この記事の見どころ
元ネタ
殺人件数年間175件というオークランドの現実を背景に、Souls of Mischiefが描いたのは「チル」の哲学だった。女に電話し、40オンスを飲み、映画を観て、仲間とインドを吸い、モールで買い物をする——それだけの日常。しかし、その日常を永遠に続けようという宣言「from '93 'til infinity」が、暴力に支配されたストリートで生き延びるための意志表明になる。Billy Cobhamの幽玄なジャズをA-PlusがSP-1200でチル空間に変換し、4人のMCがリレー形式でオークランドのバイブを刻む。
デビューアルバム『93 'til Infinity』(1993年)収録のタイトルトラック兼セカンドシングル。Jive Records/BMGより1993年2月13日リリース。Billboard Hot 100最高72位。プロデューサーA-PlusはDJ Premierの「Here Today, Gone Tomorrow」でBilly Cobhamの名を知り、オークランドのレコード店のバーゲンビンで『Crosswinds』(1974年)を発掘。収録曲「Heather」のMichael Breckerによるサックスをサンプリング。SP-1200の10秒制限を、33回転レコードを45回転で録り込んでピッチダウンする「MacGyver的トリック」で克服した。メンバー4人(Opio、A-Plus、Tajai、Phesto)がバース2つずつをリレーする構成で、9〜12日間の集中録音セッションで完成。
Yo, what's up? This is Tajai of the mighty Souls of Mischief crew
I'm chillin' with my man Phesto, my man A-Plus
ヨー、調子どうだ? 偉大なるSouls of MischiefクルーのTajaiだ
仲間のPhesto、A-Plusとチルってる
And my man Op', you know he's dope
But right now, y'know, we just maxin' in the studio
それと仲間のOp'(Opio)——あいつがヤバいのは知ってるよな
でも今は、スタジオでのんびりしてるだけだ
We hailin' from East Oakland, California
And sometimes it gets a little hectic out there
But right now, yo, we gon' up you on how we just chill
俺たちはイースト・オークランド、カリフォルニア出身
外はたまに騒がしくなることもある
でも今は、俺たちがどうチルしてるか教えてやる
Dial the seven digits, call up Bridgette
Her man's a midget, plus she got friends, yo, I can dig it!
7桁をダイヤルして、Bridgetteに電話する
彼女の彼氏はチビで、しかも友達もいる——それはいいな!
Here's a 40 — swig it! You know it's frigid
I got 'em chillin' in the cooler, break out the ruler
40オンス(ビール)だ——ぐいっとやれ!冷えてるのわかるだろ
クーラーで冷やしといた——定規(ruler)を出せ
Damn! That's the fattest stoge I ever seen
The weather's keen in Cali, gettin' weeded makes it feel like Maui
くそ!こんなに太いジョイントは見たことない
カリフォルニアの天気は最高で、草でキマったらマウイ島みたいな気分だ
Now we feel the Good Vibrations
So many females, so much inspiration
今は「Good Vibrations」(いい波動)を感じてる
女があんなにいれば、インスピレーションもあふれる
I get inspired by the blunts too! (Too)
I'll front you (You), if you hang with a bunk crew (Chump)
俺もブラントで元気が出る!(俺も)
ダメなクルーとつるんでるなら、お前をフロントしてやる(チャンプ)
I roam the strip for bones to pick
When I find one, I'm gon' take her home and quickly do this
女をピックアップしようとストリップ(通り)を歩き回る
見つけたら、家に連れ帰ってすぐやることをやる
I need not explain this (Nah!)
A-Plus is famous, so get the anus!
説明は不要だ(いらない!)
A-Plusは有名人——ケツでも蹴ってろ!
Hey, Miss! Who's there? I'm through there
No time to do hair; the flick's at 8, so get straight
おい、ミス!誰だ?もう行くぞ
髪をセットする時間はない——映画は8時だ、準備しろ
You look great, let's grub now
A rubdown sounds flavor, later there's the theater
最高に見えるよ、メシ食おう
マッサージもいいな、後で映画館だ
We in the cut, the cinema was mediocre
Take her to the crib so I can stroke her
隅の席に座った、映画はまあまあだった
彼女を家に連れて帰って、俺のものにする
Kids get broke for they skins when I'm in
Close range, I throws game at your dip like handball
俺が入ってくると、野郎どもは彼女のために金を使い果たす
近距離で、お前の女に俺のゲームを投げつける——ハンドボールみたいに
'Cause the man's all that! All phat!
