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The Message — Grandmaster Flash & The Furious Five スラング・英語解説

The Messageに出てくるスラングや言い回しの意味を、和訳つきで一つずつ読み解きます。

アーティスト
Grandmaster Flash & The Furious Five
リリース年
1982
プロデューサー
Duke Bootee & Jiggs Chase
収録アルバム
The Message
エリア
NY
BPM
100

この記事の見どころ

  1. 01 パーティーソングが主流だった時代に、街の暮らしをそのまま歌詞にしたヒップホップの原点
  2. 02 close to the edge、going under、lose my head。追い詰められた気持ちを言う慣用句の宝庫
  3. 03 repossessed、bill collectors、double-digit inflation。生活の苦しさを表す英語がそのまま学べる

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解説

■この曲で何を学べるか

「It's like a jungle sometimes」。この一行から始まる「The Message」は、ヒップホップに社会の現実を持ち込んだ曲として、いつも名前が挙がります。

1982年にSugar Hill Recordsからシングルとして出ました。

歌詞に書かれているのは、壊れたガラス、ネズミとゴキブリ、差し押さえられた車、鳴りやまない督促の電話。きれいな言葉ではなく、暮らしの細部を並べていく書き方です。

英語学習としては、生活苦を言う語彙、慣用句、そして「Don't push me」という一言がなぜ効くのかを、文脈の中で確かめられる曲です。

■「パーティー」から「現実」へ、流れが変わった一曲

初期のヒップホップのレコードは、パーティーを盛り上げるものが中心でした。そこに、街の暮らしの厳しさを真正面から描いた曲が出てきたことで、ラップの使い方が大きく広がったと言われています。

のちにこの曲は、アメリカ議会図書館のナショナル・レコーディング・レジストリに、ヒップホップの録音として初めて選ばれました。

歴史の話は後半にまとめます。まずは、歌詞の言葉を一行ずつ読んでいきます。

ストーリーの流れ(まず曲全体をつかむ)

歌詞は、同じコーラスをはさみながら、5つのバースで、街の暮らしの別の面を見せていきます。

Introは、「ジャングルのようだ」という、全体を貫く比喩です。生き延びる難しさを、先に一言で見せます。

Verse 1は、住まいの描写です。割れたガラス、においや騒音、お金がなくて引っ越せないこと。

Verse 2は、玄関先から見える街の景色です。路上の人たちの暮らしが映し出されます。

Verse 3は、家計と仕事の話です。テレビ、督促、インフレ、止まる電車。

Verse 4は、学校に行きたがらない息子の言葉を、父親が引用する形です。

Verse 5は、生まれた子どもが、どんな道をたどっていくのかを、二人称で語ります。

最後は、メンバーたちの会話のスキットで終わります。

※本ページは批評・教育目的で、解説に必要な範囲の断片のみを引用しています。全歌詞の対訳は掲載していません。

学ぶ表現(スラング・韻・言葉遊び・AAVE)

各unitでは、歌詞の中の表現を取り上げて、意味と使い方を説明します。引用は短くしています。

暴力や、読み手に負担のある描写は、引用せず、背景だけにとどめています。▶を押すと、PVの該当箇所から再生できます。

It's like a jungle sometimes / keep from going under

★ 比喩/慣用句
Duke Bootee(Intro) 0:24

It's like a jungle sometimes
It makes me wonder how I keep from going under

ときどき、ジャングルみたいだ。どうやって沈まずにいられるのか、自分でも不思議になる

▶ 曲全体のテーマを、最初に置く比喩です。

a jungle は、ここでは、競争が厳しく、危険の多い場所のこと。It's a jungle out there. は、街や社会の厳しさを言う、定番の表現です。

go under は、「水に沈む」ところから、「破産する、潰れる、力尽きる」という意味の句動詞です。会社が倒産するときにも、人が生活に押しつぶされるときにも使います。

keep from 〜ing は、「〜しないでいる」。how I keep from going under は、「どうやって沈まずにいられるか」という意味です。

sometimes を後ろに付けるだけで、断定ではなく、ふっと漏れた本音のような響きになります。

語法 — どう使うか ▼

keep from + 動詞ing: I couldn't keep from laughing.(笑いをこらえられなかった)。我慢の表現として使います。

go under: Many small shops went under that year.(その年、多くの小さな店が潰れた)。

I can't take the smell, can't take the noise / no choice

★ 口語/構文
Melle Mel(Verse 1) 0:48

I can't take the smell, can't take the noise
Got no money to move out, I guess I got no choice

