この記事の見どころ
元ネタ
「頭がイカれてる」——そのタイトルが意味するのは、マリファナで開かれた意識の状態、体制に染まらない自由な精神、そしてチカーノとしての怒りと誇りが混ざり合った「狂気としての覚醒」だ。B-Realがねじれた知性で世界の矛盾を暴き、DJ Muggsの重力のあるビートが底から支える。社会規範からの逸脱を「正気」と呼ぶ者への反論——これは1993年のLAから放たれた反乱宣言である。
1993年7月リリースのアルバム『Black Sunday』収録。同アルバムはBillboard 200初登場1位を記録。プロデューサーDJ MuggsはSly & The Family Stoneを含む複数のサンプルを重ね合わせ、BPM96の重いグルーヴを構築。B-Realの独特のナザル(鼻声)ラップとSen Dogのアグレッシブなフックが組み合わさり、マリファナ・反体制・チカーノ文化の三位一体を体現した。全米Rapチャート1位、PopチャートTop20入りを達成した。
1992年のLAロドニー・キング暴動後、黒人とラテン系コミュニティへの警察暴力と貧困の問題は沸点に達していた。Cypress Hillはその怒りをマリファナの煙と重いビートに包んで提示した——怒鳴るのではなく、「イカれた」ように見せることで体制の狂気を映す鏡とした。DJ Muggsの極めて重いサンプリングは1992年の「Cypress Hill」でデビューし、本作でピークに達した。
Who you trying to get crazy with, メキシコ系(チカーノ)スラングで仲間・男・やつの意。スペイン語の文字Sの発音から来た呼びかけ語。チカーノ文化のマーカー語。 ?
Don't you know I'm スペイン語で狂ったの意。チカーノHHでは恐れを知らないクレイジーな男として誇りの意味で使われる。 ?
誰と狂気合戦しようっていうんだ、エセ(仲間)?
俺がイカれてるって知らないのか?
★ 混乱する意識の流れ
To the one on the 派手・目立ちたがり屋・虚飾的。ここでは俺に絡もうとする目立ちたがり屋の相手という意。 tip
I'll just toss that ham in the frying pan
フランボイアント(派手好き)なやつへ
そのハムをフライパンにぶち込んでやる
Like Spam, get done when I come and slam
Damn, I feel like the 1977年NYを恐怖に陥れた連続殺人犯David Berkowitz(別名Son of Sam)。精神的な不安定さと爆発的な危険性の比喩として使われる。
スパムみたいに、俺が来てスラムすれば片付く
くそ、俺はサン・オブ・サム(殺人鬼)みたいな気分だ
Don't make me wreck s***, 混乱した・激しい・コントロール不能な状態。B-Realがこれ以上刺激されると爆発するという警告として使われる。
俺をヘクティック(混乱状態)でぶっ壊させるな
Next get the chair, got me going like General Electric
And the lights are blinking, I'm thinking
It's all over when I go out drinking
Oh, making my mind slow
次は電気椅子だ、ゼネラル・エレクトリックのように俺を動かしている
そしてライトが点滅している、俺は考えているんだ
飲みに出かけたらすべて終わりだと
ああ、頭の回転が鈍くなっていく
That's why I don't f*** with the big 40オンス(forty)のモルトリカーボトル。スラングでforty(forty ounce)。ストリートカルチャーのアルコール飲料の代名詞。
Bro, I got to maintain
'Cause a n***a like me is going insane
だから俺は40オンス(安い酒)に手を出さない
ブロ、俺は平静を保たなければならない
なぜなら俺みたいな奴は狂っていくから
Insane in the 脳を覆う髄膜(脳脊髄膜)。brainと韻を踏む医学用語をポップに使うことで、タイトルのダブルミーニングを強化している。
Insane in the brain
Crazy insane, got no brain
メンブレン(髄膜)の中がイカれてる
脳みそがイカれてる
クレイジーに狂ってる、脳みそなんてない
★ Sen Dogのハードなバース
Do my s*** undercover, now it's time for the blubber
Blabber, to watch that belly get fatter
こっそりやってきた、今こそ脂肪の時間だ
喋り続けて、そのデブったお腹を見てろ
