この記事の見どころ
Wu-Tang Clanの看板MCとして頂点を極めたMethod Manが、2006年のアルバム『4:21... The Day After』でぶつけた業界批判の告白曲。ラジオ、批評家、変節した仲間、レーベルへの怒りと幻滅を、Erick Sermonの無骨なブーンバップに乗せてリアルに吐き出す。サンプリング元Lauryn Hillも同時代に業界から否定された——二人の怒りがコーラスで重なる構造が曲の核心。
2006年アルバム『4:21... The Day After』収録。プロデュースはEPMD/Def Squad出身のErick Sermon。Lauryn Hillが2002年の『MTV Unplugged No. 2.0』でカバーしたBob Marley「So Much Things to Say」のボーカルをサンプリング。東海岸ブーンバップを死守したサウンドは、クランク・ミュージックとスナップが席巻していた当時のメインストリームへの明確な対抗表明。
2000年代中盤、TR-808を多用した南部クランクがビルボードを支配し、NYのハードコアラッパーたちは「時代遅れ」と切り捨てられ始めていた。Method Manは前作『Tical 0: The Prequel』(2004)で低評価を受け、キャリアの岐路に立っていた。そこに現れたのがErick Sermon——「1トラックに10万ドル払うプロデューサーは要らない」と宣言し、旧友との協力でブーンバップの原点に立ち返った。
Yeah, yeah
Yeah, yeah, yeah
Yeah
(イントロ——Lauryn Hillのフックが繰り返される)
★ 業界への幻滅——雨が降り続ける
Damn, I hate it when it rain
Ever since I came in the game, some hated on the fame
くそ、雨が降るのが嫌だ
ゲームに入って以来、名声を妬む奴らがいた
A lot of n***as done changed and started actin' strange
Even labels turning they backs and started backin' lames
多くの仲間が変わってしまい、おかしな振る舞いをし始めた
レーベルまでも背を向けて、 「使えない奴・本物じゃない奴・クオリティが低いラッパー」。ヒップホップで最も辛辣な批判語の一つ。商業的に成功した「本物じゃない」アーティストを指す を支援し始めた
★ ラジオへの反乱
Radio is the same, whole lotta speculatin'
These mutherf**kas 「defecating(排便する)」のスラング発音。「Wu-Tangの名前の上で大便をしている」=「汚している・貶めている」という強烈な比喩 on the name
ラジオも相変わらず、憶測ばかり垂れ流す
この野郎どもはWu-Tangの名前の上に糞をしている
Wu-Tang, if this is where the hip-hop is
Radio lyin' then, that ain't where the hip-hop live
It lives in the streets, we eat to live, they livin' to eat
Wu-Tang、もしここがヒップホップの居場所なら
ラジオが嘘をついているなら、そこにヒップホップは住んでいない
ヒップホップはストリートに生きる——俺たちは生きるために食う、奴らは食うために生きる
I'm fed up, that n***a Ryderson, I'm givin him sleep
R.I.P., make me the king of all I see
もうたくさんだ、あのRydersonって奴、眠らせてやる(ぶっ倒す)
安らかに眠れ——俺の目に見えるすべての王にしてくれ
And when death call, I'm good, I got call ID
死が電話してきても大丈夫、着信拒否できるから
See it was Clan in the front, now they just gon' front
Like my joints is on アメリカの有名なニキビ治療薬ブランド。「ビートがProactivに乗ってる」は「俺の曲が流行らない・プレイされない」という皮肉な比喩——Proactivはスキンケア用品で音楽とは無関係なのに、まるでそれに乗っているかのように「bump(響く)」しないという諧謔 , and they just don't 「bump(バンプ)」はスラングで「スピーカーから大音量で鳴り響く・ヒットする」の意。曲が誰かのカーステレオやスピーカーで大音量でかかることがステータスだった時代の表現
昔はClanが前に出ていた、今は奴らただフロント(見せかけ)するだけ
俺のビートはProactivに乗ってるみたいで、バンプ(響かない)しないって言うじゃないか
★ スキルを失ったのは俺じゃない
Then n***as gon' say I lost my skill
When in fact, they all been programmed and lost they feel, for real
そして奴らは俺がスキルを失ったと言うだろう
実際は、奴らが全員プログラムされて感覚を失ったんだ、マジで
★ Lauryn Hillのサンプル——同じ痛みを持つ者の共鳴
They've got so much things to say right now
They've got so much things to say, yeah
奴らには今、言いたいことがたくさんある
