WAX&THINK

Mr. Slow Flow — Evidence スラング・英語解説

Mr. Slow Flowに出てくるスラングや言い回しの意味を、和訳つきで一つずつ読み解きます。

アーティスト
Evidence
リリース年
2007
プロデューサー
Sid Roams
収録アルバム
The Weatherman LP
エリア
LA
BPM
83

この記事の見どころ

  1. 01 Evidenceのソロデビューシングル。"The Weatherman LP"(2007)収録
  2. 02 Lost Angel・405・401K など、LAの地名・文化を埋め込んだリリシズム
  3. 03 hail/reign/rain、vets/pet doctorsなど二重三重の言葉遊びが随所に

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解説

■ LAのスローフロー、ここから始まる

AtmosphereのSLUGが率いるRhymesayers EntertainmentからリリースされたThe Weatherman LP。その先行シングルが「Mr. Slow Flow」です。

彼はMr. Slow Flowというあだ名で呼ばれるほど、ゆっくりとしたフロウが特徴で、曲名がそのまま彼の自己紹介になっています。

ヒップホップのフロー(ラップの流れ・リズムの乗り方)には、速さを競うスタイルと、言葉を一つひとつ丁寧に置くスタイルがあります。EvidenceはDilated Peoples時代から後者の代表格と言うべき存在だと思います。

テンポを落とした分だけ、一語の重さと言葉遊びの密度が際立ちます。

「Mr. Slow Flow」という名は彼自身のニックネームでもあり、このリリースでその名を曲タイトルに冠したことで、自分のスタイルに堂々とセルフラベルを貼ってみせました。

ゆっくりめのテンポは一語一語が聴き取りやすく、言葉遊びを追う余裕ができます。英語学習の教材としてピッタリな曲だと思います。

ストーリーの流れ — まず曲全体をつかむ

スラングを掘る前に、まず曲が何を語っているかをざっと流しておきます。全体の地図が頭に入ると、個々の言葉遊びが曲のどこに埋まっているかが見えてきます。

曲はイントロのひと声「Step it up」から始まります。プロデューサーSid Roamsが作り出すどこか不穏で、コーラスっぽい響きのビートが鳴り出して、EvidenceがMr. Slow Flowとして入ってきます。

Verse 1では、自分がLAのウェストサイドを背負ったアーティストであることを宣言します。405号線、グラフィティ、アンダーグラウンドの生き残り。

地名と文化を手掛かりに、自分が何者かを一行ずつ積み上げていきます。

終盤の「Peace ain't the word to play, it's violence / I ain't have s**t good to say, so here's silence」は、Main Sourceの名曲へのリスペクトとも取れます。業界の茶番に黙って突きつける皮肉とも読めます。

HookはDJ Revolutionによるスクラッチです。「I slow flows y'all to death」。

HOOKは歌詞ではなく、切り貼りした音のコラージュになっています。

Verse 2は、感情を押し殺してベストを出すことの難しさ、過去の後悔を引きずらない姿勢、そして「J-O」(=仕事)に真剣に向き合う現在地を語ります。

キャリアの変節点、Dilated Peoples時代から自分自身の名前でやっていくことへの、静かな決意表明のようなバースだと思います。

Verse 3はもっと内省的で、かつての無謀さ(Ice-Tの「Reckless」を引いて)と今の自分を対比します。チェスとチェッカーの比喩、夢で繰り返す悪夢。

そして最後に、「LAから雨は降らないのに、なんでLAからゲームを制覇できないと言う?」という痛烈なパンチラインが待っています。

アウトロでEPMDのPMD(Parrish Smith)が突然登場し、短い二行で「Mr. Slow Flow」という名前を最後にもう一度刻んで終わります。

※本ページは批評・教育目的で、解説に必要な範囲の断片のみを引用しています。全歌詞の対訳は掲載していません。

学ぶ表現 — スラング・韻・言葉遊び・AAVE

各見出しは「この曲から学べる英語表現」です。各ユニットはまず上に英語の用例(1〜2行)を置いてあります。

先に英語を音で追い、行のどこが学習対象かを確かめてから下の日本語解説に進むと、頭に入りやすいと思います。

smoked a whole eighth in a spliff — 分量とブツの言い方

★ スラング/ドラッグ語彙
Evidence(Verse 1) ≈0:08

I just smoked a whole 1オンスの8分の1(約3.5g)。マリファナの取引・所持でよく使われる分量の単位 in a マリファナとタバコを混ぜて巻いたジョイント。カリブ/英国由来の言い方で、blunt(葉巻の皮で巻く)とは巻き方が違う

まるまる1/8(eighth)をスプリフ1本で吸い切った

▶ Verse 1の入り。自己紹介の前に、まず生活の手触りから始まる件です。

行の後半にeighthとspliffという二つの語が並びます。eighthは「8分の1」、つまり1オンスの1/8(約3.5g)を指す分量の言い方です。

数字がそのまま量の単位として通用するのが面白いところだと思います。

続くspliffは、マリファナにタバコを混ぜて巻いたジョイントのこと。blunt(葉巻の皮で巻くタイプ)とは巻き方も呼び名も違うので、聴き分けられると英語の細かいニュアンスが見えてきます。

Some call that a problem but I call it a gift — 対義語で切り返す

★ 言葉遊び(対句)
Evidence(Verse 1) ≈0:12

▶ Verse 1序盤。直前の一行を受けて、評価をひっくり返してみせる対句です。

ここはproblem(問題・欠点)とgift(才能・授かりもの)という対義語の置き方が聴きどころです。

「他人はこれを問題だと言うが、俺は才能だと言う」。同じ事柄を、視点を変えるだけで欠点から長所へ反転させる手口です。

some call it X, I call it Y(それをXと呼ぶ人もいるが俺はYと呼ぶ)は英語で定番の言い回しで、自分の立場を一行で言い切るときに便利な型だと思います。