I'm D to chill from '93 'til
なぜなら俺はそれだ!全部ファット!
俺は'93からずっとチルする覚悟だ
Yeah, this is how we chill from '93 'til
This is how we chill from '93 'til
This is how we chill from '93 'til
This is how we chill from '93 'til
そう、俺たちはこうやって'93からずっとチルする
こうやって'93からずっとチルする
こうやって'93からずっとチルする
こうやって'93からずっとチルする
Huh! My black Timbs do me well
When I see a fool and he says he heard me tell
ハッ!俺の黒いTimberlandsが俺を際立たせる
バカなやつが俺のことを言いふらしてたと言ってくるとき
Another person's busy-ness, I cause dizziness
Until you stop actin' like a silly b***h
他人のビジネスに首を突っ込む——俺はお前を目眩かせてやる
バカみたいな真似をやめるまで
Yo, crews are jealous 'cause we get props
The cops wanna stop our fun, but the top
よ、クルーたちは俺たちがリスペクトをもらってるから嫉妬してる
警官は俺たちの楽しみを止めようとするが、頂点は
Is where we're dwellin', swell and fat, no sleep
I work fit, and jerks get their hoes sweeped
俺たちが住んでる場所だ——でかくてファット、眠れない
俺はかっこよくキメて、間抜けどもはその女を奪われる
Under their noses, this bro's quick
To hit blunts and flip once I'm chillin' 'cause my crew's close, kid
奴らの目の前で、この兄貴は速い
チルりながらブラントを吸ってフリップする——クルーが近くにいるから、kid
I'm posted, most kids accept this as cool
I exit 'cause I'm an exception to the rule
俺は構えてる——ほとんどのやつはこれをクールと認める
俺は退場する——ルールの例外だから
I'm steppin' to the cool spots where crews flock
To snare a dip, or see where the s**t that's flam-bee
クルーが群がるクールなスポットへ向かう
女をゲットするか、盛り上がってる場所を探すか
So I got tons of indo and go to the Owen's basement
My ace been fattenin' up tracks
Time to get prolific with the whiz, kid
だから大量のindoを用意して、Owenの地下室に行く
俺の相棒はずっとトラックを太らせてきた
ウィズキッドと一緒に多作になる時間だ
Greenbacks in stacks, don't even ask who got the fat stacks
We can max pumpin' phat tracks
紙幣の束——誰がデカい束を持ってるか聞くな
ファットなトラックを流しながら最大限楽しめる
Exchangin' facts about impacts, 'cause in facts
My freestyle talent overpowers, brothers can't hack it
インパクトについて事実を交換する——事実として
俺のフリースタイルの才能は圧倒的で、兄弟たちには扱えない
They lack wit, we got the mack s**t
'93 to infinity — kill all that wack s**t!
奴らはウィット(機知)が足りない、俺たちはマックシットを持ってる
'93から無限まで——ウワックなクソは全部終わらせろ!
I be coolin', school's in session, but I'm fresh in
Rappin', so I take time off to never rhyme soft
俺はクールにしてる、授業中だが俺はフレッシュに登場
ラップしてるから、ソフトにライムしないために休みを取る
I'm off on my own s**t with my own clique
Roll many back-roads with a fat stoge and blunts, foldin' runts
俺は自分のクリックと自分のやり方でやってる
太いジョイントとブラントで裏道を走り、小者を折りたたむ
Holdin' stunts captive with my persona
n***as is testin' my patience, but I stay fresh and
自分のペルソナで奴らを虜にする
やつらは俺の忍耐を試すが、俺はフレッシュに留まる
Restin' at the mall, attendants all annoyed
But I am shoppin' for my wish to exploit
モールでくつろいでる、店員たちは全員うんざり(どけよ!)
でも俺はやりたいことのために買い物してる
Some few fits, some new kicks
I often do this, 'cause it's the pits not bein' dipped
数着のコーディネート、新しいスニーカー
これをよくやる——ドレスアップしてないのは最悪だから
Flipped! The flyer attire females desire
Baby, you can step to this if you admire
やばい!女が欲しがるイケてる服装
ベイビー、気に入ったなら近づいてきていいよ
The extraordinary dapper rapper
Keep tabs on your main squeeze before I tap her
特別にエレガントなラッパー
俺が手を出す前に、お前の彼女を見張っておけ
I mack her, attack her with the smoothness
I do this, peepin' what my crew gets
俺は彼女をマックする、スムーズさで攻める
これをやってる——クルーが何を手に入れるかチェックしながら
Loot, props, respect and blunts to pass
Crews talk s**t, but in my face, they kiss my ass
金、プロップス、リスペクト、そして回し飲みするブラント
クルーはクソをしゃべるが、俺の前では媚を売る
They bite flows, but we make up new ones
If you're really dope, why ain't you signed yet?
