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2013年リリースの『Yessir Whatever』収録曲。Quasimotoはカリフォルニア州オックスナード出身のプロデューサー・Madlib(Otis Jackson Jr.)が生み出したオルター・エゴで、自身の深いバリトンボイスをピッチアップして作った甲高い「Lord Quas」の声で知られる。この曲ではMadlib本人(Intro)とLord Quas(Verse 1)、さらにMadlibとしてのVerse 2が交差し、「俺のスタイルには誰も追いつけない」という自己顕示とメインストリームHHへの批判を展開する。
Stones Throw Recordsを拠点とするMadlibが、約12年間にわたって録り溜めてきたアーカイブから発掘した楽曲。制作年代は1990年代後半と推定される(歌詞中に「in '97」という言及がある)が、2013年6月18日リリースの『Yessir Whatever』で初めて正式発表された。Quasimotoというキャラクターは黄色い管状の鼻を持つ地球外生命体のような見た目で設定されており、Madlibのメインストリームへの不参加宣言とも言えるアーティスティックな武器である。
Madlibは自身の声を「ラップするには暗すぎる・低すぎる」と嫌悪し、機材の再生速度を落としてラップを録音し、通常速度に戻すことでヘリウムガスを吸ったような甲高い声「Lord Quas」を生み出した。この手法はChipmunksのような笑いを狙ったものではなく、匿名性とキャラクター性を纏うことでMadlib自身が商業主義の外側に立ち続けるための戦略でもあった。「Brothers Can't See Me」(俺に追いつける兄弟はいない)というタイトルは、そのオルター・エゴが吐く最大のボースティングである。
★ Madlib本人の声による侵攻宣言
Brothers can't see me
Brother Madlib invasion
Check it out
Brothers can't see me
俺に追いつける奴はいない
Madlib兄弟による侵攻だ
聞いてくれ
俺に追いつける奴はいない
★ 電波ジャック——アンダーグラウンドからの放送占拠
(Yo, Quasimoto taking over these airwaves
Flip the bow, never hitting with fair play)
(よお、QuasimotoがこのエアウェーブをTakeoverする
Bowをひっくり返す——フェアプレーで攻めることは決してない)
★ 退屈なメインストリームテープへの不満
My style hit you all in your auditory
Now adays when I buy a tape, yo that s**t be boring me
I be paying good money, to hear some whack s**t
Take it back to the warehouse and tracked it
俺のスタイルはお前の聴覚を直撃する
最近テープを買うと、あの糞は俺を退屈させる
まともな金を払って、クソみたいな音楽を聴かされている
倉庫に持って帰って追跡した
We be moving on you, we up on the nightly
Stepping over this way, you just might find fate
俺たちはお前に迫ってる、毎晩アップしてる
こっちの方に踏み込んでくれば、運命を見つけるかもしれないぞ
★ 「Astro Black」——Sun Raへのリスペクト
We on it like a witch hunt, I recommend Astro black
When you're talk about trying stitch stunts
俺たちは魔女狩りのように追い詰める——Astro Blackを勧めるぞ
スタント(見せかけの技)を縫い合わせようとするなら
★ 「Digga of the crates」——レコード掘り師の代名詞
Told to motivate the Digga of the crates
Invest ya loot, Digga be heard, every state molested
クレートのDigga(掘り師)を奮い立たせるよう言われた
金を投資しろ、Diggaは聞こえている、すべての州が侵される
(Why you trying to cross over black?)
I be getting high, keeping it fat
(なぜメインストリームに移ろうとするんだ?)
