ストーリーの流れ — まず曲全体をつかむ
この曲は物語というより、Nasという人間の「自己定義の連射」です。なので各バースが何を比喩のテーマにしているかをざっと押さえておくと、次章「学ぶ表現」で一語ずつ掘るときに迷子になりません。
Verse 1(Nas)。出だしから「自由か監獄か」「赤ん坊の誕生と男の死」を同じ呼吸で並べて、生と死が隣り合うストリートの感覚を最初に置きます。そこから自分の名の由来(Nasty Nas からの改名)、ラップで街の「経典」を書く者としての自負へと展開して、最後は N-A-S と名前を綴ってフックへ橋渡し。物語というより、自分が立っている地面の説明です。
Hookは「Nas is like... life or death」「half-man, half-amazin'」など、Nas自身の声をPremierが切り刻んでスクラッチで組み上げたもの。歌うのではなく、過去のNasの肉声をコラージュしてサビにしているのがミソです。
Verse 2は、Iron Mike(タイソン)やMessiah(救世主)を引きながら「Before the Christ, After the Death」とB.C./A.D.をひっかける言葉遊びへ。途中でスペイン語(siete zeros=七つのゼロ、pesos)が混ざって、富と死生観、つまり「金は墓まで持っていけない」というテーマが顔を出します。
Verse 3は、ほぼ全行が「I'm like 〜」の畳みかけ。street sweeper、'Pac、ギリシャとエジプト、ミリオネアの感覚……比喩を高速で積み上げて、最後に "a thug poet(ならず者の詩人)" という一語で自分を締める。街の比喩、伝説の名、古代文明、金の話。振れ幅の大きい比喩を畳みかけながら、最後は"a thug poet"の一語に収束させる。この振れ幅と収束のコントロールこそ、Nasの頭の良さだと思います。
※本ページは批評・教育目的で、解説に必要な範囲の断片のみを引用しています。全歌詞の対訳は掲載していません。