I'll 強奪する・盗む・乗っ取る。ジャックナイフから来た表現。カージャック・ハイジャックと同語源。 your ass like a looter in a riot
My s***'s fat, like a sumo, slammin' that ass
Leavin' your face in the grass
暴動の略奪者みたいにお前をジャックしてやる
俺のラップは相撲取りみたいにデカい、そのケツをスラムしてやる
そしてお前の顔を草に突っ込ませたままにしておく
Fat boy on a diet, don't try it
I'll jack your ass like a looter in a riot
ダイエット中のデブ野郎、やめとけ
暴動の略奪者みたいにお前をジャックしてやる
常に笑顔・ポジティブな表情を作り続ける人。ここではストリートのリアリティを知らないナイーブな人間、または危険を理解できない能天気な態度を揶揄する。 n***a never seen me smile
You know I don't take a 侮辱・過小評価・軽視。do lowは誰かを見下す行為。lightly(軽く)と組み合わせて、軽視を絶対に許さないという宣言。 lightly
ハッピーフェイス(能天気)な奴は俺が笑うのを見たことがない
俺は誰かに軽視されることを軽く取らない
Punks just jealous 'cause they can't outwrite me
Or kick that style, wicked, wild
Rip that mainframe, I'll explain
A n***a like me is going insane
ポンコツどもは嫉妬してる、俺には書き勝てないから
もしくはこのワイルドでヤバいスタイルを蹴り出せないからな
メインフレームを引き裂いてやる、説明しよう
俺みたいな奴は狂っていくのさ
Insane in the brain
In the brain (Kinda loco)
Insane in the brain
In the brain (Kinda loco)
Insane in the brain
In the brain— insane— (Kinda loco)
Insane in the brain
Yeah, here we go (Gunshot me head back)
脳みそがイカれてる
脳みその中が(少しクレイジーだ)
脳みそがイカれてる
脳みその中が(少しクレイジーだ)
脳みそがイカれてる
脳みその中が—狂ってる—(少しクレイジーだ)
脳みそがイカれてる
ああ、行くぜ(銃声が頭に響く)
★ マリファナと警察への抵抗
Like Louie Armstrong played the trumpet
I'll hit that 水パイプ式のマリファナ喫煙器具。ガラス製で水を通すことで煙を冷やす。Cypress Hillが多用する語彙のひとつ。 and break you off something
Soon, I got to get my props
ルイ・アームストロングがトランペットを吹くように
俺はボング(水パイプ)をヒットして、お前に何かをもたらしてやる
近いうちに、俺は正当な評価(プロップス)を得るはずさ
Cops come and try to snatch my 栽培作物。ここではマリファナの収穫物を指す農業的メタファー。マリファナを農作物として語ることで合法化・日常化を暗示する。
These pigs wanna blow my house down
コップ(警察)が来て俺のクロップス(マリファナ収穫)を奪おうとする
こいつらブタ野郎どもは俺の家を吹き飛ばそうとしている
Head underground to the next town
They get mad when they come to raid my 自分の部屋・家・アパートのスラング。1960年代ビート世代から続く用語。
And I'm out in the nine-deuce Cadillac(キャデラック)の短縮形。アメリカの豪華の象徴。1992年型(nine-deuce = 92年)キャデラックを指す。
地下に潜って次の街へ向かう
奴らは俺のパッド(家)を家宅捜索しに来て怒り心頭
そして俺は92年型キャデラックで出かけているのさ
Yes, I'm the pirate, pilot
Of this ship if I get with the 紫外線の夢。可視光線を超えた領域の比喩——通常の意識や認識を超えたサイケデリックな精神状態、またはマリファナで拡張された意識の隠喩として機能する。
Hide from the red light beam
そう、俺は海賊であり、パイロットだ
アルトラヴァイオレット・ドリーム(紫外線の夢)に入れば、この船の操縦者
赤い光線(パトカーのサイレンやレーザー)から身を隠す
Now do you believe in the unseen?