語法 — どう使うか ▼

Some call it ~, I call it ~ は、同じ物事に別のラベルを貼り直して価値観の違いを示す構文です。Some call it luck, I call it hard work(運と言う人もいるが、俺は努力と呼ぶ)のように使われます。

ヒップホップでは自己肯定・反骨のニュアンスで多用されます。

light my dutch then start to drift — 運転とブツを重ねる

★ 言葉遊び(二重義)
Evidence(Verse 1) ≈0:17

Hit the clutch then I start to shift
Turn it up, light my ダッチマスターの葉巻。中身のタバコを抜きマリファナを詰めて巻く(=blunt)ための定番ブランド もう一度タップで詳細 → then start to ①車が横滑りする(ドリフト走行)②意識がふわっと漂う。運転と喫煙の両方に掛かる

クラッチを踏んでギアを入れる/ボリュームを上げ、ダッチに火を点けて、そのまま流れていく(drift)

▶ Verse 1序盤。運転の描写と喫煙の描写が一本のラインで重なる件です。

ここはclutch / shift / driftという運転の語彙で組まれています。クラッチを踏んでギアを入れ替え、車が滑り出す。

運転好きにはそのまま情景が浮かぶ流れです。

ところが間にlight my Dutch(ダッチに火を点ける)が挟まります。ここでdriftが二重になり、車の横滑りと、意識がふわっと漂う感覚の両方に掛かります。

運転とスモークを一本の線で重ねる、静かな言葉遊びだと思います。

Lost Angel, Westside rider — LAを「失われた天使の街」と呼ぶ

★ スラング/地域語
Evidence(Verse 1) ≈0:20

Lost Angel, ウェストサイド(LAの西側地区)を背負ったライダー。地元へのロイヤリティを示す常套句
The official, ロサンゼルスの405号線は週末前の金曜に最悪の渋滞が起きることで有名。LAの生活感そのものを一語に凝縮した表現 , sound provider

ロスト・エンジェル(失われた天使の街)、ウェストサイドの使者/公式のサウンドを提供する者、405フライデーの男

▶ Verse 1の冒頭。EvidenceがLAアーティストとしての自己紹介を始める最初の二行です。

まず上の一行目、Lost Angel。これはLos Angeles(ロスアンジェルス)の英訳ダジャレで、スペイン語の「los ángeles(天使たち)」を「Lost(失われた)Angel(天使)」に読み替えた言い方です。

LAのラッパーがよく使う地元の別称で、Westcoastのアーティストがここを出していくと「あ、LAの人だ」とすぐわかります。行末のWestside riderは、LAウェストサイドの住人・代表者というニュアンス。

自分のルーツを宣言する定番の一句です。

二行目のfour-oh-five Fridayは、そのままLA市民の日常生活感そのもの。LA在住者はこれだけでニヤリとする固有名詞だと思います。

語法 — どう使うか ▼

rider はヒップホップで「~の側に立つ人・忠誠心を持つ人」の意。ride for someone(~の味方につく)という句動詞から来ており、Westside rider なら「ウェストサイドのために乗り込む=ウェストサイドを背負って生きる者」。

East/West/Southside に付けて、自分のフッドへのロイヤリティを示す常套句として広く使われます。

Unsigned death threats written in typewriters — 「unsigned」の二重義

★ 言葉遊び(ダブルミーニング)
Evidence(Verse 1) ≈0:44

アンダーグラウンドの殺し屋。ここではメジャー流通に乗らないMCとしての凄みを刺客に例える比喩 , hard to hire
①(レーベルと)契約していない=インディー②(手紙が)署名なし。脅迫状の「差出人不明」と自分の「未契約」を重ねる death threats written in typewriters

アンダーグラウンドの殺し屋、雇うのは難しい/差出人不明(unsigned)の脅迫状を、タイプライターで打つ

▶ Verse 1中盤。自分を刺客に見立てた比喩が続く件です。

学習対象は二行目頭のUnsignedです。ここが二重になっています。

一つは「レーベルと契約していない(=インディー、unsigned artist)」の意味。もう一つは「(手紙に)署名がない、差出人不明の」の意味です。

脅迫状をwritten in typewriters(タイプライターで打つ)と続けることで、後者の「差出人を隠した匿名の脅迫状」というイメージがぐっと立ちます。自分の「メジャー未契約」という立場を、脅迫状の「署名なし」に重ねる。

一語で二つ言う仕掛けだと思います。

語法 — どう使うか ▼

unsigned は音楽業界で「レーベルと契約していないアーティスト」を指す基本語です。an unsigned rapper(インディーのラッパー)のように使います。

同時に一般英語では「署名のない・差出人不明の」の意味も持ち、an unsigned letter(差出人不明の手紙)のように使われます。この二つの意味を一語に重ねるのがパンチラインの核です。

Fake it 'til you make it — 定番イディオムを皮肉で使う

★ イディオム
Evidence(Verse 1) ≈0:55

▶ Verse 1中盤。業界のハッタリ体質を皮肉る一行に出てくる定番イディオムです。

ここで使われるFake it 'til you make itは、英語圏でよく知られた自己啓発フレーズです。直訳は「成功するまでは、成功しているフリをしろ」。

自信がなくても、あるように振る舞っていればいずれ本物になる、という励ましの決まり文句です。

Evidenceはこれを額面どおりの励ましでは使いません。直後に「お前は嘘つきが本当に上手い(you're such a good liar)」と付けて、ハッタリだけで上に行こうとする連中への皮肉に反転させています。

よく知られた慣用句だからこそ、裏返したときの効きが強い一行だと思います。

語法 — どう使うか ▼

Fake it till you make it は「できるフリを続ければ、やがて本当にできるようになる」という英語圏の定番フレーズです。就職・起業・自己啓発の文脈で前向きに使われることが多い一方、ここでは「中身のないハッタリ」への当てこすりとして皮肉に転用されています。