奴らはフロウをパクるが、俺たちは新しいのを作る
本当にヤバいなら、なんでまだ契約してないんだ?
But I get my loot from Jive/Zomba, I'ma bomb ya
You will see, from now to infinity
俺はJive/Zombaから金をもらってる——お前を爆撃してやる
見ててくれ、今から無限まで
暴力の時代の「セーフ・スペース」
1992〜93年のオークランドは年間175件の殺人が発生し、クラック・コカインの蔓延とカージャック、警察による嫌がらせが日常化していた。しかしSouls of Mischiefは、その過酷な環境に育ちながらも、銃やドラッグを売ることではなく「ヒップホップを防御メカニズムとして利用」した。浮遊するビートと平和的なリリックは、暴力に支配された路上に精神的な避難所を建設する試みだった。
Billy Cobham「Heather」とSP-1200の物理的制約
プロデューサーA-PlusはDJ Premierの「Here Today, Gone Tomorrow」を通じてBilly Cobhamの名を知り、オークランドのバーゲンビンで『Crosswinds』(1974年)を発掘。収録曲「Heather」のMichael Breckerによる幽玄なサックスを核にした。しかしSP-1200の制約(最大10秒のサンプリング時間)を克服するため、33回転のレコードを45回転で録り込んでピッチダウンする「MacGyver的トリック」を使用。この処理が元音源の解像度を落とし、独特の気怠くも幻想的なチルサウンドを生み出した。
「91 'Til Infinity」からの誕生秘話
この曲の原型は1991年に高校生のA-Plusが「91 'til Infinity」として制作。当初はPep Love(Hieroglyphicsクルーのメンバー)に無償提供していたが、1992年にJive Recordsとのメジャー契約が決まった際、他のメンバーが「こんないいビートを他人にあげるなんてあり得ない」と猛反発。ビートを取り返し、年号を更新して「93 'Til Infinity」として再構築。アルバム全体を9〜12日間という驚異的な短期間で録音した。
Hieroglyphicsクルーとオークランドのオルタナティヴ
Souls of MischiefはDel tha Funky Homosapien率いるHieroglyphicsクルーのサブグループ。Gファンクとギャングスタ・ラップが席巻する西海岸シーンで、East Coast的なサンプリング美学と知的なリリックを融合させ、「知性とチルの共存」というオルタナティヴなスタイルを提示した。
「93 'Til Infinity」はリリースから30年以上を経た今も、ゴールデンエラ・ヒップホップの最重要クラシックとして語り継がれる。Kendrick LamarはSouls of Mischiefをオークランド/Bay Areaの「チル」な知性派HHの先駆者として尊敬を示し、Chance the RapperやJ. Coleなど後続世代のラッパーたちに至るまで、マイクリレー形式とジャズサンプリングの手法は広く継承されている。
楽曲はTV・映画での使用も多く、その浮遊感あるビートは時代を超えたBGMとして親しまれている。またBilly Cobham「Heather」のサンプリング使用は、ジャズドラマーの楽曲が再評価されるきっかけともなった。
日本では、アンダーグラウンドHIPHOPシーンや「チル系」ヒップホップの文脈で長く愛聴される。オークランドというBay Areaの地理的・文化的背景が、I Got 5 On It(Luniz)などと並んで「Bay Area独自のバイブ」として日本のリスナーに認知されており、レコードコレクターの間でもオリジナル盤の評価が高い。
Souls of Mischief
Oakland, California · 1991–
A-Plus、Opio、Phesto、Tajaiからなるオークランド出身の4人組。Hieroglyphicsクルーのサブグループ。1993年デビュー作「93 'til Infinity」でビリー・コブハムのジャズをサンプリングした浮遊感あるビートと知的なマイクリレーを提示し、Gファンクとギャングスタラップが席巻するシーンにオルタナティヴな風を吹き込んだ。年間175件の殺人が発生するオークランドで「チル」を歌うことで、暴力の時代の精神的避難所となる音楽を作り上げた。