この記事の見どころ
1995年リリース、Group Homeのデビューアルバム『Livin' Proof』収録。LilʼDapとMelachi the Nutcrackerによるブルックリン出身のデュオが、DJ Premierの重厚なブームバップビートの上で、ゲットーの厳しい現実から這い上がり「スーパースター」になる夢を語る。Kool & the Gangの哀愁漂うベースラインに乗せた、貧困・暴力・希望が混在するNYストリートの叫びだ。
Payday Records / FFRR Records からリリース。プロデュースはDJ Premier(D&D Studios)。サンプリング元はKool & the Gang「Slippin' Into Darkness」(1971年)のベースライン・ギター・ホーン、The Undisputed Truth「Smiling Faces Sometimes」(1971年)の女性ヴォーカル、The Honeydrippers「Impeach the President」(1973年)のドラムブレイク。BPM 88。M.O.P.「How We Do It」(1994年)とLord Finesse「Hip 2 da Game」(1995年)のアドリブをスクラッチに使用している。
1995年のニューヨーク——クラック・コカインの蔓延と貧困、そして高まる東西コースト対立の真っただ中。Gang Starr Foundationを主宰するGang Starrのバックアップのもと、ブルックリン出身の無名デュオGroup Homeが放ったこの一曲は、アンダーグラウンドシーンを即座に席巻した。西海岸G-Funkが全米チャートを席巻する中、NYブームバップの真正性と力強さを証明した作品だ。
★ ゲットーの日常をそのまま語りかけるオープニング
Damn son
What the f**k is wrong with you man?
まじかよ
お前、一体どうしたんだ?
s**t shouldn't be happening out here man
n***as don't be realizin' the s**t, man
こんなことが起きていちゃいけないのに
みんなわかってないんだ、この現実を
But yo, tell 'em what you be seein' out your window
Yo I be seeing out my window gunshots every day
お前の窓から見えるものを話してやれ
俺の窓から見えるのは毎日銃声だ
Man yo I be seeing sex money and drugs too but yo
Tell 'em how Duke said
The world's about to end
セックス、金、ドラッグも見えてる——でもよ
Dukeが言ってたことを教えてやれ
世界はもう終わりに向かってるって
★ ゲットーで生まれた者の宿命と選択
Born in the ghetto it's hard to survive
Some have achieved and many brothers tried
ゲットーに生まれたら生き抜くのは難しい
成功した者もいれば、多くの仲間が挑んだ
But I realized which life to choose
I wanna make money so I gotta pay dues
でも俺はどんな人生を選ぶか気づいた
金を稼ぎたいなら、まず代償を払わなきゃいけない
But there's no rules and you only have one chance
If ya f**k up kid you face the circumstance
でもルールなんてない、チャンスは一度きりだ
しくじったら、その結果を受け入れるしかない
At night I used to scream and shout
Livin' in the ghetto trying to get the hell out
夜に叫んでいた時期があった
ゲットーで生きながら、とにかくそこから出ようとしていた
So I would try as I watch my friends die
But all I could do was sit back and cry
だから挑もうとした——友人たちが死んでいくのを見ながら
でも俺にできたのは、ただ座って泣くことだけだった
These are feelings I'm expressing through my rhymes
I been through hard times so many problems on my mind
これが俺のライムで表現している感情だ
つらい時代を生き抜いてきた、頭の中には山ほどの問題がある
I wasn't living rich and I also wasn't poor
I try to appreciate but I deserve more
裕福でもなければ、貧乏でもなかった
感謝しようとはしているが、俺はもっと値するはずだ
★ パブロ・エスコバルへの言及——成功の極端な象徴
Yeah superman supa star
Give me supa fat dough like Pablo Escobar
そうだ、スーパーマン、スーパースター
パブロ・エスコバルみたいに超デカい金をくれ
"Super duper star"
「スーパー・デューパー・スター」
★ 「ビーフは食わない」——Group Homeの立場表明
Feared by bandits hated by chicks
Loved by kids I never did a bid
盗賊には恐れられ、女には嫌われ
子供には愛されている——俺は服役したことがない
Yes the Group Home is thick
Plus I don't eat beef 'cause these dizzy ass n***as that drink think s**t is sweet
Group Homeは強く太い(solid)
それに俺はビーフ(対立)はしない——酒飲みの頭おかしい奴らが甘くみてるからな
Yo I work hard and hard my man breaks it down through the guards