慣用句は文脈しだいで賞賛にも批判にもなる好例です。

Headliners used to not make the flyer — ライブ興行の語彙

★ スラング(業界語)
Evidence(Verse 1) ≈1:00

▶ Verse 1中盤。下積みから見た業界の逆転を一行で言う件です。

歌詞のHeadlinersとflyerが対になっています。headlinerはライブのトリ、看板として名前が一番大きく載る出演者のこと。

flyerはその告知チラシで、格が上のアクトほど大きく刷られます。

「今トリを張っている連中も、昔はチラシに名前すら載らなかった」。ライブ興行の現場を知る言葉で、成り上がりの皮肉をさらっと差し込んでいます。

ヒップホップのライブ文化がそのまま語彙になっている一行だと思います。

Four-oh-one K — 405と401kを重ねた数字ダジャレ

★ 言葉遊び
Evidence(Verse 1) ≈1:05

401(k)=アメリカの確定拠出型年金制度。ここでは「405号線」と「引退(retire)」も掛けた三重ダジャレ , and I don't mean retire

フォーオーワンK(401k)——でも引退するって意味じゃない

▶ Verse 1中盤。上で「four-oh-five」を出した直後、数字の変形を仕掛けてくる件です。

上の行の音がポイントです。Four-oh-one K。

直前にあった「four-oh-five」(405号線)の語呂を崩して、今度は401(k)、アメリカの確定拠出型年金(老後のための積立制度)を指す数字に変えています。

さらにその直後に「and I don't mean retire(引退するって意味じゃない)」と付きます。401kは老後資金から引退へと連想が伸びる語なので、それを自分でわざわざ刈っておいて「俺はまだまだやるつもりだ」というアンサーを一息で叩き込みます。

four-oh-fiveから一文字変えてダジャレを成立させ、しかも引退否定まで入れた三段構えです。こういう遊びが随所にある曲だと思います。

語法 — どう使うか ▼

401(k) はアメリカの税法401条(k)項に定められた確定拠出年金制度。給与天引きで積み立て、運用益に課税されない仕組みで、日本のiDeCoに近い制度です。

「引退・老後」の象徴として使われるので、ここで「I don't mean retire」と即否定することで、「俺の405は老後の話じゃなく、今ここのLA高速の話だ」という二重の意図が立ち上がります。

Chase loops, still war all day — サンプリングの現場語

★ スラング(制作語彙)
Evidence(Verse 1) ≈1:12

▶ Verse 1終盤。ビート作りの日常を、そのまま一行に落とし込む件です。

ここで学びたいのはchase loopsという言い回しです。loopはサンプリングで抜き出して繰り返す短い音の断片のこと。

chase loopsで「使えるループを探して掘り続ける」という制作の現場感を表します。

Evidence自身がプロデューサーでもあることを思うと、この一行は比喩というより日常の描写に近いのかもしれません。レコードを掘ってループを探す作業を、そのまま生活として置いています。

制作を知る言葉が自然に韻に混ざってくるのが、この人らしいところだと思います。

Peace ain't the word to play — Main Sourceへのリスペクト

★ リリカル・リファレンス
Evidence(Verse 1) ≈1:23

Peace ain't the word to play — it's violence
I ain't have s**t good to say, so here's silence

「平和」は今の俺には似合わない——あるのは暴力だ/言えることが何もないから、ここは沈黙でいく

▶ Verse 1の締め近く。業界への苛立ちと、沈黙という強さを対比させる件です。

注目は上の二行です。一行目「Peace ain't the word to play」は、1991年のMain Source(Large Professor主導のトリオ)の楽曲「Peace Is Not the Word to Play」への直接的なオマージュ。

ヒップホップの先達の言葉を引きながら、自分の状況を重ねていく書き方です。

そしてそれを受けて二行目「I ain't have s**t good to say, so here's silence」。言うべきことがないから「沈黙を置く」という運びです。

これは本来、批判や反論の場面で使われる手なのに、あえてバース内で「黙る」と宣言して閉じていきます。沈黙を意図的に武器にするという逆張りの文体がカッコいいと思います。

語法 — どう使うか ▼

ain't have はAAVEの否定過去形。標準英語なら didn't have。

ain't は be動詞・have・do の否定に広く使えるため、ここでは I didn't have anything good to say と同義。s**t は「何も(ない)」を強調する俗語で、ain't have s**t = 「何一つ持っていない/言えることが全くない」の意になります。

I slow flows y'all to death — フックのAAVE三人称

★ フック/AAVE文法
DJ Revolution cuts(Hook) ≈1:35

I ゆっくりしたフロウで畳みかける、というEvidenceの代名詞的スタイル。主語Iに-sが付くのがAAVE的 y'all to death

俺はスローなフロウで、お前ら全員を殺しにいく

▶ Hook。DJ Revolutionのスクラッチが切り貼りするフレーズです。

このフックはDJ Revolutionが別音源から切り出してスクラッチで並べたもので、曲を通して何度も繰り返されます。学習対象は文法の細部です。

主語がIなのに動詞がslow flowsと-s付きになっています。

標準英語では三人称単数(he/she)にしか付かない-sを、一人称に付けるのはAAVE(アフリカ系アメリカ人英語)でよく見られる現象です。行末のto deathは「死ぬほど〜する/徹底的に〜する」を表す強調表現。

ゆっくりしたフロウで相手を圧倒する、という自己宣言になっています。

語法 — どう使うか ▼

文末のto deathは「〜し尽くす・死ぬほど〜する」を表す口語表現です。bored to death(死ぬほど退屈)、work to death(死ぬほど働く)のように動詞や形容詞に付きます。