においも騒音も耐えられない。引っ越す金もないから、選びようがない

▶ Verse 1の中盤。省略と、「ない」の言い方に注目です。

can't take 〜 は、「〜に耐えられない」という意味。take には、「受け入れる、耐える」という意味があります。

2つ目の can't take the noise は、主語の I が省略されています。同じ主語と動詞が続くとき、後ろを省くのは英語の自然な書き方です。

Got no money も、I've が落ちた形で、口語の短縮です。no money to move out は、「引っ越すための金がない」。

to 不定詞 が、名詞の目的を説明しています。

I guess I got no choice の I guess は、「〜だと思う」。あきらめが混ざった、力のない言い方になっています。

語法 — どう使うか ▼

I can't take it anymore.: 「もう耐えられない」。我慢の限界を言う、日常でも定番の言い方です。

have no choice: I had no choice but to leave.(出ていくしかなかった)。no choice but to 〜 の形でよく使います。

Rats in the front room, roaches in the back 対句と韻

★ 韻/語彙
Melle Mel(Verse 1) 0:53

Rats in the front room, roaches in the back
Junkies in the alley with a baseball bat

手前の部屋にはネズミ、奥の部屋にはゴキブリ。路地には野球のバットを持ったジャンキー

▶ 動詞なしで、名詞と場所だけを並べた2行です。

front room と back を対にして、どこにも逃げ場がないことを、場所の名前だけで描いています。

この2行には、動詞がありません。Rats in the front room、roaches in the back、Junkies in the alley。

名詞と場所だけで、情景が描けています。

back と bat が、行末で韻を踏んでいます。音の気持ちよさと、描いている内容の重さが、ずれているところにも注目です。

junkie は、薬物依存の人を指す語で、使い方によっては相手を傷つける言葉です。ここでは、歌詞の描写として出てきています。

語法 — どう使うか ▼

名詞 + in + 場所: Books on the table, shoes by the door.(机の上に本、玄関に靴)。動詞なしで、状況を並べる書き方です。

roach は、cockroach の短縮形で、日常会話でも使います。

a man with a tow truck repossessed my car 生活苦の語彙

★ 語彙/法律
Melle Mel(Verse 1) 0:59

I tried to get away, but I couldn't get far
'Cause a man with a tow truck repossessed my car

逃げようとしたけど、遠くへは行けなかった。レッカー車の男が俺の車を差し押さえたからだ

▶ Verse 1の締め。生活を縛る、お金の語彙が出てきます。

repossess は、「(ローンの未払いなどで)差し押さえる、取り戻す」という動詞です。車のローンが払えなくなると、貸し手が車を取り上げます。

tow truck は、レッカー車。車を引いて運ぶトラックです。

短い一行の中に、家計と車と、どうにもならなさが詰まっています。

get away と get far は、同じ get で、「逃げる」と「遠くへ行く」を言っています。ひとつの動詞で、動作と距離を表す使い方です。

far と car が韻になっています。逃げられない、という内容を、きれいな韻で閉めているところが、このバースの終わりの余韻になっています。

語法 — どう使うか ▼

repossess: The bank repossessed the house.(銀行が家を差し押さえた)。ニュースや契約書でよく出てくる語です。

get away は、「逃げる」のほか、get away from it all(日常から離れて休む)という表現もあります。

Don't push me 'cause I'm close to the edge / lose my head

★ 慣用句/コーラス
Melle Mel(Chorus) 1:03

Don't push me 'cause I'm close to the edge
I'm trying not to lose my head

追い詰めるな、もう限界ぎりぎりなんだ。冷静さを失わないように、必死でいる

▶ この曲でいちばん有名なコーラスです。

Don't push me は、「俺を追い詰めるな」。push は、人を押す動作ですが、ここでは「追い込む、我慢の限界に近づける」という意味になります。

close to the edge は、崖っぷちのイメージから、「限界に近い、切れそうだ」という意味。on the edge も、同じような意味で使われる言い方です。

