めた自分自身が満ちる感覚を言っています。
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Rakim 「Step Back」
"My cipher's complete"
自分の輪は完成している、という宣言です。このあと、出会った人と build する(語り合って高め合う)と続き、輪が人とのつながりへ広がっていきます。
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GZA 「Investigative Reports」
"heat up the cypher"
勢いのあるラップで輪を熱くした、という場面です。ここでの cypher は、ラッパーたちの輪と読むのが自然です。
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GZA 「Pass the Bone」
"Forget about the weak-cipher"
大麻を回す輪がしょぼかったので、後ろへ移った、という流れです。曲名の Pass the Bone も回し吸いを思わせるので、ここは大麻を回す輪と読むのが自然です。
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Ghostface Killah 「Assassination Day」
"Cee-Cipher-Power stalk"
Cee、Cipher、Power の頭文字を取ると C、O、P、つまり cop になる言葉遊びと読めます。0を表す Cipher を、形の似た O に当てているわけです。
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MF DOOM 「Doomsday」
"Cee Cipher Punk"
こちらも頭文字が C、O、P になる組み立てで、警官を指していると読めます。Wu-Tang 周辺で見られる言い回しを、DOOM も使っています。
似た表現との違い
- freestyle即興のラップ
- freestyle は即興でラップすること自体。cypher はそれを輪になって回す場です。
- battleラップバトル
- battle は勝ち負けを決める対決。cypher は順番に回す場で、勝敗を決めないのが基本です。
- C-Cypher-Punks警官を指す言葉遊び
- cop の綴りを言い換えた表現。cipher が O の役を担っています。
- GodsFive Percent の男性の呼び方
- Five Percent の教えから来た語彙のひとつ。cipher と同じく、背景を知ると歌詞の見え方が変わります。
使うときの注意
- 歌詞の cipher をすべてラップの輪と読むと、Five Percent の「完成」や回し吸いの輪を取り違えます。
- Five Percent の用語は人によって解釈に幅があり、決まった一つの定義があるわけではありません。断定せずに受け取るのが無難です。
- 一般の英語では cipher は「暗号」の意味がまず浮かびます。ヒップホップの話だとわからない場面では、cypher と綴ったほうが通じやすくなります。
よくある質問
- cipher と cypher、どちらの綴りが正しいですか。
- どちらも使われます。ラップの輪の意味では cypher と書かれることが多く、Wiktionary もそう注記しています。
- Supreme Mathematics とは何ですか。
- Five Percent Nation の教えで、1から9と0の数字それぞれに意味を割り当てたものです。0には Cipher が当てられています。
- 日本の「サイファー」と同じものですか。
- 同じです。公園や駅前で輪になってラップを回す日本のサイファーは、英語の cypher をそのまま取り入れた言い方です。