ここでは「スローフロウで完全にやっつける」という誇張の決め台詞になっています。

Don't hold weak cards, don't hold regrets — トランプの比喩

★ 比喩・イディオム
Evidence(Verse 2) ≈1:53

▶ Verse 2序盤。生き方の指針をカードゲームに例える件です。

ここはhold weak cardsという比喩が効いています。cardはトランプの手札のことで、weak cardsは「勝ち目のない弱い手」。

それをhold(握り続ける)なという言い方です。

続くdon't hold regrets(後悔を抱え込むな)と、holdという同じ動詞で韻とリズムを揃えています。弱い手札に固執しない、過去を引きずらない。

人生訓をカードゲームの語彙一つで言い切るのが小気味いいと思います。

語法 — どう使うか ▼

hold cards(手札を持つ)は英語で「状況をコントロールする力・切り札を握る」の比喩として広く使われます。hold all the cards(すべての主導権を握っている)が定番の言い回し。

ここではweak cards(弱い手)と否定を組み合わせ、「勝てない状況にしがみつくな」という生き方の指針に変えています。

past the seventh inning stretch — 野球イディオム

★ イディオム(スポーツ)
Evidence(Verse 2) ≈2:00

▶ Verse 2序盤。人の本質を野球の比喩で語る件です。

この行のseventh inning stretchが学習対象です。これは野球で、7回の表裏の切れ目に観客が総立ちになって伸びをする、アメリカ独特の慣習を指します。

試合の終盤に入る合図のような瞬間です。

ここではそれが「物事の後半戦・大詰め」の比喩として使われています。「playersってやつは、後半に入っても本質は変わらない」。

野球文化が生活に染み込んでいるからこそ通じる言い回しで、アメリカのスポーツ語彙を知る入口としても面白いと思います。

語法 — どう使うか ▼

seventh inning stretch はメジャーリーグ観戦の名物慣習で、7回途中に観客が立ち上がり「Take Me Out to the Ball Game」を歌います。日常会話でも「物事の終盤・佳境」を指す比喩として使われます。

player は「(恋愛などで)遊び人・したたかな立ち回りをする人」の意も持ち、ここは両義的に響きます。

Learned from vets and they ain't pet doctors — 「vet」二重義

★ 言葉遊び(ダブルミーニング)
Evidence(Verse 2) ≈2:08

Learned from ①退役軍人(veterans)②獣医(veterinarians)のダブルミーニング。ここでは「先輩・猛者」の意で用いてさらに混乱を加える もう一度タップで詳細 → and they ain't pet doctors
They the type they arrest in "Clockers"

「ベテラン(vet)」たちから学んだ——ペットの医者(獣医)じゃない方の / 逮捕されるタイプの——映画「クロッカーズ」に出てくるような

▶ Verse 2序盤。自分の師匠筋を語りながら「どんな人物か」を笑いと凄みで描写する件です。

行の真ん中、「Learned from vets」。音で追うと、vets が二つの意味を持つと分かります。

①veterans(退役軍人から転じて「業界の猛者・先輩」)、②veterinarians(獣医)です。

Evidenceは一拍置いてすぐ「and they ain't pet doctors」と足して、「獣医じゃないほうね」と自分で種を明かします。笑いで軽く崩しておいて、次行「映画クロッカーズに出てくるような逮捕されるタイプ」でスッと締めます。

この緩急が面白いところだと思います。

「Clockers(クロッカーズ)」はスパイク・リー監督の1995年映画で、ドラッグディーラーたちの苦悩を描いた作品です。「そういう世界の人たちから俺は学んだ」。

ただし獣医からじゃない、というわけです。

語法 — どう使うか ▼

ヒップホップでのvet(ベット)の使い方: veteran の短縮形として「業界の先輩・猛者」を指す。rap vets(ラップの先輩世代)、game vets(ゲームのベテラン)のように使う。

発音がveterinarian(獣医)の短縮形と全く同じなので、直後に「pet doctors じゃない」と打ち消せばダジャレが成立する。英語の異義同音語ギャグの典型パターンです。

We sellin out these operas, and don't mean sing — 「sell out」の二重義

★ 言葉遊び(ダブルミーニング)
Evidence(Verse 2) ≈2:16

We ①(チケットを)完売させる②(信念を)売り渡す=魂を売る。ここでは前者(満員にする)で、後者の悪い意味を打ち消す these operas, and don't mean sing
I mean opera house stage we rockin

俺たちはオペラ座を満員(sell out)にする——歌う意味じゃない/オペラハウスの舞台を沸かせるって意味だ

▶ Verse 2中盤。会場を満員にする実力を、語の二重義で言う件です。

学習対象はsellin outです。sell outには二つの意味があります。

一つは「チケットを完売させる=会場を満員にする」。もう一つは「信念を売り渡す=魂を売る」で、こちらはヒップホップでは最大級の侮辱語です。

Evidenceはここで前者、つまり「オペラ座を満員にする」の意味で使い、しかもopera(オペラ)から連想される「歌う」を「don't mean sing(歌う意味じゃない)」と先回りで打ち消します。悪い意味のsell outでもないし、オペラだからって歌うわけでもない。

一語で二度否定する、丁寧な言葉遊びだと思います。

語法 — どう使うか ▼

sell out の二面性: 興行では sold-out show(完売公演)とポジティブに使う一方、He sold out は「金や名声のために信念を捨てた」という強い非難になります。ヒップホップでは後者が特に嫌われる概念で、だからこそここで「良い方のsell out(満員)だぞ」とわざわざ断る面白さが生まれます。

C-A, all day / Reppin it — 州名を綴りで出す

★ スラング(地域語)
Evidence(Verse 2) ≈2:22

▶ Verse 2中盤。地元カリフォルニアへのロイヤリティを短く刻む件です。

ここはC-Aとreppinの二語がポイントです。C-AはCalifornia(カリフォルニア)の略で、州の郵便略号「CA」を一文字ずつ読んでいます。

地名をフルで言わず、綴りやイニシャルでリズムに乗せるのはヒップホップの常套手段です。

reppinはrepresent(代表する・背負う)の口語形で、「地元を背負って立つ」というニュアンス。all day(一日中=いつでも・徹底的に)と合わせて、「カリフォルニアをいつでも背負ってる」という地元宣言になっています。

