この記事の見どころ
映画的なスキットで幕を開け、Raekwonが「incarcerated scarfaces(収監されたスカーフェイスたち)」へ向けて連帯と野望を語る1995年の東海岸ハードコア金字塔。RZAがDavid Axelrodのソウルをサンプリングして構築した重厚なブームバップの上で、Raekwonは出世・暴力・貧困・プライドを縦横に展開する。3つのバースはそれぞれスタイルの異なる語り口を持ちながら、「時間は切れていく、だが俺は諦めない」という一貫したテーマで貫かれている。
1995年8月1日リリースのRaekwonソロデビュー作『Only Built 4 Cuban Linx...』収録。プロデュースはRZA。David Axelrodの「A Divine Image」(1971年)をサンプリングし、ミッドテンポ(約87BPM)の不穏でメロウなブームバップビートを構築。アルバム全体が映画『スカーフェイス』からインスパイアされたコンセプト作であり、Raekwonは「Lex Diamonds」というペルソナを纏ってマフィア的な世界観を描く。本曲はアルバムの5曲目に収録され、フィルムノワール的なトーンを決定づける重要トラックとして機能する。レーベルはLoud Records / RCA Records。
He looks determined without being ruthless
Something heroic in his manner
残酷さのない決意を持つように見える
立ち振る舞いに英雄的なものがある
There's a courage about him, doesn't look like a killer
Comes across so calm
勇気はあるが、殺し屋には見えない
とても落ち着いた印象を与える
Acts like he has a dream
Full of passion
夢を持っているかのように振る舞う
情熱に満ちている
You don't trust me, huh?
Well, you know why
I do, we're not supposed to trust anyone in our profession anyway
俺を信用しないのか?
まあ、理由はわかるだろ
わかってる——俺たちのような商売では、誰も信用すべきじゃないんだから
Knock n***as out the box all the time
n***as know my motherf**kin' repertoire, big ones (Uh-huh)
いつも奴らをぶっ飛ばしてきた
奴らは俺のレパートリーを知ってる、でかいやつを(そうだ)
(Yeah, motherf**ker, straight up)
(I'll f**k your whole team up) Take care of B.I., Chef
(Yeah, bust it, yo, yo) Fly G.I. n***as
(そうだ、マジの話)
(お前のチームごとぶっ壊す)B.I.の面倒を見ろ、シェフ(Raekwonの別名)
(さあいくぜ)イかした軍人スタイルの奴ら
Now, yo, yo, what up, yo? Time is runnin' out
It's for real, though, let's connect, 話し合う・連絡を取り合う・情報交換するというストリートスラング , ditto
よお、聞けよ、時間は切れていく
マジな話だ、繋がって、語り合おう、同感だろ
We could trade places, get lifted in the staircases
Word up, peace, incarcerated scarfaces
立場を交換して、階段で浮き上がれる
マジだ、平和を——収監されたスカーフェイスたちへ
Thug-related style attract millions, fans
They understand my plan, who's the kid up in the green トヨタ・ランドクルーザー。1990年代NYストリートのステータスカー ?
サグなスタイルが何百万のファンを引きつける
みんな俺のプランを理解してる——グリーンのランクルに乗ってるあのガキは誰だ?
Me and the RZA connect, blow a fuse, you lose
Half-ass crews get demolished and bruised
俺とRZAが繋がればヒューズが飛ぶ、お前の負け
半端なクルーは壊滅して傷だらけになる
Fake be fronting, hourglass-heads n***as be wanting
Shutting down your slot, time for pumping
偽物が見栄を張り、砂時計頭の奴らが欲しがる
お前の枠を閉鎖して、ポンプアップの時間だ
Poisonous sting, which thumps up and act chumps
Rae's a heavy generator, but yo, guess who's the 1995年当時の不動産富豪ドナルド・トランプを模した黒人版富豪としての自己誇示 ?
毒の刺し、ドカンと来て間抜けにする
Raeは強力な発電機だ——だが、黒人版トランプは誰だと思う?
