この記事の見どころ
元ネタ
「権力と戦え」——Chuck Dがアメリカの白人支配的な文化・制度・歴史観に真正面から戦いを宣言した曲。ポップカルチャーの象徴だったElvisとJohn Wayneを「黒人文化の搾取者・蔑視者」として糾弾し、ブラックコミュニティが「自らの英雄・自らの音楽・自らの誇り」を主張する権利を高らかに歌う。1989年、公民権運動から20年以上を経てもなお変わらない構造的人種差別への怒りを、The Bomb Squadの轟音とともに世界に叩きつけた。
1989年7月4日(独立記念日)リリース。Spike Leeの映画『Do the Right Thing』のために書き下ろされ、映画の冒頭からエンディングまで繰り返し流れるテーマ曲として機能する。Chuck Dはイタリアツアーの飛行機の中で歌詞の大半を書き上げた。ホット・ラップ・シングルズで1位を獲得し、Rolling Stone誌「史上最も偉大な500曲」2021年版では2位に選出された。
1989年、レーガン政権後のアメリカ。公民権法成立から25年が経過しても黒人コミュニティへの経済的・制度的差別は続き、NYでは黒人男性が白人青年集団に袋叩きにされる「Howard Beach事件」(1986)や「Bensonhurst事件」(1989)が相次いでいた。Spike Leeはこの緊張を映画『Do the Right Thing』で描き、そのサウンドトラックとしてPublic Enemyに「怒り・反抗・リズム」を持った曲を依頼した。Chuck Dが応えたのが「Fight the Power」——黒人の怒りと誇りを同時に体現した、ヒップホップ史上最も政治的な曲のひとつ。
Yet our best-trained, best-educated, best-equipped, best-prepared troops refuse to fight
Matter of fact, it's safe to say that they would rather switch than fight
それでも最高の訓練を受け、最高の教育を受け、最高の装備を持ち、最高の準備をした兵士たちが戦うことを拒否している
はっきり言えば、彼らは戦うよりも鞍替えを選ぶだろう
★ 1989年の宣戦布告
1989 the number, another summer (Get down)
Sound of the James Brownのドラマー、Clyde Stubblefieldが叩いた1970年の「Funky Drummer」のビート。ヒップホップ史上最もサンプリングされたドラムブレイクのひとつ。Public EnemyはこのビートをTrack全体の骨格として使用した
Music hittin' your heart 'cause I know you got soul
1989年、その数字、また夏がやってきた(ゲット・ダウン)
ファンキー・ドラマーのサウンド
音楽が心を直撃する、お前たちに魂があることを俺は知っているから
Brothers and sisters (Hey, hey)
Listen if you're missin', y'all
Swingin' while I'm singin' (Hey), givin' what you're gettin'
Knowin' what I know and while the Black band's sweatin'
兄弟・姉妹たちよ(ヘイ、ヘイ)
もし迷子になっているなら聞いてくれ
歌いながら揺れている、与えるものを与えながら
知っていることを知りながら、ブラックバンドが汗をかいている間も
★ 「freedom of speech is freedom of death」
And the rhythm-rhyme rollin'
Got to give us what we want (Uh)
Gotta give us what we need (Hey, haha, hey)
Our freedom of speech is freedom of death
We've got to fight the 「現在の支配権力・体制」。特定の人物ではなく抑圧的な構造システム全体を指す表現。ここでは人種差別・白人中心主義的な制度・メディア・政治の総体を指す
リズムとライムが転がり続ける
俺たちが欲しいものをくれ(ウー)
俺たちが必要なものをくれ(ヘイ、ハハ、ヘイ)
俺たちの言論の自由は自由か死か
俺たちは現在の権力構造と戦わなければならない
★ アンセムのコア
(Let me hear you say)
Fight the power (Let me hear you—)
Fight the power (Let me hear you say)
Fight the power (Let me hear you—)
Fight the power (Let me hear you say)
Fight the power (Let me hear you—)
Fight the power (Let me hear you say)
Fight the power (Let me hear you—)
We've got to fight the powers that be
(聞かせてくれ、言えよ)
権力と戦え(聞かせてくれ——)
権力と戦え(聞かせてくれ、言えよ)
権力と戦え(聞かせてくれ——)
権力と戦え(聞かせてくれ、言えよ)
権力と戦え(聞かせてくれ——)
権力と戦え(聞かせてくれ、言えよ)
権力と戦え(聞かせてくれ——)
俺たちは現在の権力構造と戦わなければならない
★ 意識の革命
As the rhythm's designed to bounce, what counts
Is that the rhyme's designed to fill your mind
Now that you've realized the pride's arrived
We got to pump the stuff to make you tough
リズムはバウンスするよう設計されている、肝心なのは
ライムはお前の心を満たすよう設計されているということ
誇りが到来したことに気づいた今
お前を強くするものを送り出さなければならない
From the heart, it's a start, a work of art
To revolutionize, make a change, nothing's strange
People, people, we are the same
No, we're not the same 'cause we don't know the game
心から、これは始まりだ、芸術作品だ
革命を起こし、変化を生む、何も奇妙ではない
人々よ、人々よ、俺たちは同じだ
いや、同じじゃない——ゲームを知らないから
★ bum-rush the show
What we need is awareness, we can't get careless
You say, "What is this?"