前半で出た Lost Angel や405と一本の線でつながる一節だと思います。

語法 — どう使うか ▼

rep / reppin は represent の短縮で、「(フッド・チーム・信条を)代表して背負う」の意。reppin my city(自分の街を背負ってる)のように使います。

all day は文字どおりの「一日中」から転じて「いつでも・当然・徹底的に」を表す強調句で、I'll take that all day(それなら喜んで受ける)のように使われます。

party time, excellent — Wayne's Worldの決め台詞

★ ポップカルチャー・リファレンス
Evidence(Verse 2) ≈2:26

▶ Verse 2中盤。90年代コメディの名台詞をさらっと引く件です。

ここで出てくるparty time, excellentは、1992年の映画「Wayne's World(ウェインズ・ワールド)」の決め台詞をなぞったものです。冴えないメタル好きの若者が「Party time! Excellent!」と叫ぶ、当時アメリカで大流行したギャグでした。

ハードなバースの流れに、こうしたお茶目なポップカルチャーの引用をさらっと差し込むのがEvidence流だと思います。元ネタを知っている世代ほどニヤリとできる仕掛けで、90年代アメリカのお茶の間文化がラップに溶け込んでいる好例です。

that ain't PC / that ain't E-V — 略語二つで韻を踏む

★ 言葉遊び(イニシャル)
Evidence(Verse 2) ≈2:34

Yeah, that ain't politically correct(政治的に正しい/差別的でない)の略。ここでは「品行方正」のニュアンス
But sometimes that ain't Evidence自身のイニシャル。直前のPCと音で対にして、「それは俺(EV)らしくない」と重ねる

ああ、それはPC(品行方正)じゃない/でも時々、それは俺(E-V)らしくもない

▶ Verse 2後半。二つのイニシャルを並べて韻にする件です。

ここはPCとE-Vという二つの略語の並べ方が聴きどころです。PCはpolitically correct(政治的に正しい、差別的でない)の略で、日本語でも「ポリコレ」でおなじみです。

ここでは「品行方正・当たり障りがない」くらいのニュアンスで使われています。

それを受けてE-V、つまりEvidence自身のイニシャルを出します。「それはPCじゃない、でも時々それは俺(EV)らしくもない」。

世間的な正しさと、自分らしさを、二つのアルファベット略語の音でつないでみせる。イニシャルで韻を踏む技のわかりやすい一例だと思います。

語法 — どう使うか ▼

PC = politically correct は「特定の集団を傷つけない配慮のある言動」を指し、名詞的に that's not PC(それは差別的だ/配慮に欠ける)のように使います。ラップではアーティストのイニシャル(ここではEV=Evidence)を単語のように扱って韻を踏むことが多く、略語同士を並べて音を合わせるのは定番のテクニックです。

I'm on my J-O, issue payroll — 「仕事」を隠語で言う

★ スラング(AAVE語彙)
Evidence(Verse 2) ≈2:40

Right now I'm on my J-O-B(仕事)の頭二文字。「仕事モード」「グラインド中」の意。口に出したくない普通の労働を隠語化したスラング もう一度タップで詳細 → , issue payroll

今は自分のJ-O(仕事)に集中してる、給料を出す側として

▶ Verse 2後半。今の自分のスタンスを宣言するパンチラインです。

学習対象は行の前半「J-O」。

行の前半「I'm on my J-O」。この J-O が学習ポイントです。

J-O-B(ジョブ=仕事)の最初の二文字だけを取り出して、仕事・グラインドを指す隠語として使います。

「仕事」を面と向かって言いたくないストリートの空気感から生まれたスラングで、「今は真面目にやってる」「仕事モードに入っている」のニュアンスです。

後半「issue payroll(給料を払う立場として)」と続くことで、ただ働いているだけじゃなく、人に仕事を与える側に回ってきた、という成り上がりのニュアンスが加わります。issue payroll という少し硬い表現を使うことで、ちょっとした威厳が出ていると思います。

語法 — どう使うか ▼

on my J-O の構文: be on one's ~ は「〜に集中している・〜モードに入っている」。I'm on my grind(必死に稼いでいる)、I'm on my s**t(自分のスタイルでやってる)と同じ構造。

J-O のようなイニシャル略語は、具体的な語を直接言いたくないときや、韻のリズムに合わせたいときに使われます。

I used to be Ice-T "Reckless" — 曲名を形容詞として使う

★ リリカル・リファレンス
Evidence(Verse 3) ≈3:03

I used to be Ice-T " 1984年映画「Breakin'」サントラ収録の楽曲(Ice-T客演)。Ice-Tの初期アウトロー的イメージを象徴する曲として知られる " (RECKLESS)
Wild out like I'd never see breakfast

かつての俺はIce-Tみたいに「無謀(Reckless)」だった/朝飯を二度と食えないかもと思いながら、やりたい放題だった

▶ Verse 3冒頭。過去の自分を振り返るスタート地点です。

「I used to be Ice-T "Reckless"」。行の中ほど、引用符付きの Reckless が学習対象です。

Ice-TはLAのOGで、無謀でアウトロー的なキャラクターで知られています。ここでは彼の名前を冠したまま「reckless(無謀・向こう見ず)」という形容詞として機能させています。

アーティスト名をそのまま形容詞的に埋め込む、これはヒップホップリリックの技術のひとつで、Ice-Tを知っているほどニヤリとできます。

続く「Wild out like I'd never see breakfast」。朝ごはんを二度と食えないかも(=死ぬかも)と思いながら暴れていた、という意味です。