奴らには言いたいことがたくさんある、ああ
Damn, another artist chokes again
They ain't cut as close as him or even broke the skin
くそ、また別のアーティストが失速した
奴らはMethod Manほど近くにも来ていないし、皮膚すら傷つけてもいない
See how n***as ain't your friends when there ain't no ends
Don't care who the case offend, don't underrate my pen
金(ends)がなくなると誰も友達じゃないとわかる
誰が気を悪くしようと構わない——俺のペン(ライティング力)を過小評価するな
I got what it takes to win, while y'all thinkin' I'm trash
Lovin' the taste of success and this drink in my glass
俺には勝つためのものが揃っている、お前らが俺をゴミだと思っている間も
成功の味と、このグラスの中の一杯を愛している
Watch 'em cosign that 「ダサい・クオリティが低い・本物じゃない」の意。ヒップホップで最も致命的な批判語。使えないラッパーや偽物の音楽を指す s***, give it a pass
'Til it's gone, quicker than Red, can't get rid of them 「crabs(カニ)」はヒップホップスラングで「足を引っ張る奴・嫉妬して他人を引きずり下ろそうとする人間」。バケツの中のカニが互いに這い上がろうとする他のカニの足を引っ張る行動から来たメタファー
奴らはワック(ダサい)なものを保証して、お咎めなしにする
あっという間に消えていく——Redmanより速く、カニ野郎(足を引っ張る奴ら)は消えない
When they're wrong, call the cops, their credibility's shot
It's time they learned what's hot really is and really is not
奴らが間違えたとき、警察を呼べ——信頼性はゼロだ
本当にホット(かっこいい)とはなにか、奴らに学ばせる時が来た
Off-brand n***as, Meth gon' let 'em know off top
Don't get smacked on DVDs, tryna show off グロック(Glock)。オーストリア製の半自動拳銃ブランドで、1990年代以降のアメリカのストリートカルチャーとヒップホップで最も言及頻度の高い拳銃。ここでは「DVDでガンを見せびらかしてイキる」行為を批判 もう一度タップで詳細 →
オフブランド(偽物)野郎どもに、Methが最初からはっきり言ってやる
DVDでグロック見せびらかして調子に乗ると、ぶっ叩かれるぞ
★ 敵の妨害にも止まらない
I can't stop 'cause my enemies plot, or 'cause the cops want me
Shackled and locked inside the penalty box
敵が謀略を巡らせても、警察が狙っていても止まれない
手錠をかけられペナルティボックスに閉じ込められたとしても
And while they waitin' for my s*** to flop
They gettin' pimped like hoes, sellin' they ass just to get my spot, come on, man
奴らが俺の曲がコケるのを待っている間
奴らは売春婦みたいにポン引きされ、俺のスポットを奪うために体を売っている
★ 批評家への最後通牒
Ask Miss Hill, half these critics ain't got half this skill
Or been so hungry that they have to steal
Miss Hill(Lauryn Hill)に聞いてみろ——批評家の半分はこのスキルの半分も持っていない
食うために盗まなければならなかったほど腹を空かせたこともない
If I didn't have my deal, and didn't have this 「大衆的な魅力・広い支持」。Gang Starrの1994年アルバム「Hard to Earn」収録の同名曲へのオマージュとも取れる。ヒップホップが商業的に成功するための「大衆受け」を指す
Then I'm back up in that trap, slingin' crack, it's real
もし俺にディール(契約)がなく、このマス・アピール(大衆的人気)もなければ
あのトラップ(麻薬の巣)に戻って、クラックを売っていた——これはリアルな話だ
And that ain't worth the time, so search and find
A new nerve and here's three words: stop working mine
それは時間の無駄だから、探して見つけろ
新しい神経を——そしてここに三言:俺の神経を触るな
It take a lot more to hurt my pride, jerk my vibe
More than media lies, cried when Ol' Dirty Bastard(ODB)のニックネームの一つ。Wu-Tang Clanの個性派MC。2004年11月13日、コカイン中毒による心臓発作でスタジオで倒れ35歳で死去。Method Manがバースで直接追悼を示す唯一の個所 died, n***a
