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映画解説

ドキュメンタリー『Time Is Illmatic』——Nasの名盤『Illmatic』はいかにして生まれたか

One9監督による2014年のドキュメンタリー『Time Is Illmatic』を解説。Nasのデビューアルバム『Illmatic』の制作背景、クイーンズブリッジの現実、そして名盤が残した影響を事実ベースで読み解く。

by BlackTiger

『Time Is Illmatic』とは

『Time Is Illmatic』は2014年に公開されたドキュメンタリー映画だ。監督はOne9、脚本・プロデュースにはErik Parkerが関わっている。ヒップホップのMC、Nas(ナズ)のデビューアルバム『Illmatic』(1994)の制作背景と、その音楽が生まれた環境を追った作品である。

映画は『Illmatic』のリリース20周年というタイミングで公開され、2014年4月16日にTribeca Film Festival(トライベッカ映画祭)のオープニング作品として世界初上映された。北米配給権はTribeca Filmが取得し、同年10月に劇場・VODで公開されている。

『Illmatic』という名盤

『Illmatic』は1994年にリリースされたNasのデビューアルバムだ。ニューヨーク・クイーンズの公営住宅クイーンズブリッジ(Queensbridge)の現実を、緻密なリリックと一流プロデューサー陣のビートで描き出し、ヒップホップ史上もっとも重要なアルバムのひとつとして繰り返し評価されてきた。

本作の代表曲のひとつが「N.Y. State of Mind」だ。ニューヨークのストリートの緊張感をそのまま音にしたようなこのトラックは、アルバムの世界観を象徴している。あわせて「Nas Is Like」のように、Nasのキャリアを語るうえで欠かせない楽曲も当サイトで解説している。

『Illmatic』の基本データ

発売は1994年4月19日で、レーベルはColumbia Recordsです。録音は1992年から1993年にかけて、ニューヨークのChung King、D&D、Battery、Unique Recordingなどのスタジオで行われました。

全体の長さは39分48秒で、プロデューサーにはDJ Premier、Large Professor、Pete Rock、Q-Tip、L.E.S.、Faith N.、そしてNas本人が名を連ねています。

客演は少なく、「Life's a Bitch」にAZのヴォーカルと、Nasの父Olu Daraのトランペットが入っています。「One Love」ではQ-Tipがバックヴォーカルを担当しています。

サンプルの例では、「N.Y. State of Mind」にDonald Byrd「Flight Time」とJoe Chambers「Mind Rain」が使われています。

売上と評価

『Illmatic』はBillboard 200で初登場12位、初週の売上は約59,000枚でした。RIAA(アメリカのレコード協会)では、1996年にゴールド、2001年にプラチナの認定を受けています。

当時の評価では、雑誌『The Source』が最高の五つ星(five mics)をつけました。デビュー作としては珍しい評価です。

のちには、Rolling Stone誌の「史上最高のアルバム500選」(2020年版)で44位に入りました。2021年には、アメリカ議会図書館のNational Recording Registryにも選ばれています。

ドキュメンタリーが描くもの

『Time Is Illmatic』は、『Illmatic』の楽曲がどのような環境から生まれたのかを、Nas本人や周囲の人物の証言を通じて描く。クイーンズブリッジというコミュニティ、家族、そして1980〜90年代のニューヨークが抱えていた社会的な現実が、アルバムの背景として浮かび上がる。

Nasの父であるジャズ・ミュージシャンOlu Dara、そして弟Jungle(Jabari Fret)といった家族の存在も、Nasの音楽性を形づくった要素として描かれる。証言者にはアルバムのプロデューサー陣であるLarge Professor、Pete Rock、Q-Tip、DJ Premierらも名を連ねている。

クイーンズブリッジという土壌

『Illmatic』を理解するうえで欠かせないのが、Nasが育ったクイーンズブリッジの環境だ。アメリカ最大級の公営住宅として知られるこの地区は、貧困や暴力といった厳しい現実を抱える一方で、数多くのヒップホップ・アーティストを生み出した土壌でもあった。

ドキュメンタリーは、こうした環境がNasの観察眼と言葉にどのように刻み込まれたかを掘り下げる。アルバムの一曲一曲が、特定の場所と時代から生まれた記録であることを示す構成になっている。

ヒップホップ文化的な文脈

1994年はニューヨーク・ヒップホップの黄金期と呼ばれる時期にあたる。『Illmatic』はその頂点を象徴するアルバムのひとつであり、リリック中心主義とサンプリングを基盤としたサウンドの完成形として位置づけられてきた。

『Time Is Illmatic』は、単に名盤を称えるだけでなく、その音楽が生まれた社会的・個人的な条件を記録することで、ヒップホップというジャンルが「どこから来たのか」を考えさせる作品になっている。Nasの歩みについては、当サイトのNasのアーティストページもあわせて読んでほしい。

まとめ

『Time Is Illmatic』は、ヒップホップ史に残る名盤『Illmatic』がいかにして生まれたかを、クイーンズブリッジの現実とともに記録したドキュメンタリーだ。アルバムを聴き込んできた人にとっても、これから聴く人にとっても、楽曲の背景を立体的に理解できる一本である。

まずは「N.Y. State of Mind」の和訳から、『Illmatic』が描いた世界に触れてみてほしい。

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