死が常に隣にある過去をさらっと一行に閉じ込めています。今のEvidenceから当時の自分を語る、少し遠い目のような一行だと思います。

語法 — どう使うか ▼

wild out は「激しく暴れる・過激に振る舞う・制御を失う」の意。He wilded out at the party(パーティでやりたい放題やった)のように使う。

like I'd never see ~(〜を二度と見られないかのように)は「命がけで・ガムシャラに」を表す比喩表現で、eat like I'd never see food again(食べられないかのように食い散らかす)のようなパターンで頻出します。

Nightmares, tie in dreamcatchers — ネイティブの魔除けを引く

★ カルチャー語彙
Evidence(Verse 3) ≈3:12

▶ Verse 3序盤。悪夢のイメージを、身近な魔除けに結びつける件です。

ここで学びたいのはdreamcatcherという語です。ネイティブ・アメリカン(オジブワ族など)に由来する魔除けで、輪に糸を蜘蛛の巣状に張り、羽を垂らした装飾品です。

悪い夢を網で捕らえ、良い夢だけを通すとされ、寝室に吊るす風習があります。

EvidenceはNightmares, tie in dreamcatchers(悪夢をドリームキャッチャーに結びつける)と歌います。捕らえきれない悪夢が、逆にドリームキャッチャーの網に絡みついてしまうような、不穏なイメージです。

日用品や民間信仰の語彙をそのまま韻に持ち込むことで、内面の不安を具体的な物で描いています。

They win at chess, still lose at checkers — 勝ちの中の本当の負け

★ 比喩・イディオム
Evidence(Verse 3) ≈3:35

They win at chess, still lose at checkers
That ain't weakness, it's a death wish

チェスで勝っても、チェッカーでは負ける/それは弱さじゃない——死を望んでるようなものだ

▶ Verse 3中盤。対抗相手への評価を独自の比喩で言い切る一節です。

上の二行は音で追うと違いが見えてきます。chess / checkers の対比が聴きどころです。

チェスは複雑な戦略ゲーム、チェッカーはよりシンプルなボードゲームです。「複雑な場面では勝てても、基本的なところで足元をすくわれる」という逆説を、ゲーム名の対比一発で表現しています。

続く「That ain't weakness, it's a death wish」。それは単純な弱さじゃなく、死を望んでいるようなものだ、という断定です。

比喩から一転して直球の警告へ。短い二行に冷ややかな皮肉が詰まっていて、何度聴いても刺さります。

語法 — どう使うか ▼

death wish(デスウィッシュ)は「死を望む心理・自滅願望」。You have a death wish(死にたいのか)は、危険な行動を取る相手への警告・皮肉として口語でよく使う。

映画タイトルとしても有名で(1974年「Death Wish」など)、ヒップホップでは「リスクを無視して突っ込む者」への批評として使われます。

Choke 'em out; another off the checklist — 淡々と片付ける凄み

★ スラング/比喩
Evidence(Verse 3) ≈3:42

相手を絞め落とす=完全に黙らせる・制圧する。格闘技のチョークスリーパー由来の比喩 ; another off the やることリスト。標的を事務的に消し込むイメージで、冷徹さを演出する

絞め落とす(choke 'em out)、これでまた一件リストから消えた

▶ Verse 3中盤。ライバル処理を事務作業のように言う件です。

ここはchoke 'em outとchecklistの落差が効いています。choke outは格闘技のチョークスリーパー由来で、「相手を絞め落とす=完全に黙らせる・制圧する」の比喩です。

その激しい動作を、another off the checklist(またリストから一件消えた)と、まるで買い物メモを消し込むように淡々と受けます。暴力的なイメージを事務的な語彙で締めることで、かえって冷徹さが際立ちます。

この温度差の付け方が面白いと思います。

語法 — どう使うか ▼

check off / off the checklist は「やることリストから消し込む・完了させる」を表す日常表現です。check it off the list(リストから消す)のように使います。

深刻な対象をこの軽い事務語彙で処理してみせると、淡々とした凄み・皮肉が生まれます。

drove too far to hear they closed the guestlist — 会場入りの語彙

★ スラング(業界語)
Evidence(Verse 3) ≈3:50

▶ Verse 3中盤。報われなさを、ライブ会場の一場面で描く件です。

学習対象はguestlistです。ライブやクラブで、主催者側が入場を許可した「招待客リスト」のこと。

ここに名前があれば、チケットなしでも、あるいは無料で入れます。逆にリストがclosed(締め切られた)と言われれば、もう入れません。

「わざわざ遠くまで運転してきたのに、着いたらゲストリストは締め切られていた」。前の行の「I came too far not to be respected(敬われないためにここまで来たわけじゃない)」と重なって、努力が報われない苛立ちを、ライブ現場の具体的な語彙で描いています。

抽象的に「報われない」と言わず、guestlistという一語で情景を立てるのがうまいと思います。

語法 — どう使うか ▼

guestlist(ゲストリスト)はライブハウス・クラブ文化の基本語で、put me on the guestlist(俺をゲストリストに入れといて)、I'm on the list(リストに載ってる)のように使います。closed the guestlist は「受付を締め切った」で、入場を断られる場面を短く表す言い方です。

these cats are dogs — 「雨」イディオムを分解する

★ 言葉遊び(イディオム分解)
Evidence(Verse 3) ≈3:57

A new rain out the smokin bar
Umbrellas up, these rain cats and dogs(土砂降り)というイディオムを分解し、「cats(気取った奴ら)は実はdogs(見下げた奴ら)だ」という侮蔑に転用

スモーキーなバーから新しい雨が降り出す/傘を差せ、こいつら猫(cats)は実は犬(dogs)だ

▶ Verse 3終盤。天気イディオムを分解して悪口に変える件です。

ここは英語の有名なイディオムrain cats and dogs(土砂降りになる)を下敷きにしています。前の行でrain(雨)とumbrellas(傘)を出し、雨の情景を作っておきます。