Look, but don't make your eyes strain
A n***a like me is going insane
今、見えないものを信じるか?
見てくれ、でも目を疲らせるな
俺みたいな奴は狂っていくのさ
Insane in the brain
Kinda loco
Insane in the brain
Kinda loco
Insane in the brain
Kinda loco
Insane in the brain
Kinda loco
脳みそがイカれてる
少しクレイジーだ
脳みそがイカれてる
少しクレイジーだ
脳みそがイカれてる
少しクレイジーだ
脳みそがイカれてる
少しクレイジーだ
Cypress Hill
Cypress Hillはキューバ系のB-Real(Louis Freese)、メキシコ・キューバ系のSen Dog(Senen Reyes)、DJ Muggs(Lorenzo Livermore)によるLA・サウスゲート出身のグループ。黒人とラテン系の文化が交差するLAサウスサイドの経験から生まれた彼らの音楽は、チカーノ・アイデンティティを主流HHシーンに持ち込んだパイオニア。スペイン語のスラングを自然に英語ラップに混在させる手法は、後のラテン系HHアーティストたちに道を開いた。
マリファナ解放運動とHH
1993年時点でマリファナは全50州で違法だった。Cypress HillはSnoop Doggとともに、マリファナ解放をヒップホップの文化的テーマとして定着させた主要なアクターだ。「Insane in the Brain」でB-Realがマリファナをルイ・アームストロングのトランペットに例えたことは、禁止された薬物を芸術的実践として再定義する象徴的な瞬間だった。Cypress HillはHEMP(大麻合法化)活動に積極的に関与し、1990年代の大麻解放運動の文化的アイコンとなった。
キーワード解説
DJ Muggsのサンプリング
「Insane in the Brain」のビートはSly & The Family Stone「Trip to Your Heart」(1971)のドラムブレイクを核に、複数のレコードからサンプルを重ね合わせてDJ Muggsが構築した。Muggsのビートメイキングの特徴は「重力」——ずっしりと沈むような低域とシンコペーションしたハイハットの組み合わせが、B-Realの軽いナザル・ヴォイスを引き立てる対比構造を作る。LAのサウスゲートにあるMuggsのスタジオで深夜に作られたこのビートは、当初誰もヒットするとは思っていなかったという。
B-Realのナザル・ヴォイス
B-Realの最大の特徴は「nasal voice(鼻声)」——高く、鼻にかかった独特のトーン。初期には「弱い声だ」と批判されることもあったが、このねじれた声質がDJ Muggsの重いビートと組み合わさることで、他の誰も真似できない独自のサウンドが生まれた。B-Real自身は若い頃の事故で鼻骨を骨折したことがこの声の原因だと語っている。
Black Sunday(1993)
アルバム『Black Sunday』は1993年7月20日にリリースされ、発売週にBillboard 200で1位を獲得。これはヒップホップアルバムとして初週チャート1位を達成した最初期の事例のひとつで、HHが商業的主流に完全に食い込んだことを示すマイルストーンだった。アルバムはDef Jam Recordsからリリースされ、100万枚以上のセールスを記録した。
後世への影響
「Insane in the Brain」はチカーノ・アイデンティティを主流ヒップホップに持ち込んだ先駆けとして、後のラテン系HHアーティスト(Pitbull、Cardi B、Bad Bunnyら)への道を開いた。また大麻解放の文化的象徴として、カリフォルニア州を始めとする大麻合法化運動においても繰り返し引用された。
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Insane in the Brain / Black Sunday
Cypress Hill
Cypress Hill
South Gate, Los Angeles, California · 1988–
B-Real(キューバ系・メキシコ系)、Sen Dog(キューバ生まれ)、DJ Muggs(シチリア系)による多文化混成のLA出身グループ。1993年『Black Sunday』でBillboard 200初登場1位を記録。チカーノ文化の語彙とサイケデリック・ヘヴィ・ビートを融合させ、ラテン系ヒップホップのメインストリーム進出を切り開いたパイオニア。