Dough be flowing by the hours, Wu, we got the collars
Scholars, word life, peace to Power and my whole unit
金は時間ごとに流れ込んでくる、Wu、俺たちが首輪を持ってる
学者たちよ、マジの話だ、Powerと俺のユニット全員に敬意を
Word up, quick to set it, don't wet it
Real n***as lick shots, peace Connecticut
マジだ、素早く仕掛けろ、湿らすな
本物の奴らは銃を撃つ——コネチカットに敬意を
Now, yo, yo, what up, yo? Time is runnin' out
It's for real, though, let's connect, politic, ditto
We could trade places, get lifted in the staircases
Word up, peace, incarcerated scarfaces
よお、聞けよ、時間は切れていく
マジな話だ、繋がって、語り合おう、同感だろ
立場を交換して、階段で浮き上がれる
マジだ、平和を——収監されたスカーフェイスたちへ
Chef'll shine like marble, rhyme remarkable
Real n***as raise up, spend your money, argue
シェフは大理石のように輝く、ライムは驚異的
本物の奴らは立ち上がって、金を使って、言い合いをする
But this time is for the uninvited
Go 'head and rhyme to it, b***h n***a, mics is getting fired
だが今回は招待されなかった者たちのためだ
さあラップしてみろ、このヘタレ、マイクは燃え上がってる
More fiends, chicks be burning like chlorine
n***as recognize from here to Baltimore to Fort Greene
もっと多くの中毒者、女たちは塩素のように燃える
ここからボルティモアからフォートグリーンまで奴らは認める
But hold up, モエ・エ・シャンドン。高級シャンパンの代名詞。1990年代ヒップホップの成功の象徴として頻出 もう一度タップで詳細 → be tasting like throw-up
My mob roll up, dripped to death, whips rolled up
でも待ってくれ、モエが嘔吐物のような味がする
俺のギャングが集結して、バリバリにキメて、高級車で乗りつける
You never had no wins, sliding in these dens
With Timberland(ティンバーランド)のブーツ。Wu-Tang周辺のストリートファッションの定番 , with MAC-10's and broke friends
お前には勝ちがなかった、これらのアジトに潜り込んで
ティンバーランドを履いて、MAC-10を持って、金のない仲間たちと
You got guns? Got guns too, what up, son?
Do you wanna battle for cash and see who 「誰がボスか、誰を格下にするか」を決める。sonはNYスラングで部下・格下を意味する動詞 ?
お前、銃持ってるか?俺も持ってるぞ、どうだよ?
金を賭けてバトルして、誰がボスか決めようじゃないか?
I'll probably wax tracks, smack rap n***as, you, facts
n***as' lyrics are wack, n***a
俺はトラックを磨き上げ、ラップの奴らをぶっ叩く、お前に、事実として
奴らのリリックはダサい、以上
Can't stand unofficial, wet tissue, blank busting Scud missiles
You rolling like Trump, you get your meat lumped
非公式な奴は嫌いだ、濡れたティッシュ、空のスカッドミサイルを撃つだけ
トランプみたいにデカい顔してると、ぼこぼこにされるぞ
For real, it's just slang rap democracy
Here's the policy, slide off the ring, plus the Clarks Wallabee。Wu-Tang Clanのドレスコードの定番シューズ
マジな話、これはスラング・ラップの民主主義だ
これがポリシーだ、指輪を外して、ワラビーも脱げ(= 全部渡せ)
Check the status, soon to see me at, Caesar's Palace eating salads
We beating mics sending keys to Dallas
ステータスを確認しろ——もうすぐシーザーズ・パレスでサラダを食ってる俺が見られる
俺たちはマイクをぶちかまして、ダラスにキーを送ってる
I move rhymes like retail, make sure s**t sell
From where we at to my man's cell
俺はライムを小売りのように動かして、確実に売れるようにする
俺たちのいる場所から、仲間の独房まで
From staircase to stage, minimum wage
But soon to get a article in Rap Page
階段から舞台へ、最低賃金から
でももうすぐラップ雑誌に記事が載る
But all I need is my house, my gat, my Acura(高級車)の略。1990年代NYストリートの成功の象徴 もう一度タップで詳細 →
Bank account fat, it's going down like that
でも俺が必要なのは、家と銃とAcuraだけ
銀行口座はパンパン——そういう感じで進んでいく
And pardon the French, but let me speak Italian
Black stallions wildling on Shaolin
フランス語は失礼、だがイタリア語で話させてくれ
黒い種馬たちがシャオリンで暴れまわってる
That means the island of Staten
And n***as carry gats and mad police from Manhattan
つまりスタテン島のことだ
そして奴らはガットを持ち歩き、マンハッタンからは大勢の警官が来る
Now, yo, yo, what up, yo? Time is runnin' out
It's for real though, let's connect, politic, ditto
We could trade places, get lifted in the staircases
Word up, peace, incarcerated scarfaces