そのうえでthese cats are dogsと、イディオムの中のcatsとdogsだけを抜き出して組み替えます。catはスラングで「気取った奴・やつ」、dogは「見下げた奴・卑劣な奴」。

「こいつら気取ったcats(連中)は、実はdogs(下衆)だ」という侮蔑に化けます。

The Weatherman(気象予報士)を名乗るEvidenceらしく、天気の語彙がこの曲では終始効いています。次のhail / reignのパンチラインへの助走にもなっている一節だと思います。

語法 — どう使うか ▼

rain cats and dogs は「土砂降りになる」を表す英語の定番イディオムです。語源は諸説あり定説はありません。

ここではそのイディオムを分解し、cat(気取った男)と dog(卑劣な男)というスラングの意味に読み替えることで、天気の話から人物批評へすり替える言葉遊びに仕立てています。

hails in L.A / reign the game and hail from L.A — 三重の掛け声

★ 言葉遊び(同音異義)
Evidence(Verse 3) ≈4:02

And just because it barely ever ①hail(ひょうが降る)②hail(賞賛・敬意を示す) in L.A
They say I can't reign(支配・君臨)。rain(雨)・hail(ひょう)と「天気」シリーズで続く同音異義語 the game and hail from〜(〜の出身である)。hail(ひょう)と同音 L.A.?

LAにひょう(hail)がほとんど降らないからって/LA出身者(hail from L.A.)が、ゲームに君臨(reign)できないと言うのか?

▶ Verse 3の終盤。曲のいちばんの言葉遊びが炸裂する件です。

上の二行が聴きどころです。hails / reign / hail from。

天気・支配・出身が絡み合っています。

一行目の hails:「ひょうが降る(hail)」。LAはほとんどひょうが降らないことで知られます。

二行目の reign:「支配・君臨(reign)」。発音は「rain(雨)」と全く同じ。

そして hail from L.A.:「LAの出身である(hail from)」。これも「ひょう(hail)」と同音です。

「LAはひょう(hail)が降らない、だからLAの奴(hail from L.A.)はゲームに君臨(reign=rain)できない、なんて言う?」という、hail / reign(=rain) の天気シリーズをひとつの文脈に全部詰め込んだパンチラインです。初めて気づくと思わず笑ってしまう仕掛けだと思います。

語法 — どう使うか ▼

hail from は「〜の出身である」を表すやや格調のある表現。Where do you hail from?(どちらのご出身ですか)のように使われる。

reign(レイン)と rain(レイン)は完全同音(ホモフォン)。ヒップホップリリックでは「reign the game」=「ゲームを支配する」という表現の裏に「rain(雨が降る)」の視覚的イメージを重ねることで多層的な読みが生まれる。

The Weatherman(気象予報士)というプロデューサー名義も持つEvidenceらしい、天気を絡めた言葉遊びです。

by Mr. Slow Flow — PMDが名を封印して締める

★ ゲスト/アウトロ
PMD(アウトロ) ≈4:24

When 警察官を指すスラング。ハワイ5-0(Hawaii Five-O)というTV番組名が由来とされる もう一度タップで詳細 → roll, they say what's the M.O
Another rapper was hit, by Mr. Slow Flow

警察(five-oh)が来て言う、動機は何だ(M.O)って/また一人ラッパーがやられた、Mr.スローフローにな

▶ アウトロ。EPMDのPMD(Parrish Smith)がわずか二行で締める件です。

Verse 3が終わったと思ったら、EPMDのPMD(Parrish Smith)が突然二行だけ登場します。警察が「動機は何だ(M.O)」と訊いている。

答えは「Mr. Slow Flow(Evidence)がやった」。刑事ドラマの一場面を模した短いシーン仕立てで、曲タイトルを最後に確認して終わります。

five-oh は警察官を指す定番スラング。M.O はラテン語 modus operandi(手口・やり口)の略で、犯罪捜査の文脈で「犯行の動機・手口」を指します。

刑事ドラマで頻出する語で、ヒップホップにも多く取り込まれています。EPMDとEvidenceは長くつながりのあるアーティスト同士で、このわずか二行のカメオがアルバム全体のラストサインを締める演出になっています。

語法 — どう使うか ▼

five-oh(ファイブオー): 1968年〜1980年のアメリカのTVドラマ「Hawaii Five-O」のタイトルナンバーが語源とされる警察スラング。The five-oh is on us(警察が追ってる)のように使う。

M.O(エムオー): modus operandi の略。What's his M.O?(あいつのやり口は何だ?)のように、犯行手口・常套手段を指す。

ドラマやニュースにも頻出する表現です。

文化的背景

Dilated Peoples とLAアンダーグラウンド

90年代〜00年代のウェストコースト独立路線

Evidenceが所属するDilated Peoples(Evidence・Rakaa Iriscience・DJ Babu)は、G-Funk全盛のウェストコーストで、サンプリングベースのブームバップを貫き続けたグループです。

2001年の「Expansion Team」(Capitol Records)でメジャー流通に乗り、「東西の垣根を超えたリリシスト」という評価を固めました。

EvidenceはDJ Muggs(Cypress Hill)を通じてビートメイクを学び、ターンテーブリストのDJ Babuはグローバルなビートジャンキーズ(Beat Junkies)の創設メンバーでもあります。

コアにあるのはLAのストリートカルチャーとグラフィティ。Evidenceは今でも現役のグラフィティライターとして知られています。

Rhymesayers Entertainment

独立系レーベルが育てた言葉の人たち

The Weatherman LPのリリース先となったRhymesayers Entertainmentは、ミネソタ州ミネアポリスを拠点とする独立系ヒップホップレーベルです。

Atmosphere(Slug & Ant)が1995年に立ち上げ、Brother Ali・Eyedea & Abilities・Aesop Rock・Blueprintらを擁しています。