lose my head は、「冷静さを失う、頭に血がのぼる」という意味の慣用句です。head を失う、という表現が、理性を失うことを指しています。

I'm trying not to 〜 は、「〜しないように努力している」という言い方です。限界の手前で、踏みとどまっている気持ちが、そのまま出ています。

語法 — どう使うか ▼

Don't push me.: 「怒らせるな、追い詰めるな」。警告として、日常でも映画でもよく使われます。

lose one's head: Don't lose your head.(取り乱すな)。lose one's temper(かんしゃくを起こす)も似た意味です。

Standing on the front stoop, hanging out the window

★ 文化/語彙
Melle Mel(Verse 2) 1:16

Standing on the front stoop, hanging out the window

玄関の階段に立って、窓から身を乗り出している

▶ Verse 2の1行目。ニューヨークらしい景色です。

stoop は、建物の入り口にある、数段の階段のこと。ニューヨークでは、アパートの玄関先の階段で、近所の人が座って話す光景が、日常です。

hanging out the window の hang out は、「ぶら下がる、たむろする」の意味ですが、ここでは「窓から身を乗り出す」という意味です。

この行は、文頭が Standing と -ing から始まる、分詞構文のような形です。主語を省いて、情景だけを、映像のように切り取っています。

続く行で、車の行き交う様子が描かれるので、この2行が、バースの舞台の説明になっています。

語法 — どう使うか ▼

hang out: We hang out on the stoop.(玄関先でたむろする)。「遊ぶ、時間を過ごす」の意味で、よく使います。

stoop は、アメリカ東部の言い方で、porch(ポーチ)とは違い、階段を指します。

All My Children in the daytime, Dallas at night テレビ番組が示す時代

★ 固有名詞/文化
Duke Bootee(Verse 3) 2:01

All My Children in the daytime, Dallas at night
Can't even see the game or the Sugar Ray fight

昼は『All My Children』、夜は『Dallas』。試合もシュガー・レイの試合も見られやしない

▶ テレビ番組と、ボクサーの名前が出てくる場面です。

All My Children は、昼に放送されていたアメリカのメロドラマ(ソープオペラ)、Dallas は、夜に放送されていた人気ドラマです。

どちらも、当時の家庭のテレビで、よく見られていたものです。兄弟が母親のテレビを盗んで、家族が何も見られなくなる、という場面を、番組名だけで伝えています。

Sugar Ray は、ボクサーのシュガー・レイ・レナードのこと。スポーツ中継も見られない、という不満が、固有名詞ひとつで伝わります。

in the daytime と at night で、昼と夜を対比させています。時間帯を並べて、日常が、ずっとそんな状態であることを示す書き方です。

語法 — どう使うか ▼

in the daytime / at night: 前置詞が違うことに注意が必要です。at night、in the morning、in the daytime は、それぞれ決まった組み合わせです。

soap opera は、石鹸会社がスポンサーだったことから付いた名前です。

The bill collectors, they ring my phone 督促の電話

★ 語彙/生活
Duke Bootee(Verse 3) 2:09

The bill collectors, they ring my phone
And scare my wife when I'm not home

取り立て屋が電話を鳴らして、俺がいない間に妻を怖がらせる

▶ お金の苦しさを、家族の目線で語る2行です。

bill collector は、未払いの請求書を取り立てる人や、会社のことです。支払いを怠った人の家に、何度も電話をかけます。

The bill collectors, they ring my phone は、主語を最初に置いたあと、もう一度 they で受けています。話し言葉に近い、主語を重ねる語順です。

ring my phone は、「電話を鳴らす」。ここは、call me よりも、電話そのものが鳴る様子を前に出した言い方です。

scare my wife when I'm not home で、取り立てが、自分ではなく、家族に向かっていることが分かります。生活苦が、家の中に入り込んでくる感覚です。