After that keep it movin' have no time to be foolin'
俺は懸命に働く——相棒はガードをかいくぐって分析してくれる
その後はとにかく前に進む、ふざけてる暇はない
Around town A&R's you get down with this hype sound
The things I say will make a grown man dream
街のA&Rたちよ、このハイプなサウンドで乗れ
俺が言うことは大人の男でさえ夢を見させる
I speak saying "Go by yourself, be by yourself"
Let my lyrics vibrate and shake the earth
俺は言う「自分の力で行け、自分であれ」
俺のライムが振動して地球を揺らすようにしてやる
I travel ghetto to ghetto, back streets to street
Kick a rhyme or crime with this ill mastermind
ゲットーからゲットーへ、裏通りから通りへと渡り歩く
この病的な策士とともにライムか犯罪を繰り出す
★ 母への敬意——ゲットーの感情の核心
Mom dukes used to tell me with these tears in her eyes
Now I'm out on my own surviving with the dime
母さんは涙を浮かべながら俺に言ったものだ
今は自分の力で生き抜いている、10セントで
Like an African tribe little Dap will blow your mind
Check it out like this
アフリカの部族のように、リトル・ダップはお前の頭を吹っ飛ばす
こんな感じでチェックしろ
"Super star"
「スーパースター」
★ DJ Premierのスクラッチ——声で刻むGroup Homeのアイデンティティ
("So what the f**k y'all movin' on up")
("Yes the Group Home is thick, so all y'all punks hear this")
(「で、お前らは一体どこへ上り詰めていくつもりだ」)
(「そうだ、Group Homeは強い——お前らパンクどもよく聞け」)
★ 「地獄のトンネルを歩く」——ダークネスとの共存
Walkin' the tunnels of hell the next level
It's the Nutcracker givin' hell to the devil
地獄のトンネルを歩く——次のレベルへ
ナットクラッカーが悪魔に地獄を見せてやる
Playin' the game the New York pain
Makes me wanna bust but I just maintain
このゲームを生きている——ニューヨークの痛みが
ぶっ放したくなるが、俺はただ維持する
'Cause nowadays I talk to a brother
Always love your mother 'cause you'll never get another
なぜなら今の俺は仲間に語りかける
常に母さんを愛せ——二度と別の母は得られないから
In the streets bustin' off shots f**k the cops
I got superstar props
ストリートで銃声が響く——警察はくたばれ
俺はスーパースターの称賛を手に入れた
★ ゾディアック・キラーより「iller(病的に凄い)」
Big time doe, money is a thriller
I'm gettin' more iller than the Zodiac killer
デカい金、金はスリラーだ
俺はゾディアック・キラーよりもillerになっていく
No lie but before I say bye
You can't take money with cha when you die
嘘じゃない——別れを告げる前に言っておく
死んだら金は持っていけない
"Super duper star"
「スーパー・デューパー・スター」
★ ブラントで迎えられる——成功の証
Yo I got n***as flipping they wig
Chicks grabbing they cunts
俺のせいで奴らは頭がおかしくなってる
女たちも興奮してる
As they rhyme they get doper and since they greet me with blunts
One time for your mind before I break these streets
ライムするにつれてどんどんdoper(ヤバく)なる——ブラントで出迎えてくれるから
このストリートをぶち破る前に、心の準備を一発
Ain't nothing holding me back hip hop track
Yo son you know the feelin' s**t will get revealed
ヒップホップトラックを前に俺を止められるものは何もない
わかるだろ——全てが明らかになっていく
As the times will get better
And you know I got skills I seen the days turn into nights
時代はよくなっていく
俺にはスキルがある——昼が夜になるのを見てきた
★ モエとドン・ペリニヨン——成功した未来の祝杯
As the stars shine bright
Motherf**kers Moet and chicks they keep steppin'
星が輝くように
野郎どもはモエ(シャンパン)と女を連れて現れ続ける
Like Dom Perignon, one day we'll live large
Word to Allah and it don't seem hard
ドン・ペリニヨンのように、いつか俺たちは大きく生きる
アッラーに誓って——それは難しくないように思える
No more jealousy and envy
Curse is put upon me
もう嫉妬も羨望もいらない
呪いが俺にかけられている