My beloved, let's get down to business, mental self-defensive fitness
力ずくで突入する・押し入るの意。ライブ会場に無料で強引に入り込む行為から転じて「権力の場に押し入る・体制に突入する」という政治的な意味を持つ。PE文脈では「体制の砦に黒人コミュニティが力づくで参入する」こと the show
You got to go for what you know
To make everybody see
In order to fight the powers that be
俺たちに必要なのは意識だ、無頓着ではいられない
お前は「これは何だ?」と言うかもしれない
愛する者たちよ、ビジネスに取り掛かろう、精神的な自己防衛の準備
ショーに突入しろ(バム・ラッシュ)
自分が知っていることで勝負しろ
全員に見せるために
現在の権力構造と戦うために
(Let me hear you say)
Fight the power (Let me hear you—)
Fight the power (Let me hear you say)
Fight the power (Let me hear you—)
Fight the power (Let me hear you say)
Fight the power (Let me hear you—)
Fight the power (Let me hear you say)
Fight the power (Let me hear you—)
We've got to fight the powers that be
(聞かせてくれ、言えよ)
権力と戦え(聞かせてくれ——)
権力と戦え(聞かせてくれ、言えよ)
権力と戦え(聞かせてくれ——)
権力と戦え(聞かせてくれ、言えよ)
権力と戦え(聞かせてくれ——)
権力と戦え(聞かせてくれ、言えよ)
権力と戦え(聞かせてくれ——)
俺たちは現在の権力構造と戦わなければならない
★ Elvis・John Wayne批判——最も物議を醸したライン
エルヴィス・プレスリー(1935-1977)。Chuck Dの批判は「ブラック・ミュージック(R&B・ゴスペル)を白人向けに商業化し、黒人アーティストの功績を奪ったシステムの象徴」としてのElvisへのもの。Chuck D自身は後に「Elvisという個人ではなく、彼が象徴するシステムへの批判だった」と補足している was a hero to most, but he—
Elvis was a hero to most—
Elvis was a hero to most, but he never meant— to me
You see, straight-out racist, that sucker was simple and plain
Mother**** him and ジョン・ウェイン(1907-1979)。Westernの象徴的俳優。1971年のPlayboyインタビューで白人優位性を肯定し、先住民族への侮蔑的発言を残した。Chuck DはこのインタビューをWayneを批判する根拠として明示的に指している
エルビスはほとんどの人にとってヒーローだった、だが彼は——
エルビスはほとんどの人にとってヒーローだった——
エルビスはほとんどの人にとってヒーローだった、だが俺には何の意味もなかった
わかるか、あいつはただのレイシストだった、シンプルでストレートに言えばな
あいつもジョン・ウェインもくたばれ
★ 黒人の誇りと英雄の再定義
'Cause I'm Black and I'm proud, I'm ready, I'm hyped, plus, I'm amped
Most of my heroes don't appear on no stamps
Sample a look back, you look and find nothing
But rednecks for four hundreds years if you check
俺は黒人で誇りを持っている、準備はできている、ハイプだ、さらにアンプされている
俺のヒーローのほとんどは切手には載っていない
振り返ってみろ、見ても何も見つからない
400年間、レッドネック(白人優越主義者)しかいなかったとわかるだろう
"Don't Worry Be Happy" was a number-one jam
Damn, if I say it, you can slap me right here
Get it, let's get this party started right
Right on, come on
What we got to say?
Power to the people, no delay
Make everybody see
In order to fight the powers that be
「Don't Worry Be Happy」がナンバーワンのジャムだと?
くそ、もし俺がそれを言うなら、ここで俺を叩いてくれ
わかったか、このパーティーをちゃんと始めよう
そうだ、さあ来い
俺たちは何を言わなければならないか?