語法 — どう使うか ▼

scare + 人: The noise scared the kids.(その音が子どもたちを怖がらせた)。感情の動詞は、人を目的語にして使います。

bill は、請求書のこと。pay the bills(請求の支払いをする)は、生活費全般の言い方でもあります。

a bum education, double-digit inflation / strike at the station

★ 語彙/経済
Duke Bootee(Verse 3) 2:13

Got a bum education, double-digit inflation
Can't take the train to the job, there's a strike at the station

ろくな教育も受けてない、物価は二桁の上昇。仕事に行く電車も、駅のストで動かない

▶ 経済と社会の語彙が並ぶ2行です。

bum は、ここでは「質の悪い、ろくでもない」という形容詞の用法です。a bum deal(損な取引)のように使います。

double-digit inflation は、「二桁のインフレ」。年に10パーセント以上、物価が上がる状態です。

経済ニュースの語彙が、そのまま歌詞に入っています。

a strike at the station の strike は、「ストライキ」。この歌詞の背景には、1980年のニューヨークの交通ストがあるとされています。

education、inflation、station と、-tion で終わる語を並べて、行末の韻にしています。硬い語を韻に使うのが、この曲の特徴です。

語法 — どう使うか ▼

go on strike: The workers went on strike.(労働者がストライキに入った)。on strike で、「ストライキ中」。

double-digit は、double-digit growth(二桁成長)のように、経済の記事でよく使います。

Neon King Kong standing on my back / broke my sacroiliac

★ 比喩/医学語
Duke Bootee(Verse 3) 2:19

Neon King Kong standing on my back
Can't stop to turn around, broke my sacroiliac

ネオンのキングコングが背中に立っている。振り返ることもできず、仙腸関節が壊れた

▶ ユーモアと苦しさが混ざった、変わった比喩です。

Neon King Kong は、街のネオンサインのような、巨大な何かが、背中にのしかかっているというイメージです。重圧を、映画のキャラクターで言い表しています。

sacroiliac は、骨盤にある関節(仙腸関節)の名前で、腰の痛みの話で出てくる医学用語です。ラップの歌詞に出てくる、意外な語彙のひとつです。

back と sacroiliac で、音が合っています。難しい語を持ってきて、韻のために使う、この曲の個性が出ています。

重い内容を、あえて大仰で、少しおかしな言い方で語る。その落差が、聴き手に強い印象を残します。

語法 — どう使うか ▼

have a monkey on one's back は、「重荷を抱えている」という慣用句です。ここの King Kong は、その発想の延長にあります。

can't stop to 〜 は、「立ち止まって〜する余裕がない」。stop to + 動詞 と、stop + 動詞ing は意味が違います。

'Cause the teacher's a jerk, he must think I'm a fool 引用された子どもの言葉

★ 口語/話法
Duke Bootee(Verse 4) 2:47

'Cause the teacher's a jerk, he must think I'm a fool

だって先生はイヤなやつで、俺をバカだと思ってるに違いない

▶ Verse 4は、息子の言葉を、父親が引用する形です。

このバースは、息子の言葉を、父親が、そのまま引用する形で進みます。My son said, "Daddy, I don't wanna go to school" と、引用符で始まっています。

jerk は、「嫌なやつ、いじわるなやつ」という口語です。子どもの視点の言葉として、素直な語彙が選ばれています。

must think 〜 は、「〜と思っているに違いない」。must は、義務ではなく、強い推量を表す使い方です。

子どもの言葉を通して、教育への不信が語られます。大人の説明より、子どもの素朴な言い方のほうが、状況が伝わる、という使い方です。

語法 — どう使うか ▼

must + 動詞(推量): He must be tired.(彼は疲れているに違いない)。have to(義務)と区別して使います。

jerk は、強い罵りではなく、くだけた軽い悪口で、友達どうしでも使われます。

You got to have a con in this land of milk and honey 聖書由来の慣用句

★ 慣用句/皮肉
Duke Bootee(Verse 4) 3:01

'Cause it's all about money, ain't a damn thing funny
You got to have a con in this land of milk and honey

