この記事の見どころ
2020年リリースのRun The Jewels 4作目アルバム『RTJ4』の先行シングル。El-PとKiller Mikeが1990年代東海岸ブーンバップへのオマージュを現代の階級批判・資本主義への怒りと融合させた一曲。「M(millions=金)」を求める強迫的欲望と、支配者層への徹底的な反抗が交互に展開する。タイトル「ooh la la」はGreg Niceのボーカルサンプルから来ており、高揚感を演出しながら、歌詞では体制転覆のメッセージが炸裂する。
2020年3月25日リリース。プロデュースはEl-P(Little Shalimar・Wilder Zoby兄弟が共同プロデュース)。Gang Starr feat. Nice & Smooth「DWYCK」(1992年)のGreg Niceボーカルフレーズを大胆にサンプリングし、さらにDJ Premier本人がスクラッチを担当。BPM 85(ハーフタイム表記、トラック全体は170 BPM)の重厚なグルーヴが、新型コロナウイルスのパンデミック開始直後、そしてジョージ・フロイド事件前夜という歴史的文脈の中でリリースされた。
El-P(Jamie Meline)はニューヨーク出身、Killer Mike(Michael Render)はアトランタ出身。2012年の初コラボ以来、Run The Jewelsは「ハードコアな音楽性」と「左派的政治思想」を組み合わせた独自路線でアンダーグラウンドからメインストリームへと浮上してきた。『RTJ4』は2020年6月にコロナ禍・ブラック・ライブズ・マター運動の激化を受けて無料配信として前倒しリリースされ、時代の怒りを代弁するアルバムとなった。
★ El-Pの一声——始まりの合図
Uh, hey (Oh, s**t)
ウ、ヘイ(おっと、やばい)
★ Greg Niceのボーカルサンプル——世代を超えた連続性
Ooh, la la, ah, oui oui
Ooh, la la, ah, oui oui
ウー、ラ・ラ、アー、ウィ・ウィ
ウー、ラ・ラ、アー、ウィ・ウィ
Ooh, la la, ah, oui oui (Ayy)
Ooh, la la, ah, oui oui (Let's go)
Ooh, la la, ah, oui oui
Ooh, la la, ah, oui oui
Ooh, la la, ah, oui oui
Ooh, la la
ウー、ラ・ラ、アー、ウィ・ウィ(エイ)
ウー、ラ・ラ、アー、ウィ・ウィ(さあいくぞ)
ウー、ラ・ラ、アー、ウィ・ウィ
ウー、ラ・ラ、アー、ウィ・ウィ
ウー、ラ・ラ、アー、ウィ・ウィ
ウー、ラ・ラ
★ 「M(百万ドル)」への強迫的執着
Lookin' for M's like I lost a friend
Jump out of my bed like, "Where the bread?"
M(百万ドル)を探し回る——まるで友人を失ったかのように
ベッドから飛び起きて「金はどこだ?」
You gon' hold the egg, waiter bring the check
When we talk, we Kalashnikov, keep us in your thoughts
お前が卵を持て、ウェイターよ伝票を持ってこい
俺たちの話はカラシニコフ(AK-47)——心に刻んでおけ
Fully dressed at the crack of dawn, weapons letting off
I can hear them from the block, see them creeping through the fog
夜明けから完全武装、武器が火を噴く
ブロック(街角)から聞こえてくる——霧の中を忍び寄る気配
Season's greetings, now feeding season can start, oh my God
Look alive, lookin' like I live life on a crooked line
ご挨拶はここまで、さあ「飯の時間(狩りの季節)」の始まりだ——神よ
生き生きしてみせろ——俺は歪んだ線の上を生きているように見える
★ 「最大限の馬鹿さ」を求める反体制宣言
Doin' fine, you want maximum stupid, I am the guy
調子はいい——「最大限の馬鹿さ」が欲しいなら、俺がそいつだ
★ 「法なんか知るか」——Killer Mikeの爆発
First of all, f**k the f**kin' law, we is f**kin' raw
Steak tartare, oysters on the half-shell, sushi bar
まず言っておく、法律なんかくたばれ、俺たちは生のままだ
ステーキタルタル、殻付き牡蠣、寿司バー
Life a b***h and the pussy fish, still f**ked her raw
I'm a dog, I'm a dirty dog, ha-ha-ha-ha-ha
人生はビッチで、その魚臭い女でさえ生でやった
俺は犬だ、汚れた犬だ、ハハハハハ
★ Ol' Dirty BastardとJeru the Damajaへのリスペクト
Ol' Dirty Bastard, go in your jaw, shimmy shimmy ya