民衆に権力を、遅れるな
全員に見せろ
現在の権力構造と戦うために
Fight the power
Fight the power
Fight the power
Fight the power
We've got to fight the powers that be
権力と戦え
権力と戦え
権力と戦え
権力と戦え
俺たちは現在の権力構造と戦わなければならない
What we got to say? (Yeah)
Fight the power (Y-y-yeah)
What we got to say? (Yeah)
Fight the power (Come on)
What we got to say? (Yeah)
Fight the power (Y-y-yeah)
What we got to say? (Yeah)
Fight the power (Come on)
俺たちは何を言わなければならないか?(そうだ)
権力と戦え(イェー・イェー・イェー)
俺たちは何を言わなければならないか?(そうだ)
権力と戦え(さあ来い)
俺たちは何を言わなければならないか?(そうだ)
権力と戦え(イェー・イェー・イェー)
俺たちは何を言わなければならないか?(そうだ)
権力と戦え(さあ来い)
Yo, check this out, man
Okay, talk to me about the future of Public Enemy
The future of Public Enemy got a—
ヨー、これを聞いてくれ
オーケー、Public Enemyの未来について話してくれ
Public Enemyの未来は——
映画との関係
Spike Leeは映画制作開始前からPublic Enemyに接触し、「怒り・反抗・強いリズム」を持つ曲を依頼した。映画はNYブルックリンのベッドフォード=スタイヴェサント地区を舞台に、1日の人種間緊張とその爆発を描く。「Fight the Power」は映画の冒頭で主人公Mookieがラジカセから爆音で流す曲として登場し、コミュニティの怒りと活力を体現する。ラジカセが壊されるシーンは「黒人の表現の自由が暴力的に封殺される」ことのメタファーとして機能する。
ブラックパワームーブメント
1960年代のブラック・パンサー党、マルコムXの「Any means necessary(いかなる手段を用いても)」の哲学、Stokely Carmichaelの「Black Power」スローガン——これらの急進的な政治言語を、Chuck DはThe Bomb Squadのノイズとともに1989年のヒップホップに接続した。「Fight the Power」はヒップホップが「ストリートの娯楽」から「政治的プロテスト運動」へと進化したことを宣言した曲として位置づけられる。S1Wsのステージ演出(黒のユニフォームに模擬銃)はブラック・パンサー党の視覚的美学の直接的な継承だった。
キーワード解説
制作秘話 01
Chuck DはRun-DMCのツアー「Run's House Tour」中、イタリア上空を飛ぶ飛行機の中で歌詞の大半を書いた。Spike Leeから「怒っていて、反抗的で、非常にリズミカルな曲」という注文だけを受けた状態で、アメリカから遠く離れたヨーロッパの空の上でこそ、アメリカの権力構造への怒りが最も明確に言語化できたという逆説的な創作状況が興味深い。
制作秘話 02
Hank Shocklee、Keith Shocklee、Eric SadlerからなるThe Bomb Squadは、単純なサンプリングではなく音の「衝突(collision)」を意図した。「Fight the Power」には複数の異なるリズム・キー・テンポのサンプルが意図的にずらして重ねられており、不協和音的な緊張感がトラック全体を貫く。James BrownのFunky Drummerのブレイク、Branford Marsalisの生サックス(意図的に不協和なコード進行の上で即興させた)、公民権運動時代のスピーチサンプルなどが衝突する「ノイズとしての怒り」の音響哲学。これは同時代のAtlantic RecordsやMotown的な「きれいなR&B」への真っ向からの対抗。
制作秘話 03
サックス奏者のBranford Marsalis(ウィントン・マルサリスの弟)がレコーディングに参加した。プロデューサー陣はMarsalisに「正しいコード進行に合わせて吹かないでくれ」と頼み、あえてミスマッチな音楽的文脈の中で即興演奏させた。この「意図的な不協和音」はジャズのフリー・インプロヴィゼーションの精神をヒップホップに持ち込む試みであり、同時に政治的な抵抗(規則から外れること)の音楽的体現でもあった。Marsalis自身もこのアプローチに驚いたと証言している。
後世への影響
「Fight the Power」はヒップホップが「娯楽」から「政治的プロテストの手段」になれることを世界に証明した。この曲の存在なしに、2Pacの「Changes」、Mos Defの「Mathematics」、そして2015年のKendrick Lamar「Alright」(BLM運動のアンセム)は存在しなかっただろう。
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Fight the Power / Fear of a Black Planet
Public Enemy
Public Enemy
Long Island, New York · 1985–
Chuck D、Flavor Flav、Terminator XらによるグループとThe Bomb Squadのプロデュースチームで構成。ブラックナショナリズム・反人種差別・権力批判を武器に政治的ヒップホップの頂点を更新し続けた。Rolling Stone誌「史上最も偉大な500曲」2位を獲得した「Fight the Power」(1989)はBLMムーブメントでも繰り返し召喚される。