俺のプライドを傷つけたり、ヴァイブを狂わせるには、もっと多くのことが必要だ
メディアの嘘より多くのことが——Dirt Dog(ODB)が死んだときは泣いた、そうだ
The last album, wasn't feelin' my style
This time my foot up in they ass, bet they feelin' me now
前のアルバム、奴らは俺のスタイルを気に入らなかった
今回は奴らの尻に足を突っ込んでやった——今は俺が感じられるだろう
'Cause Tical, he put his heart in every track he do
But somehow y'all find someway to give a whack review
なぜならTical(Method Manの別名)はすべてのトラックに心を込めている
なのに何故かお前らはどこかしらワック(ひどい)なレビューをする方法を見つける
It ain't all good, they writin' that I'm Hollywood
Tryna tell you my s*** ain't ghetto and they hardly hood
全然良くない——奴らは俺がハリウッド(浮ついた)と書く
俺の曲がゲットーじゃないと言おうとする——奴らこそフッドじゃない
★ 批評家への最後通牒
Come on, man, until you dudes can write some rhymes
Keep that in mind when you find yourself reciting mines
来い、お前らが自分でライムを書けるようになるまで
俺のライムを引用している自分に気づいたとき、そのことを肝に銘じておけ
They've got so much things to say right now
They've got so much things to say, yeah
Yeah, yeah, yeah
奴らには今、言いたいことがたくさんある
言いたいことがたくさある、ああ
三世代の怒り
「Say」のサンプリング構造は単なる音楽的引用ではない。Bob Marleyのオリジナル「So Much Things to Say」(1977)は「不当な批判と迫害の中で真実を守る」という抵抗の歌。それをLauryn Hillが2002年にアコースティックカバーし——彼女自身も当時業界から「精神的に不安定」と否定されていた。そのLauryn HillのバージョンをさらにMethod Manがサンプリングした2006年の「Say」は、三世代にわたる「業界に裏切られた本物」の怒りを一つの曲に圧縮した構造体となっている。
2006年のヒップホップ地図
2006年はYoung JeezyのTrap Muzik、Lil JonのクランクサウンドがBillboardを席巻。T.I.やLil Wayneが東南部の覇権を確立していた年代。NYのベテランラッパーたちは「時代遅れ」と切り捨てられる圧力の中にあった。そこにMethod ManはErick Sermonの太いドラムブレイクとワームアップなサンプリング・ループをあえて選び、商業的妥協を一切拒否した。
キーワード解説
制作秘話 01
Method Manは『4:21... The Day After』の制作で公言した——「高額ギャランティーを要求するプロデューサーには金を払わない」。RZAとErick Sermonをエグゼクティヴプロデューサーに据え、長年の信頼関係のある同志たちとアルバムを作り上げた。「Say」のErick Sermonプロデュースは、その哲学の体現——EPMDやDef Squadで鍛えた職人技のブーンバップ。
制作秘話 02
Lauryn Hillの『MTV Unplugged No. 2.0』(2002)は発売当時、メディアから「未完成」「精神的問題の現れ」として酷評を受けた。しかし時間が経つにつれ、業界の偽善を暴いた最も誠実なアルバムの一つとして再評価されている。Method Manがこの「呪われた」音源をあえて引用したのは、Lauryn Hillの経験が自分自身の置かれた状況と完全に共鳴したから——業界に「ダメだ」と言われながら真実を叫び続けた者同士の連帯。
制作秘話 03
Lauryn Hillのバージョンはボブ・マーリーのオリジナル作品のカバーのため、楽曲著作権(作詞作曲:Bob Marley)と実演権(演奏:Lauryn Hill)の両方をクリアする必要があった。2000年代のサンプリング費用高騰の時代に、この複雑なライセンス処理をやり遂げたことは、曲へのMethod Manとレーベルの強いコミットメントを示している。
後世への影響
「Say」は2006年当時の商業的なヒットには至らなかったが、ヒップホップのベテランが「業界批判」をテーマに作れる最高の作品の一つとして時間とともに評価が高まっている。「成熟したラッパーのリアル」——若い頃の怒りではなく、経験を積んだ上での幻滅と誇りが共存する稀有な楽曲。
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Say / 4:21... The Day After
Method Man
Method Man
Staten Island, New York · 1992–
Wu-Tang Clanの看板MC、本名Clifford Smith。1994年ソロデビュー作「Tical」でスターダムに。RZA製の暗黒ビートに絡みつく独特のフロウと声質は唯一無二。RedmanとのコンビやHBO「The Wire」出演など音楽・俳優の両面で活躍。