Got the semi in the hemi, goin' "Gimme, gimme, y'all"
Ol' Dirty Bastard、お前の顎に入っていく、shimmy shimmy ya
ヘミ(エンジン)の中にセミ(拳銃)を持ち込んで「くれ、くれ」と叫んでる
Pugilistic, my linguistics are Jeru the Damaja
And I rap it pornographic, b***h, set up the camera
好戦的に、俺の言語はJeru the Damajaだ
ポルノグラフィックにラップする——ビッチよ、カメラをセットしろ
Ooh, la la, ah, oui oui (Ayy)
Ooh, la la, ah, oui oui (Ah, oui oui)
Ooh, la la, ah, oui oui
Ooh, la la, ah, oui oui (Mon cheri, mon cheri)
Ooh, la la, ah, oui oui (Mon cheri, mon cheri)
Ooh, la la, ah, oui oui
Ooh, la la, ah, oui oui (I need a bottle of Moët, ho, come on)
Ooh, la la, ah, oui oui (Garçon)
ウー、ラ・ラ、アー、ウィ・ウィ(エイ)
ウー、ラ・ラ、アー、ウィ・ウィ(アー、ウィ・ウィ)
ウー、ラ・ラ、アー、ウィ・ウィ
ウー、ラ・ラ、アー、ウィ・ウィ(モン・シェリ、モン・シェリ)
ウー、ラ・ラ、アー、ウィ・ウィ(モン・シェリ、モン・シェリ)
ウー、ラ・ラ、アー、ウィ・ウィ
ウー、ラ・ラ、アー、ウィ・ウィ(モエのボトルが必要だ、さあ来い)
ウー、ラ・ラ、アー、ウィ・ウィ(ギャルソン=ウェイター)
★ 「腐敗を覆う」——El-Pの戦士宣言
You covet disruption, I got you covered, I'm bussin' (Bussin')
My brother's a runner, he's crushin', it's no discussion ('Scussion)
お前は混乱を欲しがる——俺が守ってやる、俺は撃ちまくってる
俺の兄弟は走り屋、奴は粉砕している——議論の余地なし
I used to be munchkin, I wasn't 'posed to be nothin' (Nothin')
Y'all f**kers corrupted and up to somethin' disgusting
俺はかつてちびっ子で、何者でもないはずだった
お前ら野郎どもは腐敗して、何か気持ち悪いことを企んでいる
My pockets are plumper this season, I love to cuff 'em
I'm afraid of nothin' but nothingness, ain't it something?
今シーズンはポケットがふっくらしてる——守り抜くのが好きだ
俺が怖いのは「無」だけだ——それ自体すごいことじゃないか?
★ 「子供たちをオーブンに入れる」——資本主義の残酷さ
Warmongers are dumpin', they'll point and click at your pumpkin (Look out)
Your suffering is scrumptious, they'll put your kids in the oven
戦争屋どもが捨てていく——お前の頭(かぼちゃ)にポイント&クリックで狙いを定める
お前の苦しみは彼らには美味——子供たちをオーブンに入れる
★ 「王も女王も関係ない」——根底的な反権威主義
f**k a king or queen and all of they loyal subjects
I pull my penis out and I piss on they shoes in public
王も女王もその忠実な臣下も全員くたばれ
チンポを出して、公衆の面前で奴らの靴に小便をかけてやる
People, we the pirates, the pride of this great republic
No matter what you order, muhf**ker, we what you're stuck with (Sorry)
人々よ、俺たちは海賊だ——この偉大な共和国の誇り
何を注文しようと、お前らはこの俺たちと付き合うしかない(悪いな)
★ 「バットマンよりジョーカー」——混沌の側に立つ宣言
I used to love Bruce, but livin' my vida loca
Helped me understand I'm probably more of a Joker
昔はブルース(ウェイン=バットマン)が好きだったが、「vida loca(狂った生活)」を生きるうちに
俺はたぶんジョーカーの方だと理解した
When we usher in chaos, just know that we did it smiling
Cannibals on this island, inmates run the asylum
俺たちが混沌を招き入れるとき、笑顔でやったと知れ
この島では食人者たちが跋扈し、収容者が精神病院を運営している
Ooh, la la, ah, oui oui (Ayy)