結局は金がすべてで、何もおかしくない。この乳と蜜の流れる地では、うまく立ち回る手口がいる

▶ 聖書由来の言い回しを、皮肉に使った2行です。

a land of milk and honey は、旧約聖書に出てくる、豊かな約束の地を指す表現です。ここでは、アメリカを、その豊かな土地に例えながら、皮肉に使っています。

豊かな国、と言いつつ、実際に必要なのは、a con、つまり人をだますやり方だ、という、理想と現実の落差を突く行です。

ain't a damn thing funny は、二重否定のような形。ain't と a damn thing で、「ちっともおかしくない」を強調しています。

money と funny、con と honey。2行にわたって、きれいに韻を踏んでいる点にも注目です。

語法 — どう使うか ▼

a land of milk and honey: He dreamed of a land of milk and honey.(豊かな楽園を夢見ていた)。文章語として、今も使われる表現です。

con は、confidence trick(信用詐欺)の短縮で、con man(詐欺師)の形でもよく使います。

broke my last glass jaw / Livin' on a see-saw ボクシングの比喩

★ 比喩/スポーツ
Duke Bootee(Verse 4) 3:21

I feel like a outlaw, broke my last glass jaw
Hear them say, 'You want some more?' Livin' on a see-saw

俺は無法者みたいで、最後の弱い顎を砕かれた。もっと欲しいか、と言われる。シーソーの上で暮らしてる

▶ Verse 4の締め。ボクシングと遊具の比喩が続きます。

glass jaw は、ボクシング用語で、「打たれ弱い顎」。ガラスのように、一発で割れそうな顎、という意味です。

ここでは、打たれ弱い自分が、さらに打ちのめされた、と言っています。You want some more? は、ケンカの場面での、「まだやるか?」という挑発の決まり文句です。

see-saw は、シーソー。上がったり下がったりして、安定しない暮らしを、遊具の比喩にしています。

outlaw と jaw で、音を合わせています。ボクシング、無法者、シーソーと、比喩が3つ続くのに、ひとつの流れに聞こえる行です。

語法 — どう使うか ▼

glass jaw: He's got a glass jaw.(彼は打たれ弱い)。ボクシング以外でも、打たれ弱さの比喩として使います。

feel like a 〜 は、「〜のような気分だ」。feel like an outsider(よそ者の気分だ)のように使えます。

A child is born with no state of mind / Blind to the ways of mankind

★ 語彙/韻
Melle Mel(Verse 5) 3:44

A child is born with no state of mind
Blind to the ways of mankind

子どもは、何の心の状態も持たずに生まれ、人の世のやり方に気づかない

▶ Verse 5の冒頭。語りの視点が、父親から語り手に変わります。

state of mind は、「心の状態、考え方」。ここでは、生まれたばかりの子どもは、まだ何の見方も持っていない、と言っています。

mind と mankind が行末で韻を踏んでいます。blind も、同じ音を共有しているので、3語が連なっています。

be blind to 〜 は、「〜に気づかない、〜が見えていない」。目が見えない、という本来の意味から、気づかない、という比喩になった言い方です。

ここから、バースは、二人称の「you」で語られます。子どもが成長して、街の現実にぶつかる、という流れです。

語法 — どう使うか ▼

be blind to 〜: He is blind to his own faults.(自分の欠点が見えていない)。

mankind は、「人類」。近年は、humankind と言うことも増えています。

you wind up droppin' out of high school 結局そうなる

★ 句動詞/構文
Melle Mel(Verse 5) 4:18

You say, "I'm cool, huh, I'm no fool"
But then you wind up droppin' out of high school