よお、聞けよ、時間は切れていく
マジな話だ、繋がって、語り合おう、同感だろ
立場を交換して、階段で浮き上がれる
マジだ、平和を——収監されたスカーフェイスたちへ
I do this for barber shop n***as in the Plaza
Catching asthma, Rae is sticking gun-flashers
これはプラザの床屋で屯する奴らのためにやってる
喘息になりながら、Raeは銃を見せつける奴らを仕留める
Well-dressed, skating through the projects with big ones
Broke elevators, turn the lights out, stick one upstairs
よそ行きの格好で、でかい銃を持って団地を滑るように歩く
壊れたエレベーター、電気を消して、上の階で一人を仕留める
Switch like a chameleon, hit Brazilians
Pass the cash or leave your children, leave the building
カメレオンのように変化して、ブラジル系を狙う
金を渡すか、子供を残して去れ、建物を出ろ
n***as, yo, they be folding like envelopes
Under pressure, like Lou Ferrigno on coke
奴らよ、封筒みたいに折れ曲がる
プレッシャーの下で、コカインをやったルー・フェリグノみたいに
Yo, Africans denying n***as up in yellow cabs
Musty like f**k, waving they arms to Arabs
よお、アフリカ系のタクシー運転手が黒人乗客を拒否してる
体臭まみれで、アラブ系に向かって手を振ってる
Sit back, cooling like Kahlúas on rocks
On the crack spots, rubber band wrap all my 輪ゴムで束ねた札束。現金のスラング
クールにしてる、ロック(氷)入りのカルーアみたいに
クラックの売り場で、輪ゴムで縛った俺の金束
View b***hes who f**k dreads on Sudafeds
Pussy's hurting, they did it for a 100ドルのスラング($100 = a yard)。連邦捜査官への情報提供料として受け取った金額 for the feds
スーダフェッドをキメてドレッドの男と寝る女たちを見る
体が痛むのに、連邦捜査官のために100ドルでそれをやった
Word up, cousin, n***a, I seen it
Like a 27-inch Zenith, believe it
マジだ、カズン、俺は見てきた
27インチのゼニスのようにはっきりと、信じてくれ
Now, yo, yo, what up, yo? Time is runnin' out
It's for real, though, let's connect, politic, ditto
We could trade places, get lifted in the staircases
Word up, peace, incarcerated scarfaces
よお、聞けよ、時間は切れていく
マジな話だ、繋がって、語り合おう、同感だろ
立場を交換して、階段で浮き上がれる
マジだ、平和を——収監されたスカーフェイスたちへ
Yo, yo, what up, yo? Time is runnin' out
It's for real, though, let's connect, politic, ditto
よお、聞けよ、時間は切れていく
マジな話だ、繋がって、語り合おう、同感だろ
Get lifted in the staircases
Peace, incarcerated scarfaces
階段で浮き上がれ
平和を——収監されたスカーフェイスたちへ
Time is runnin' out
Politic, ditto
Incarcerated scarfaces
時間は切れていく
語り合おう、同感だ
収監されたスカーフェイスたちへ
1990年代半ば、西海岸のG-Funk(Dr. Dre、Snoop Dogg)が商業的に席巻する中、ニューヨークはより暗く、より複雑なサウンドで対抗した。Wu-Tang Clanはその最先鋒であり、Raekwonのソロデビュー作『Only Built 4 Cuban Linx...』は「マフィオソ・ラップ(Mafioso Rap)」というサブジャンルを確立した金字塔だ。「Incarcerated Scarfaces」はその核心に位置するトラックで、映画『スカーフェイス』の野心・暴力・破滅の物語をスタテンアイランドのストリートに重ねて語る。コカインの蔓延、銃社会、タクシー差別、公営住宅の貧困——1990年代NYの現実がリリックに生々しく刻まれている。RZAはDavid Axelrodのソウルをサンプリングし、最小限の要素で最大限の不穏さを生み出した。Ghostface Killahとのコンビが「Criminology」でマフィオソ世界の扉を開いたとすれば、この曲ではRaekwonが一人でその世界の深部まで踏み込んでいく。
『Only Built 4 Cuban Linx...』はローリングストーン誌をはじめ多くのメディアで「史上最も重要なヒップホップアルバム」の一つに選出されており、「Incarcerated Scarfaces」はそのフィルムノワール的世界観を決定づけるトラックとして特に高く評価される。Nas、Jay-Z、Big Punら後の東海岸リリシストが「映画的なストーリーテリング」をラップに持ち込む上で本作から直接影響を受けた。「slang rap democracy」というフレーズが示すように、スラングと詩性と暴力性を平等に扱う民主主義的なリリシズムは、以降のハードコアヒップホップの文体を形成した。日本では1990年代後半にアンダーグラウンドHIPHOPシーンがWu-Tang Clanの哲学を吸収し、SCARS・MSC・THINK TANKなどのグループがその影響を明確に受けた。クラシック盤として今も国内DJにプレイされ続け、「収監されたスカーフェイスたち」への連帯のメッセージは国境を越えて響き続けている。
Raekwon
Staten Island, New York · 1992–
Wu-Tang Clanのメンバー、本名Corey Woods。1995年のソロデビュー作『Only Built 4 Cuban Linx...』でマフィオソ・ラップというサブジャンルを確立した。映画『スカーフェイス』を下敷きにした映画的世界観とGhostface Killahとのコンビネーション、RZAの地下スタジオで生まれたダーティなブーンバップが融合し、東海岸ハードコアの新たな頂点を築いた。「Cuban Linx」はヒップホップ史上最も重要なソロアルバムの一つとしてローリングストーン誌ほか各メディアで評価されている。