1997年、Wu-Tang Clan全9人が1トラックに揃ったことがなぜ奇跡だったか。各MCの個性とバースの役割を読み解く。
Wu-Tang Clanは1992年の結成時から、メンバーそれぞれがソロ契約を持てる「フランチャイズ」モデルを採用していた。RZAが各メンバーの権利を管理しつつ、Loud Records(Wu-Tang名義)以外のレーベルでもリリースできる異例の契約だ。
その結果、1997年のTriumphリリース時点でメンバーは複数のレーベルに分散し、スケジュール調整は困難を極めた。それでも全9人が1トラックに揃ったのは、Wu-Tangというブランドへの帰属意識と、RZAのスタジオ掌握力あってのことだ。
オープニングを任されたInspectah Deckは、Wu-Tang随一のリリシストとして曲全体のトーンをセットする。「I bomb atomically」から始まるバースは高密度の韻と情報量で、他のメンバーへのハードルを一気に引き上げる役割を持つ。
イメージの断片を積み重ねる独自のスタイルで、映画的な情景を作り出す。具体的なブランド名・地名・人名の羅列が、ニューヨークのストリートを鮮明に描写する。
Only Built 4 Cuban Linxリリース直後のRaekwonは絶頂期。暗号化されたストリートスラングで語られる「証言」は、リスナーを犯罪ドラマの傍聴者にする。
残りのメンバーも短いながら個性を発揮する。U-Godのハードなフロウ、Method Manのフック職人的センス、ODBの混沌——それぞれが化学反応を起こし、9人が揃ったことの必然性を証明する。
Triumphには公式MVが存在しない(後年ファンメイドのものは複数存在する)。それでも「Hip-Hopにおける最高のポッセカット」として繰り返し名前が挙がるのは、純粋にリリックとフロウの力だけで成立しているからだ。
Protect Ya Neck(1993)はWu-Tangの最初期ポッセカット。Triumphとの4年間の進化を比較すると、各メンバーの成長が一目でわかる。