「俺は平気だ、バカじゃない」と言う。でも結局、高校を中退することになる

▶ 強がりと、そのあとの現実の落差を、2行で描いています。

wind up 〜ing は、「結局〜することになる」という句動詞です。思っていた道ではなく、意図せず行き着く結末を表します。

I'm cool, huh, I'm no fool は、「俺はクールだ、バカじゃない」と、自分に言い聞かせる強がりです。cool と fool が、同じ音を持っています。

drop out of 〜 は、「〜を中退する」という句動詞です。前の曲で見た表現と、同じ型です。

But then と、接続詞で切り替えるところが、この2行のポイントです。言葉の勢いと、結果の落差が、ひとつの文の中に収まっています。

語法 — どう使うか ▼

wind up + 動詞ing / 形容詞: We wound up in a small bar.(結局、小さなバーに行き着いた)。意図せず、という含みがあります。

end up と、ほぼ同じ意味で、口語では wind up もよく使います。

all null and void / like you're Pretty Boy Floyd

★ 法律語/固有名詞
Melle Mel(Verse 5) 4:22

Now you're unemployed, all null and void
Walking 'round like you're Pretty Boy Floyd

今は失業中で、価値のない存在になって、Pretty Boy Floydを気取って歩き回っている

▶ 法律の言葉と、昔の無法者の名前が出てくる行です。

null and void は、「無効で、効力がない」という、契約書などに出てくる法律用語です。ここでは、社会から価値がないものとして扱われている、という意味に転用されています。

Pretty Boy Floyd は、1930年代のアメリカで、銀行強盗として知られた無法者の呼び名です。映画や歌の題材にもなりました。

「無効」という硬い語と、強盗のあだ名という俗な固有名詞を、続けて並べる落差が、この2行の面白さです。

Walking 'round は、walking around の短縮形。'round のように、語頭の音が落ちる書き方は、歌詞でよく見られます。

語法 — どう使うか ▼

null and void: The contract is null and void.(その契約は無効だ)。法律文書の定番の言い方です。

unemployed は、「失業している」。the unemployed で、失業者全体を指します。

look what you done did / an eight-year bid AAVEの done と刑期の語彙

★ AAVE/語彙
Melle Mel(Verse 5) 4:27

Turned stick-up kid, but look what you done did
Got sent up for a eight-year bid

強盗に転じたけど、自分のしたことを見ろ。8年の刑を食らって送り込まれた

▶ 転落の場面。AAVEの動詞の形に注目です。

stick-up kid は、強盗を働く若者。bid は、スラングで「刑期」のこと。

an eight-year bid で、「8年の刑」です。

sent up は、「刑務所に送られる」という意味の句動詞。send up は、ほかに「パロディにする」という意味もあります。

文法の面で目を引くのは、look what you done did です。done と did が並ぶ形で、AAVEの完了の done を使って、結果を強調しています。

標準英語に直せば、look what you've done。done did と重ねることで、「やらかした」という響きが強まります。

語法 — どう使うか ▼

Look what you did!: 「見ろ、おまえのせいだ」。失敗を責めるときに使う決まり文句です。

do time(刑期を務める)、serve time も、刑務所の話でよく使われます。

you ain't gotta push me、アウトロのスキット

★ 構成/口語
全員(Outro Skit) 5:12

最後には、メンバーたちが、街で友達と会話するようなスキット(寸劇)が入ります。この部分は、引用を省いて、構成の話だけにとどめます(▶で飛べます)。

skit は、曲の合間や最後に入れる、短い寸劇のこと。ヒップホップのアルバムでは、物語や場面を補う役目をよく果たします。

スキットの最後で、警察とのやり取りが入り、メンバーの一人が、「you ain't gotta push me」と言う場面があります。コーラスの Don't push me と呼応しているように聞こえます。

ain't gotta 〜 は、「〜する必要はない」を、くだけて言う形。you don't have to に当たります。

語法 — どう使うか ▼

ain't gotta + 動詞: You ain't gotta go.(行かなくていい)。二重否定ではなく、「必要がない」の意味です。

skit は、コメディ番組でも使う語で、短い寸劇のことです。

文化的背景

時代の背景

1980年代前半のニューヨークと、歌詞の言葉

歌詞に出てくる、交通ストライキ、インフレ、差し押さえ、督促といった言葉は、当時のニューヨークの生活の、具体的な苦しさを示しています。

曲は、1980年のニューヨークの交通ストを背景に書かれた、という説明があります。生活者の目線で、社会の問題を描いたことが、のちのヒップホップの流れにつながったと言われます。