俺はハイになりながら、ファットに保ち続けてる
Brothers can't see me
Check it out
俺に追いつける奴はいない
聞いてくれ
★ 「the bad kid」——Madlibの自己規定
Madlib the bad kid, I'm the one that'll hit you with the total bliss
Whether extra crisp, or mad dirty poppin' hiss
Madlib、悪ガキだ——完全な至福でお前を打ちのめす奴が俺だ
超クリアでも、狂ったほどダーティでブチっとしたヒスでも
★ ビートコンダクター——音楽の指揮者としての自己定義
My s**t sound better than yours, I got the force
Why you going off course like you're given them drawers
Yo its the beat conductor, ya I went on tour
The only thing different is that you see a lot more
俺の音は お前のより上だ、俺には力がある
なぜコースを外れるんだ——まるでパンツを渡してるみたいに
よお、ビートコンダクター(指揮者)だ——そう、ツアーにも行った
唯一の違いは、お前がもっと多くを見ることだ
n***as frontin', b***hes stuntin'
(So Lord Quas keep it onto something, even if it's nothing)
(Yo why's that) Cuz most ya'll n***as is about bluffin'
ニガたちはフロンティン(見せかけ)、女たちはスタンティン(見せびらかし)
(だからLord Quasはたとえ何もなくても、何かを向けていろ)
(よお、なんで?)なぜなら、お前らのほとんどはブラフに過ぎないから
★ 「A-Stac」と「97年の欠如」——シーンへの診断
While we just trying to keep it on A-Stac(?)
Because the static what ya huffin'
Word to ASAP, ya'll need to bring it back
Cause in '97 a lot of n***as lack
俺たちはただA-Stacに保とうとしているだけ
なぜならスタティック(雑音)がお前らが吸ってるものだから
ASAPに言っておく——お前らはそれを取り戻す必要がある
なぜなら'97(1997年)には多くのニガが欠けていたから
Quasimotoというオルター・エゴの意義:ヒップホップは自己顕示とリアルネスを重んじる文化だが、MadlibはQuasimotoという架空のキャラクターの背後に隠れることで逆説的な「本物性」を獲得した。商業的な自己PRを拒否し、サンプリング芸術と音楽的実験のみを追求する姿勢は、J Dillaや他のアンダーグラウンドプロデューサーたちと並んで、2000年代以降のビートミュージックシーン全体に影響を与えた。
Stones Throw Recordsとオックスナードの地下室:MadlibはカリフォルニアのLAから少し北に位置するオックスナード出身。LAのメインストリームGファンクとは異なる音楽的環境で育ち、ジャズ・ソウル・ファンクのレコードを大量に蒐集した。Stones Throw Recordsは彼にとって自由の場であり、Quasimotoプロジェクトはレーベル最大のカルト的存在となった。
ピッチアップという技法の革命性:Madlib以前にもピッチ変換は使われていたが、それを「声への不満」から生まれた创作的解決策として一貫した世界観のキャラクターに昇華したのはMadlibの独創だった。Lord Quasの声はChipmunksのようなコメディとも、DeAmbrosio以降のエレクトロニックミュージックとも異なる、純粋にヒップホップ的なアナログ手法による音響実験になっていると思います。
ビートメイカーへの影響:Quasimotoの音楽はKendrick LamarがMadlibのビートを「最も影響を受けた」と発言するなど、次世代への影響は甚大。特にサンプリング素材の選択眼と「ダーティだが芸術的なグルーヴ」の追求は、Flying LotusやThundercatなどLAビートシーン全体の原点とも言える。
日本のシーンへの浸透:日本ではMadlibのプロデュース作(MadvillainのMF DOOMとのコラボ『Madvillainy』が特に有名)とともにQuasimotoも広く知られる。「crate digging(クレートディギング)」の文化とともに、東京・大阪のレコードショップでStones Throw盤がコレクターの間で高値で取引される。「Brothers Can't See Me」は特にMadlib入門曲として紹介されることが多い。
『Yessir Whatever』(2013年)の意義:発掘・再編集されたアーカイブ音源を収録した本作は、Quasimotoの「消えない」精神を示した。1990年代後半に録音されながら2013年に日の目を見た楽曲群は、時代を超えたMadlibの音楽的一貫性を証明している。
Quasimoto
Oxnard, California · 1999–
Madlib(本名Otis Jackson Jr.)がカリフォルニア州オックスナードで生み出したオルター・エゴ・プロジェクト。自身の深いバリトンボイスをピッチアップして作った甲高い「Lord Quas」の声が特徴。Stones Throw Recordsから2000年に『The Unseen』でデビューし、世界中のビートメイカーとアンダーグラウンドHHファンに絶大な影響を与えた。商業主義を拒否し、膨大なレコードコレクションに基づくサンプリング芸術の極北を追求する姿勢はJ Dillaと並ぶビートシーンの礎となった。
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