Ooh, la la, ah, oui oui (Ayy)
Ooh, la la, ah, oui oui (Ayy)
Ooh, la la (DJ Premier)
ウー、ラ・ラ、アー、ウィ・ウィ(エイ)
ウー、ラ・ラ、アー、ウィ・ウィ(エイ)
ウー、ラ・ラ、アー、ウィ・ウィ(エイ)
ウー、ラ・ラ(DJプレミア)
★ DJ Premierのスクラッチ——歴史的な「閉幕」
Ooh, la la
Ooh, la-, la, la
Ooh, ooh
Ooh, ooh, la la, ah, oui oui
Ooh, la, la, la, la, la
Ah, oui, ah, oui, ah
Ah, ah, oui, oui
ウー、ラ・ラ
ウー、ラ・ラ、ラ
ウー、ウー
ウー、ウー、ラ・ラ、アー、ウィ・ウィ
ウー、ラ、ラ、ラ、ラ、ラ
アー、ウィ、アー、ウィ、アー
アー、アー、ウィ、ウィ
Gang Starr「DWYCK」とヒップホップの歴史的連続性:「DWYCK」(1992年)はDJ PremierがプロデュースしたGang StarrとNice & Smoothのコラボ曲。Greg Niceの「Ooh, la la, ah, oui oui」というフレーズは1990年代ヒップホップの象徴的なボイス。El-PがこれをサンプリングしたのはDWYCKへの深いリスペクトの表明であり、DJ Premier自身がスクラッチで参加することで「先代から現代への横断」が完成した。
2020年という時代:「ooh la la」は2020年3月にリリースされ、その3ヶ月後にジョージ・フロイドが警察官によって殺害された。Run The JewelsはBLM運動の高まりを受けてアルバム『RTJ4』を無料配信として前倒しリリース。Killer Mikeはアトランタ市長とともに演説を行うなど、社会運動への直接的な関与を示した。
El-PとKiller Mikeの思想的連帯:El-Pは白人でありながら黒人解放運動を支持し、Killer Mikeは社会主義者を自称する黒人ラッパー。この「異なる背景を持つ二者の連帯」がRTJの核心にあり、「ooh la la」の祝祭的な高揚感の裏には、社会への深い怒りと抵抗の意志が埋め込まれている。
Electric Lady StudiosとShangri-La:『RTJ4』の録音はジミ・ヘンドリックスが設立したニューヨークのElectric Lady Studiosと、Rick Rubin所有のShangri-La(カリフォルニア州マリブ)で行われた。Electric Lady Studiosのアナログな温かみとEl-Pの冷徹な電子音が衝突することで、「クラシックな響き」と「未来的な破壊力」を同時に持つサウンドが生まれた。
DJ Premierとの「二重のメタ」:El-Pは「DWYCK」のGreg Niceボーカルをサンプリングし、さらにそのDWYCKのプロデューサーであるDJ Premierをアウトロのスクラッチに招いた。つまり、DJプレミアは「自分がかつてプロデュースした楽曲のボーカルフレーズが使われた別の曲の上でスクラッチする」という三重の入れ子構造を演じている。これはヒップホップの歴史的連続性を示す最も精巧な仕掛けのひとつ。
Little ShalimarとWilder Zoby兄弟:RTJの初期から深く関わる共同プロデューサー。元バンド「Chin Chin」のメンバーで、生楽器的な重厚なグルーヴをEl-Pの電子音に加えることで、単なるブーンバップ模倣を超えた独自の音像を作り上げた。
『RTJ4』の歴史的評価:Pitchfork、Rolling Stone、GQ等の主要メディアが2020年のベストアルバムに選出。「ooh la la」は特にブーンバップ復権の象徴として語られ、若いリスナーに1990年代NYヒップホップのDNAを伝える架け橋となった。
社会運動との連帯:Killer MikeはBLM運動が激化する中、ソーシャルメディアで積極的に発言し、後のジョージア州上院選(ラファエル・ウォーノックへの支持運動)にも関与した。Run The JewelsはNFLやNBAの選手がジャージの内側に「RTJ」と書くなど、スポーツ界からもリスペクトを受けた。
ブーンバップ復権のシンボル:2020年代のヒップホップシーンでは、トラップ一辺倒への反動としてサンプリングベースのブーンバップへの回帰が見られる。「ooh la la」はその先駆けとなり、Kendrick Lamarの『Mr. Morale & The Big Steppers』(2022年)やJPEGMAFIA等の作品が続いた。
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ooh la la / RTJ4
Run The Jewels
Run The Jewels
New York / Atlanta · 2012–
El-P(Jamie Meline、ニューヨーク出身)とKiller Mike(Michael Render、アトランタ出身)による2人組スーパーデュオ。2012年に結成し、翌2013年にデビューアルバムを無料配信。以降全作品を無料配信するスタンスで知られる。El-Pの実験的・ディストピア的なビートとKiller Mikeの社会批評的なリリシズムが融合した独自スタイルを確立。2020年のBLM運動の文脈で発表した「RTJ4」が世界的に高く評価された。