こうした書き方は、物語性のある歌詞や、社会について語る歌詞の、土台のひとつになったと語られることがあります。

誰が書いて、誰が歌ったのか

Duke BooteeとMelle Melが、作り上げた曲

曲は、Duke Bootee(Ed Fletcher)とMelle Melが共作したとされています。Duke Bootee自身が、イントロとVerse 3、Verse 4を担当し、Melle Melが、Verse 1、Verse 2、Verse 5を担当しています。

クレジットはGrandmaster Flash & The Furious Fiveですが、Grandmaster Flash本人は、このレコーディングにほとんど関わっていない、という説明もよく見られます。

誰が歌ったかを知ってから聴くと、バースごとの声の違いが、はっきり聞き分けられます。

キーワード早見表

この曲で学んだ表現の整理

go under 沈む、潰れる、力尽きる
Don't push me 追い詰めるな、怒らせるな
close to the edge 限界に近い、切れそうだ
lose one's head 冷静さを失う
repossess (ローン未払いで)差し押さえる
bum ろくでもない、質の悪い
land of milk and honey 豊かな約束の地(聖書由来)
wind up 〜ing 結局〜することになる
null and void 無効で、効力がない(法律用語)
done + 過去形(AAVE) look what you done did のように、結果を強調

制作の裏側

「The Message」は、1982年7月1日に、Sugar Hill Recordsからシングルとして発売され、同年10月3日に発売された、同名のアルバムにも収められました。

曲の制作は、Duke Bootee(Ed Fletcher)を中心に進められ、Skip McDonaldがギターを、Jiggs Chaseが共作・共同制作を担当したと伝えられています。

歌詞の中心を作ったのは、Duke BooteeとMelle Melです。1980年のニューヨークの交通ストを背景に、1980年に書かれた曲だと説明されています。

本ページでは、制作の細かい経緯の記述を、広く伝えられている範囲にとどめています。

評価とその後

2002年に、アメリカ議会図書館のナショナル・レコーディング・レジストリに、初年度の50作品のひとつとして選ばれました。ヒップホップの録音としては、これが初めてです。

2007年には、Grandmaster Flash & The Furious Fiveが、ヒップホップのグループとして初めて、ロックの殿堂入りを果たしています。

社会の現実を、生活の言葉で語るという方向は、この曲以降のヒップホップにも、広がっていきました。

まとめ

  • 「The Message」は、街の暮らしの具体的な描写を、5つのバースで積み上げていく、社会派ヒップホップの原点の曲です。
  • go under、close to the edge、lose my head、wind up、land of milk and honeyなど、日常でも使える慣用句が多く含まれています。
  • repossess、bill collector、double-digit inflation、strike、null and voidと、お金と社会に関する語彙が、そのまま歌詞に入っています。
  • 「Don't push me」というコーラスが、スキットの最後で、再び形を変えて出てくる構成にも注目です。
  • Duke BooteeとMelle Melという、二人の声の違いを聞き分けながら読むと、バースごとの視点の違いが分かります。

アーティストについて

Grandmaster Flash & The Furious Five

The Bronx, New York · 1976–1983

ニューヨーク・サウスブロンクスで活動したヒップホップの草創期のグループ。DJのGrandmaster Flashと、Melle Mel、Cowboy、Kidd Creole、Rahiem、Scorpioらで構成された。1982年のシングル「The Message」は、生活の苦しさを正面から描いた曲として知られ、2002年に米国議会図書館のナショナル・レコーディング・レジストリに、ヒップホップの録音として初めて選ばれた。2007年にはヒップホップのグループとして初めてロックの殿堂入りを果たしている。

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