メジャーレーベルとは距離を置き、リリックの深度と制作の自由を重視するその姿勢は、Evidenceのスタイルとも合っていたのだと思います。

キーワード早見表

この曲で学んだスラングの整理

Lost Angel Los Angelesをスペイン語訳から英語に転じた別称(los ángeles=天使たち→Lost Angel)
four-oh-five LA渋滞の象徴、Interstate 405のスラング表記
four-oh-one K 401(k)=確定拠出型年金。「四百五」と一文字ずらして掛けた数字ダジャレ
unsigned 未契約(インディー)と、差出人不明(署名なし)の二重義
vets veterans(先輩・猛者)と veterinarians(獣医)のダブルミーニング
sell out 完売させる(満員)と、信念を売る(魂を売る)の二重義
J-O J-O-B(仕事)の頭二文字。グラインド・仕事モードを指す
five-oh 警察官のスラング(TV番組「Hawaii Five-O」由来)
M.O modus operandi(犯行手口)の略。犯罪捜査で使われるラテン語由来の語
reign / hail reign(支配)=rain(雨)と同音。hail(ひょう)・hail from(出身)とで「天気」シリーズのパンチライン

制作の裏側

プロデューサー

Sid Roamsが作った「不穏なコーラス」

「Mr. Slow Flow」のビートを手掛けたのはSid Roams。Geniusの注釈では「ominous yet choir-like sound(不穏だがコーラス的な響き)」と形容されています。

最初の数秒で耳が持っていかれる感じ、なるほどと思います。

EvidenceがThe Weathermanというプロデューサー名義を持つことから「自己プロデュース」と誤解されやすいですが、このトラックはSid Roamsが手掛けています。

フックの担当

DJ Revolutionのスクラッチがフックを担う

この曲のフック(サビ)はDJ Revolutionによるスクラッチで構成されています。「I slow flows y'all to death」というフレーズをターンテーブルが繰り返す形式です。

ラッパーが歌詞でフックを作るのではなく、DJ技術がそのまま「サビ」を担うという古典的なヒップホップの構造。

Dilated PeoplesでDJ Babuとともに活動してきたEvidenceにとって、ターンテーブルをフックの中心に据えるのはごく自然な選択だったのだと思います。

Evidenceとアンダーグラウンドの系譜

The Weatherman LPは、2007年のアンダーグラウンドHHシーンで注目された一枚です。

トラップが台頭し始め、メインストリームの音が急速に変わっていくなかで、Evidenceはゆったりしたブームバップに言葉を詰め込むスタイルをここでも貫いています。

その後も「Cats & Dogs」(2011)、「Weather or Not」(2018)とソロ作を重ね、The Alchemistとのコラボ「Step Brothers」名義のアルバム「Lord Steppington」(2014)でも話題を呼びました。

「Mr. Slow Flow」という名前は、2007年からずっとEvidenceの代名詞として機能し続けています。言葉を急がずに、でも軽くせずに置いていく。

そのスタイルはいまも変わっていません。

日本では、Dilated Peoples時代からアンダーグラウンドHHのリスナー層を中心に根強い評価があります。

リリカルな密度とウェストコーストのゆったりとしたグルーヴの組み合わせは、日本のリリシスト系ラッパーへの影響も少なくないと思います。

後続との関係

  • The Alchemist ビバリーヒルズ育ちという共通点を持つ長年の盟友。Step Brothers名義での共同作業は、同世代のプロデューサー+MCコンビとして高く評価されました。
  • Dilated Peoples Rakaa Iriscience・DJ Babuとのグループ活動は継続。ソロとグループを行き来しながらキャリアを積む構造が、個々の表現の幅を広げています。
  • PMD(EPMD) アウトロに登場するPMD(Parrish Smith)はEPMDの一員。LAとNYのアンダーグラウンドが繋がる一コマ。EPMDのリリックは「Strictly Snappin' Necks」など複数曲でEvidenceのリリックに影響を与えています。

まとめ

  • 「Mr. Slow Flow」はLAの地名・文化・天気まで言葉遊びに組み込んだリリシズムが詰まった一曲。英語学習素材として、単語の掛け言葉や同音異義語を体感するのに理想的な曲だと思います。
  • Lost Angel・four-oh-five・401K・hail/reign。地域固有のスラングと音の仕掛けを組み合わせることで、一行の情報量がぐっと上がります。
  • vets/pet doctors のダジャレ、J-Oの隠語化、Ice-Tの曲名を形容詞として使う手法。ヒップホップが日常英語をどう拡張するか、この曲だけで何パターンも学べます。
  • Sid Roamsが作った不穏でコーラスっぽいビートの上に、EvidenceがゆったりとしたフローでLAへのロイヤリティとアーティストとしての矜持を乗せていく。2007年のアンダーグラウンドらしい一枚の幕開けだと思います。

アーティストについて

Evidence

Los Angeles, California · 1992–

本名Michael Perretta。カリフォルニア州ロサンゼルス(ビバリーヒルズ育ち)出身。幼少期からグラフィティライターとしてLAのストリートカルチャーに根ざし、Rakaa IriscienceとDJ Babuとともに「Dilated Peoples」を結成。2001年のセルフタイトルアルバム(Rawkus Records)でアンダーグラウンドHHシーンに頭角を現す。2007年にRhymesayers Entertainmentからソロデビューアルバム「The Weatherman LP」をリリースし、プロデューサー名義「The Weatherman」としても活動。ゆったりとした重みあるフロー(=Mr.Slow Flow)と精緻なリリシズムで知られ、The Alchemistとのコラボ名義「Step Brothers」(2012)でも高い評価を得た。続く「Cats & Dogs」(2011)・「Weather or Not」(2018)でもアンダーグラウンドHHの中心的存在であり続ける。現役のグラフィティライターとしての顔も持つ。

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