★ ロケットのように上り詰める——曲の決定的な宣言
Watch me live free as can be
With my n***as you'll see
Raising to the top like a rocket ship, yo I go far
見てろ、俺は思い切り自由に生きる
仲間と一緒に、わかるだろ
ロケット船のように頂点へ昇る——俺は遠くまで行く
"Super star"
「スーパースター」
("So what the f**k y'all movin' on up")
("Yes the Group Home is thick, so all y'all punks hear this")
("Yo check it check it out like this, here we go")
(「で、お前らは一体どこへ上り詰めていくつもりだ」)
(「そうだ、Group Homeは強い——お前らパンクどもよく聞け」)
(「よし、こんな感じで確認してみろ、さあいくぞ」)
Gang Starr FoundationとGroup Homeの位置づけ:Group Homeは、Gang StarrのDJ PremierとGuruが主宰する「Gang Starr Foundation」の一員。このクルーにはJeru the Damaja、M.O.P.、Bahamadiaらが名を連ね、1990年代East Coastヒップホップのアンダーグラウンドを牽引した。Group HomeのLil' DapとMelachi the Nutcrackerはブルックリン出身で、当時ほぼ無名だったが、DJ Premierの後ろ盾と卓越したビートによってデビュー作が即座に評価された。
東西コースト対立の時代:1995年は東海岸と西海岸のヒップホップアーティスト間の緊張が高まっていく過渡期。Dr. Dre・Snoop Doggが代表するG-Funkが全米チャートを席巻する中、NYブームバップ陣営は「リアルHIPHOP」としての自らのアイデンティティを音楽で証明しようとしていた。「Supa Star」はその文脈における東海岸の美学の凝縮だった。
「Smiling Faces Sometimes」サンプルの意味:The Undisputed Truthの「Smiling Faces Sometimes(笑顔の裏には嘘がある)」というヴォーカルサンプルは、曲のテーマと深く共鳴している。スーパースターの夢を語りながら、その裏に潜む欺瞞・嫉妬・暴力への警戒感——笑顔が必ずしも真実を語らないという哲学的なサブテキストがビートに埋め込まれている。
D&D StudiosにおけるDJ Premierの作業:DJ Premierは当時マンハッタンのD&D Studiosを拠点に、Gang Starr・Notorious B.I.G.・Nas・Group Homeなど数々の名盤を立て続けに手がけていた。「Supa Star」は複数のアナログレコードからサンプルを抽出し、ドラムブレイク・ベースライン・ヴォーカル断片・スクラッチを重ねる「手仕事」の極致。自身のグループGang Starrのビートと同等のクオリティをGroup Homeに提供した。
M.O.P.とLord Finesseへのリスペクト:スクラッチには同じGang Starr Foundation周辺のM.O.P.「How We Do It」とLord Finesse「Hip 2 da Game」のアドリブが使われている。これは単なるサンプリングではなく、クルー内の連帯と相互リスペクトの表明——D&D Studios周辺に集まったアーティストたちの共同体意識が音として刻まれている。
セルフサンプリング:Group Home自身の「Living Proof」もスクラッチの素材に使用されており、デビューアルバムとしての一体感を強調している。DJ Premierがアルバム全体を通じてGroup Homeのサウンドを定義しようとした意図が感じられる。
「プリモ・ビート」の教科書:「Supa Star」はDJ Premierの複数サンプル重層構造・スクラッチ挿入・ドラムブレイクの扱いが凝縮した「教科書的作品」として、後世のプロデューサーに多大な影響を与えた。Kanye West・No ID・9th Wonderら次世代のビートメイカーがPremierのサンプリング美学を参照する際に必ず挙げられる一曲。
日本での受容:1990年代後半の日本のヒップホップシーンで、「プリモ・ビート」はアンダーグラウンドの核として崇拝された。専門誌『blast』『FRONT』等で繰り返し特集され、渋谷HMVやディスクユニオンでの輸入盤の動きも活発だった。「Supa Star」は「East Coastヒップホップとはこれだ」という共通認識を日本のリスナーに植え付けた一曲だった。
Group Homeのその後:アルバム『Livin' Proof』は評価されたものの商業的な大成功には至らず、グループは1990年代後半に活動を縮小。しかし「Supa Star」は時間とともに評価が高まり、現在では1990年代NYブームバップの「定番クラシック」として確固たる地位を占めている。DJ Premierが現在もライブセットでかけ続けることがその証明でもある。
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Supa Star / Livin' Proof
Group Home
Group Home
Brooklyn, New York · 1992–2003
Lil' Dap(David James Sherrill Jr.)とMelachi the Nutcracker(Jamal Grimes)によるブルックリン出身のデュオ。Gang Starr FoundationのメンバーとしてDJ PremierおよびGuruの後ろ盾のもと、1995年デビュー作『Livin' Proof』をPayday Records / FFRR Recordsからリリース。DJ Premierがプロデュースした「Supa Star」はKool & the Gang・The Undisputed Truth・The Honeydrippersの複層サンプリングによる90年代ブームバップの金字塔。商業的な大成功には至らなかったものの、その音楽的クオリティは時を超えて高く評価され続けている。